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過去の名作たち

  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 14:55:53 URL [ 編集 ]
    設定が不気味なくらい現実的過ぎて暗くなる
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 15:52:07 URL [ 編集 ]
    良作
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 17:02:27 URL [ 編集 ]
    どうせ後で復縁するんだろ
  4. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 23:57:33 URL [ 編集 ]
    不愉快だ 律なら別れようとしないだろ
    こういうので深いなて思わせたいんだろ?死ね
    時間無駄にした
  5. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/16(水) 03:45:12 URL [ 編集 ]
    けいおんSSじゃなかったら良作だった

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澪「First Love」

  1. 名前: 管理人 2011/02/15(火) 12:19:38
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:23:50.86
    窓から見える景色は、知らないものだった。

    それは、今までは目を向けていなかったからかもしれないし、

    目に溜まった、涙のせいなのかもしれない。


    カバンからオーディオプレイヤーを取り出し、イヤホンをはめる。

    聴きたい曲は決まっている。

    優しいピアノとギターの音色、それに乗せるフェイク。

    表面張力の限界を超えて、涙は薬指に流れ落ちた。

    つい先ほどまで、そこで光っていたものの代わりのように。


    3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:25:22.64
    キッカケは何だろう。

    考えても思い出せない。

    ただ好きにならない理由が、なかっただけなのかな。

    人生の半分以上を一緒に過ごして、

    泣くのも笑うのも、隣にはいつも律が居たんだから。

    思い出と呼べるものほぼすべて、律と分かち合ってきた。

    忘れたくないものばかり。

    思い出を抱え過ぎて、たとえ両手が塞がれていても、

    わたしはそれを捨てたくない。

    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:26:07.52
    また窓の外に目をやる。

    やっぱり、知らない景色だった。

    電車に乗り込んで数分。

    ほんの数分で、こんなに変わるんだ。

    きっとこの気持ちもいつか、いい思い出になる。


    You are always gonna be my love

    ――あなたはいつまでも、わたしの大切な人。

    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:26:53.94
    律「なあ澪、一緒に暮らそうぜ」

    澪「んー、どうしようかな」

    律「何で迷うんだ?」

    澪「だって…」


    大学進学も決まった冬の日。

    少しずつ大人に近づいていく過程を実感し、その中で気付いたもの。

    わたしのこの気持ちは、世間一般では『異常』と思われるらしい。

    それを否定は出来ない。

    この気持ちを言葉に出来ないのは、何処かでそれをわかっていたから。

    言葉にすれば終わる。

    それなら静かに、思いが薄れていくのを待つ方がいい。

    そんな日がいつか来てくれる。


    そう、思っていた。

    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:27:47.41
    律「…あのさ」

    澪「何だ?」

    律「わたし、な…」

    澪「…」

    律「…聞いてる?」

    澪「あ…うん、話すの待ってた」

    律「あ、ごめんごめん…」

    澪「うん、どうした?」

    律「…わたしさ、好きなんだ」

    澪「…え?」

    律「…変だと思うよな、やっぱり」

    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:29:06.65
    澪「えっと…」

    律「澪のこと、好き」

    澪「…ありがと、わたしも好きだぞ?」

    律「…ごめん、そういう意味じゃないんだ」

    澪「…よくわかんないよ」

    律「澪が思ってる好きではないんだ、付き合いたいとか…そういう好き」

    澪「…」

    律「ごめん忘れろ!わたしも忘れるから!…これからもいい友達で居てくれな!」

    澪「…律」

    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:30:38.06
    澪「…わたしもそういう、好きだよ」

    律「え…マジ?」

    澪「…うん」

    律「嘘だ…」

    澪「ほんとだよ」

    律「…気遣わなくていいんだぞ、友達のままで居れるって思ってるから」

    澪「…でも言えなかった。嫌われたくなかったから」

    10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:31:41.01
    澪「…そしたら律から言っちゃうんだもん、悩んでて存した気分だ」

    律「そっか…」

    澪「うん…」

    律「…よかった、嫌われないで」

    澪「…嫌いになるわけないだろ」

    律「でも怖かったもん」

    澪「まあ…そうだな、わたしも怖かったから」

    律「…あのさ、1回しか言わないからちゃんと聞いて」

    澪「…はい」

    律「…愛してる、付き合って欲しい」

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:33:00.41
    澪「…えっと」

    律「…返事は?」

    澪「…うん」

    律「…よっしゃー!」

    澪「…ははっ」

    律「え…何で?」

    澪「…何が?」

    律「泣いてるじゃん…」

    澪「笑いたいのにな、変なの」


    溢れてくる涙に気付かされる。

    自分がどんなに、律を好きなのか。

    好きな人に思われていることが、どんなに嬉しいことか。

    わたしの初恋は実を結んだ。


    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:34:18.91
    大学は遠いから。

    家賃も半分になるから。

    1人で暮らすのは不安だから。

    …律と一緒だと、楽しいから。


    色んな理由を口にした。

    思えば今まで、こんなに何かをお願いしたことはなかったと思う。

    愛情たっぷりの一人っ子で、欲しいものは大抵与えてくれた。

    わがままだって聞いてくれた。

    その分、過保護気味な両親を説得するのは、思った以上に大変だった。

    自分が必死になればなるほど、親にも言えない恋をしてることを辛く感じた。


    「…勝手にしなさい」


    言っても聞かないわたしに、両親は呆れた顔をした。

    それでも、わたしはこれからの生活に胸を躍らせた。

    14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:35:38.13
    律「どうだった?」

    澪「ああ…結構大変だった」

    律「…だろうな」

    澪「うん、でも大丈夫だよ」

    律「その分、澪のこと大切にするから」

    澪「ほんとに?」

    律「当たり前だろ?」

    澪「ふふ、よかった」

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:37:37.08
    律「…みんなには話す?」

    澪「わたしたちのこと?」

    律「うん、澪はどう思う?」

    澪「わたしは…全員、には話さなくてもいいと思う」

    律「嫌か?」

    澪「そうじゃないけど…話したところで、みんなが賛成してくれるとは限らないし」

    律「そりゃあそうだな…」

    澪「悲しい気もするけどな。でも誰かに間違ってる、なんて言われても…律と居たいから」


    ごく親しい友人たち、つまり軽音部の3人にだけわたしたちのことを話した。

    3人は自分のことのように喜んでくれ、その後も何ら変わらず接してくれた。

    それ以外は、親にも、友だちにだって、言えないものだった。

    話すことが出来れば楽とは限らない。

    もし話して、誰かが間違いだと言っても。

    …わたしは律と歩んで生きたい。

    それが幸せだって、思ってるから。

    16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:38:45.33
    大学に入って、律との生活も始めて。

    変わったことと言えば、軽音部5人で集まる頻度。

    受験生の梓を無理に誘うことは出来ないし、梓抜きで練習する気にはなれなかった。

    4人で会っては、ただ目的もなくお茶して。

    梓が出てこれる日には、スタジオを借りる。

    それでも結局部活と同じで、今まで以上に律は唯とふざけあった。

    わたしとムギはそれを笑って、梓はもう、それを怒らなかった。

    目的もなく、ただ趣味としてバンドを続ける。


    「目標は武道館」

    そんな大それた言葉は、ただの冗談になっていった。

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:39:52.85
    そのうち、お互いバイトも始めた。

    実家からの仕送りはもらっていたけど、それにはほとんど手をつけなかった。

    いつか返そう、ふたりでそう決めた。

    これから背負うであろう人生への、せめてもの償いの気持ちだった。


    律は入学すぐ、楽器店で働き始めた。

    わたしは少し経ってから、結婚式場。

    会場設備や配膳だとか、後片付け。

    たまたま見つけたバイトだったけど、時給も良くて。

    きっと自分は経験しないから、それを外側から見る。

    幸せそうな会場で、わたしも手を叩く。

    時々、感動で本当に泣きそうになることだってあった。

    今思えば、少し自虐的かもしれない。

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:40:56.44
    律「結婚式場?」

    澪「うん、時給良くて」

    律「…そっか」

    澪「何か、やっぱりダメかな?」

    律「いいんじゃない?別に」

    澪「でも、律ちょっと怒ってるじゃん」

    律「違うよ、そうじゃない」

    澪「じゃあ何?」

    律「…悲しくなんない?」

    律「自分たちじゃ出来ないこと、遠くから見てさ」

    澪「…いつかしようよ」

    律「自分たちで?」

    澪「うん、唯たち呼んでさ」

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:42:28.40
    律「…じゃあさ、指輪いるよな?」

    澪「お揃いの、シンプルなやつな」

    律「安くても文句言わない?」

    澪「言わないよ」

    律「良かった…もう買ってあるんだよな~」

    澪「…え?」

    律「給料3か月分、とは言えないけど」

    澪「冗談だろ?」

    律「違うよ、やっとバイト代入ったからさ」

    澪「…サイズとか、知らないくせに」

    律「何となくだけどわかるよ、カバンに入ってるから見てみ?」

    20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:43:36.16
    澪「…これ?」

    律「そう、開けてみて」

    澪「…ほんと、お揃いだ」

    律「りつ、って入ってるのが澪のだから」

    澪「ねえ、はめていい?」

    律「ダメ」

    澪「ダメなの?」

    律「わたしがはめてやる、おいで」

    21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:46:40.45
    律「ほら、ピッタリじゃん」

    澪「ほんとだ…」

    律「わたしよりちょーっとだけ、サイズ大きくしてもらったんだ」

    澪「…聞きたくなかった」

    律「そういう意味じゃなくてさ、利き手の指のが太いから」

    澪「…何でもわかってるな」

    律「当たり前だろ~?」

    澪「ねえ、律にもわたしがはめていい?」

    律「…お願いします」

    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:47:40.86
    澪「ピッタリ」

    律「いや、わたしはサイズ測ったし」

    澪「…そうだった」

    律「わたしのには、みおって彫ってもらったんだ」

    澪「何か、変なの」

    律「自分の名前が良かった?」

    澪「ううん…律がいい」

    律「繋がってる感じ、するだろ?」

    澪「するな、いつも一緒に居るみたい」

    律「…なくすなよ?」

    澪「大切にする、ありがとう」

    律「…なあ澪、キスしよう」


    答える間もなく、自分から唇を触れ合わせた。

    その日から、ふたりの薬指には同じものが光った。

    宝物だったけど、今はそれもなくなった。

    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 22:48:57.80
    外では手を繋ぐことも、抱き合うことも避けた。

    わたしたちのことを知らない相手には、お互いを嘘で語るしかない。

    表情では笑っても、心の奥は寂しさが積もる。

    それを腐食するように、家では身体を重ねた。

    ふたりの素肌が癒着して、ほどけなくなれば良いと思った。

    それを言葉にすると、律は悲しそうに笑う。

    そんな顔を見たくなくて、そっとキスをした。

    またふたりは、重なり合っては果てた。


    薬指が真実を語ってくれる。

    それだけが、ただ一つの自信だった。

    26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:03:30.45
    律と暮らし始めて1年が経った。

    梓は最後までうちの大学と迷い、最終的に音楽の専門学校に進学を決めた。

    自分を犠牲にして欲しくない、わたしたちの言葉の後押しからだった。


    それでも定期的に会って、惰性のように今まで作った曲を演奏する。

    唯や律、ムギまでもミスが目立った。

    それに反比例して、梓はどんどん上手くなっていく。

    入部した時だって驚くほどの腕だったのに、まだ伸びしろを持っていることに感心する。

    なのに、わたしはそれに着いていこうとは思わなかった。


    わたしたちの5人の関係に、もう『音楽』は必要なくなっていた。

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:05:13.69
    律は相変わらず、講義には適当に出てバイトの毎日。

    わたしは講義とバイトに加え、資格取得のためダブルスクールを始めた。

    ブライダル業界で真面目に働きたい、そう思うようになったからだ。


    忙しい毎日、我ながらよく頑張ったと思う。

    誰かの幸せに携わって、自分も幸せになれる仕事。

    やっぱり少し、憧れを持っているのかもしれない。

    幸せそうに笑う新婦に自分を重ねた。

    今のわたしには、それが出来ないから。


    律は応援してくれた。

    家事もほとんど担当してくれたし、休みが合わせられなくても文句は言わなかった。

    愚痴だって聞いてくれたし、その度抱きしめてくれた。

    自分ばっかり辛いと思っていたのは、律に甘えてたせいだろう。

    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:07:30.24
    三回生になった。

    晴れて、1年でプランナーの資格を取得した。

    律はささやかなお祝いをしてくれた。

    スケジュールの都合から取れなかった講義を、その年に取る。

    律とも、軽音部のみんなともたくさん遊んだ。

    バイトも変わらず、出来るだけ入った。

    相変わらず忙しい毎日だった。


    6月。

    社会はジューンブライドへの憧れを、少なからず持つようだ。

    この梅雨の時期に結婚したいなんて馬鹿げてる。


    その日は式が押してしまい、帰るのが遅くなった。

    いつ降り出すかわからない雨。

    傘を片手に、よく一緒になる同い年の男の子が、駅まで送ってくれた。

    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:09:56.04
    「秋山さんっていつも指輪してるよね、彼氏から?」

    「うーん、ちょっと違うかな」

    「…悲しい恋なの?」

    「…そんなんじゃないよ」

    「好きだけど、彼氏じゃないってことだよね?」

    「まあ、そうなるかな」

    「よかったら、話してくれない?」

    「えっと…」

    「話したくないならいいよ、ごめん」


    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:11:08.60
    「…ねえ、俺と付き合ってみない?」

    「…え?」

    「好きじゃなくていいよ、でも今みたいに悲しい思いさせないし」

    「悲しい思いなんてしてないよ」

    「じゃあ何でそんな顔したの?」

    「…ごめん、付き合えない」

    「いや、俺こそ…でもさ」

    「その人のこと好きだから、付き合ってるから」

    「…それでいいの?」

    31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:13:26.28
    「…わかったフリしないで、ほっといて」

    「…ごめん」

    「ありがとう、もう1人で大丈夫だから」


    きっと彼は不倫だとか、そういうものを想像したんだろう。

    律は彼氏じゃないし、わたしだって彼氏じゃない。

    だからって、女の子が好きで、その子と付き合ってる、なんて言えなかった。

    悲しい思いなんてしてない。

    心で否定して、何となくやりきれない気持ちになる。

    急に律の顔が見たくなって、家路を急いだ。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:20:33.27
    律「おかえり、遅かったな」

    澪「ただいま、式が押しちゃって」

    律「雨降らなくてよかったな、疲れただろ?ご飯出来てるよ」

    澪「律もまだなの?」

    律「澪と食べようと思ってさ」

    澪「お腹空いてる?」

    律「うん、何で?」

    澪「ううん何にもない、食べよっか」


    律はその日あったことを楽しげに話す。

    それはあまり、耳に入ってこなかった。

    半ば惰性のように、箸を口元へ運ぶ。

    味もあまり、わからなかった気がする。

    33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:21:38.73
    律「よし、さげるぞー」

    澪「あ、わたしも手伝うよ」

    律「いいよ、疲れてるだろ?」

    澪「大丈夫、一緒にやろ」


    並んで食器を洗った。

    ふたりが立つと、この流し台は狭い。

    絶え間ない水音。

    それにかき消されないよう、奥から言葉を振り絞る。

    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:23:37.58
    澪「あのね」

    律「ん?」

    澪「今日、バイト先の子に『付き合って』って言われちゃった」


    わたしの言葉が、あるいは律の言葉が、水音に消されてしまったのかな。

    律の声は聞こえてこなかった。

    またわたしは話を続ける。


    澪「断ったよ、もちろん」

    律「…そっか」

    澪「好きな人居るって、その人と付き合ってるって」

    律「…」

    澪「…ごめんね」


    ごめんね。

    自分で言った言葉なのに、その意味すら危うかった。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:25:19.11
    律「…何で?」

    澪「律のこと好きだから」

    律「違うよ、何で謝ったんだ?」

    澪「…何でだろう、わかんない」

    律「…謝ったら、悪いことしたみたいだぞ」

    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:26:23.30
    澪「…ほんと、そうなっちゃうな」

    律「したの?」

    澪「…ううん、してない」

    律「…そっか」


    よかった。

    消えそうな声で、律は続けてそう言った。

    少しだけ、ふたりの間に沈黙が降りた。

    それに耐えられなくなったわけじゃない。

    ただ、律に触れたくなっただけ。


    「ねえ律、ベッド行こう」

    40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:31:14.49
    うん、と小さく頷いた律の手を取る。

    シャワーも浴びずにベッドへ上がった。

    キスして、脱がして、抱き寄せて。

    舌を這わせて、柔らかい肌に吸い付いて、自分だけの印をつける。

    たったふたり、手探りで覚えた行為。


    もっと深い部分に触れたくて、濡れた皮膚の間に指を滑り込ませた。

    すると律は、熱い息を一気に漏らした。


    「我慢しないで、わたししか聞いてないよ」

    その言葉が耳に届いたのか、艶っぽい声を部屋に響かせた。

    41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:35:01.95
    わたしは律のそんな姿を見ながら、さっきの自分の言葉の意味を探す。


    ごめんね。

    こんな話してごめんね。

    好きになってごめんね。

    わたしが女でごめんね。

    わたしで、ごめんね。


    そこまで言い終わったところで、律は果てた。

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:37:30.43
    少しして、立場が逆になる。

    律がわたしに被さって、わたしの声が響く。

    愛してるよ、律。

    大丈夫だから、わたしたち。

    幸せだよね?

    わたしの右手を握る律の左手には、指輪が光ってる。

    シーツを握るわたしの左手にだって、同じものが在るんだから。

    お互いの名前を刻んだ、宝物。


    心で問いかけて、結局は自分に言い聞かせる。

    そうしてる間に、限界に近づいてきた。

    考えはふわっと消えて、わたしは体を震わせた。


    その日、ふたりはそのまま眠りに落ちた。

    43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:38:40.25
    その夜から数日、テーブルに英字の書かれた箱が置かれていた。


    澪「ねえ、これ律の?」

    律「あ、うん、そうだよ」

    澪「タバコ?吸うの?」

    律「嫌な奴になろうと思ってさ」

    澪「何だそれ」

    律「まあいいじゃん、苦手だった?」

    澪「自分で吸おうとは思わないけど、平気」

    律「何だ、怒るかと思った」

    澪「成人してるんだし、いいんじゃないか?」

    律「へえ…意外だな」

    44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:39:53.22
    澪「まあ間違いなく、体には良くないと思うけど」

    律「いいんだ、子ども産むわけじゃないし」


    「そうだな」とも言えずに、ただ笑顔を作る。

    わたしたちには、出来ないことが多い。

    だから好きなことを選んで、体に悪くても楽しめばいい。


    そんなことを考えていると、律はその箱を持ってベランダに出た。

    閉まり切らなかったカーテンの隙間から、姿を見た。

    なかなか様になっている。

    わたしもベランダに出て、その姿に寄り添った。


    次の日、わたしは律に灰皿をプレゼントした。

    45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:42:54.89
    周りが就職活動を始める。

    例外なく、わたしも唯も、走り回った。

    ムギだって、親の会社に入社するつもりはないと、柄にもなく大変そうだった。

    1つ下で、3年制の学校に通う梓もちょうど同じタイミングだった。

    ただ1人、律だけはそんな様子がなかった。


    澪「律は就活しないのか?」

    律「あー、就活な」

    澪「焦ったそぶり見えないけど、大丈夫か?」

    律「…わたしさ、バイト先に就職しようと思ってる」

    澪「もう、決めたの?」

    律「店長がさ、これだけシフト入れて、学校行けてないなら自分のせいだって言ってくれてて。

      卒業して、もしわたしが良ければ正社員でって」

    澪「そっか、なら安心だな」

    律「うん、だから卒業してもわたしはこの家に残るよ」

    46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:44:12.31
    律「…澪は東京方面で探してるんだろ?」

    澪「うん…この辺じゃ仕事ないんだ、残念だけど」

    律「応援してるよ、せっかく頑張って資格取ったんだし」

    澪「それも使えるかわかんないけどな、就職難って怖いよ」


    こんな話するだけで、少し大人になった気がした。

    就職したら、離れ離れになる。

    でもそこまで遠くないし、遠距離恋愛なんて呼べる距離じゃない。

    寂しければ、電話で話せばいい。

    それでも寂しければ、会いに行けばいい。


    そう思わせたのは、説明会や面接に向かう電車の中でのメールだった。

    律はいつも、わたしにメールをくれた。

    別に目新しい話題なんてなかった。

    それでも何往復もやり取りを交わして、気付けばすぐに目的地に着いていた。


    だから、今見るこの景色だって、知らないんだと思う。

    47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:46:33.24
    何社も受けて、やっと内定までこぎ付けた数社。

    結局は、やっぱりブライダル関連の会社に就職を決めた。

    無事就職も決まり、必修授業の単位も順調に取得し、後は卒論を仕上げて卒業を待つのみ。


    そんな冬の日、久しぶりにみんなで集まった。

    わたしたちの家で、卒業目前と題した飲み会だった。

    5人では少し狭いこの部屋。

    全員が揃うと、一気に騒がしくなった。

    48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:47:21.23
    唯「何かみんなで会うの久しぶりな気がするね~」

    澪「そうだな、なかなか会えなかったし」

    律「今日はゆっくりいっぱい飲もうぜ!」

    梓「案外最初につぶれるの、律先輩かもしれませんね」

    澪「はは、そうかも」

    律「黒髪2人、うるさい」

    紬「わたし、記憶がなくなるまで飲むのが夢だったの~!」

    唯「叶うといいね~」

    律「じゃあ始めるか、みんな手元に酒はあるか~?」

    梓「大丈夫です」

    唯「あるよ~」

    紬「ありま~す」

    澪「うん、あるぞ」

    律「それでは、カンパーイ!」

    49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:49:01.32
    5つの缶がぶつかって、それを各自口に運ぶ。

    料理はわたしと律、ふたりで用意した。

    適当につついて、話に花を咲かせる。


    唯「あずにゃんはどういう仕事するの?」

    梓「ギターの製作だとか、修理だとかを請け負う、楽器屋のメンテナンス係です」

    紬「ギター作れるの!?」

    梓「ええ、クラフトのコース取ってたんで」

    律「何だ、演奏したいんだと思ってた」

    澪「わたしも…何か意外だな」

    梓「音楽技術を学んでいくうちに、自分のギターが嫌いになった時期があって…

      それでも音楽、むしろ楽器に携わっていたくて、それで」

    唯「そっか~、上手くても悩むことがあるんだね」

    梓「…ただ上手くなるだけなら、努力で何とでもなりますよ」

    紬「後はセンスってことね」

    梓「ええ、その点では唯先輩を追い越せませんでした…悔しいですが」

    50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:50:46.96
    紬「そんな唯ちゃんは幼稚園だよね?」

    唯「そうだよ~」

    律「唯に子どもを任す親…心配だろうな」

    唯「失礼な!これでもちゃんと資格取ったんだよ~」

    澪「頑張ってたもんな、昔からの夢だろ?」

    唯「うん、まあ自分では覚えてないんだけどね」

    梓「でもすごく似合います」

    律「一緒に遊んでる姿だろ?」

    梓「そうです、目に浮かびますよね」

    唯「この人たちほんとひどいよ…」

    52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:54:54.34
    澪「ムギは輸入雑貨扱う会社だっけ?」

    紬「うん、そうよ~」

    唯「駅前にお店ある会社でしょ?わたしあそこ大好き~」

    律「買い付けとかやるのか?」

    紬「最初は販売員からなんだけど、知識つけた後は仕入れや買い付けだって」

    梓「海外まで行くんですね、何かかっこいい」

    唯「でもムギちゃんはお父さんの会社に入ると思ってたよ~」

    律「な、もったいない」

    紬「わたしが望まなかったし、父がダメだって」

    澪「そうなのか?」

    紬「最初から狭い世間に入ってしまうと、自分で何も学べないからって。

      もちろんゆくゆくは、家族の手伝いをしたいなって思ってるよ」

    律「…ムギらしいな」

    梓「…そうですね」

    56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:59:31.16
    唯「りっちゃんは今のバイト先だっけ?」

    律「そうだぞ、就活もせずに運いいだろ?」

    梓「そうですね」

    律「後輩に言われると何かムカつく!」

    紬「でも本当、音楽に関われる仕事で良かったね」

    律「本当は音大でも出なきゃ、楽器屋に就職って難しいからな」

    唯「そうなんだ?」

    律「うん、大手じゃ名の知れた音大出の店員がごろごろいるよ」

    梓「そうですよ、専門の友達だって落ちまくってます」

    澪「じゃあ本当に律は運良いんだな」

    律「そりゃあ伊達に学校サボってバイトしてないぞー」

    澪「威張るところか!」

    57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:02:07.26
    紬「まあまあ澪ちゃん」

    唯「頑張ってたのは澪ちゃんが一番知ってるんだから~」

    澪「…まあ、そうだな」

    梓「澪先輩はブライダル関連の会社ですよね?」

    澪「ああ、ブライダルのプランナーだよ」

    紬「頑張ってたもんね~」

    唯「本当、ダブルスクールなんてよくやるよ~」

    律「…マジでな、よく頑張ったよ」

    紬「あらあら」

    唯「熱いね~」

    梓「アツアツです」

    澪「やめてくれっ」

    58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:04:36.06
    唯「自分たちの結婚式もプラン出しちゃうんだね~」

    紬「その時は呼んでね?絶対よ!」

    澪「はいはい、約束するよ」

    梓「楽しみにしてます」

    唯「…でも、離れ離れになっちゃうんだね~」

    澪「うん、まあ…近いし大丈夫だよ」

    紬「澪ちゃんたちなら大丈夫よ、ねえりっちゃん」

    律「…わたし、本当に応援してるからな」

    澪「…何だよ、そんな真剣な顔して」

    唯「見せ付けてくれるね~」

    紬「澪ちゃん顔赤~い」

    梓「お酒のせいではないですね」

    59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:05:16.74
    そう笑いあって、夜は更けていった。

    結局誰もつぶれず、飲み会はお開きになった。


    澪「みんな泊まってけばいいのに」

    唯「そんな、2人のジャマは出来ないよ~」

    紬「そうだそうだ~」

    律「ムギかなり酔ってるな…」

    梓「そうだそうだ~」

    唯「あずにゃんも重症です」

    60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:06:12.16
    澪「…置いていっていいぞ?」

    唯「ううん、タクシー拾うから平気だよ~」

    律「気をつけるんだぞ~」

    唯「はーい、片付けて手伝わなくてごめんね」

    澪「気にするな、またな」

    律「おやすみ~」

    唯「おやすみなさ~い」

    61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:07:10.02
    騒がしかったこの部屋が、一気に静まり返る。

    テーブルの上の食器や空き缶をふたりで片付けた。


    流し台の前に並んで立つ。

    水は冷たいけど、アルコールに火照った体には気持ちよかった。


    澪「つぶれはしなかったけど、結構酔ってたな」

    律「うん、梓なんて首まで赤かった」

    澪「わたしのこと赤いってからかったくせにな」

    律「…なあ、本気で思ってるよ」

    澪「何が?」

    律「…応援してる、頑張ってな」

    澪「…何だよ、急に改まって」

    律「澪ならやれる、信じてるよ」

    62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:08:18.78
    「離れ離れでも、大丈夫かな」

    そう聞こうとした。

    自分でそう思ってても、律の口から聞きたくて。

    愛しい声で「大丈夫だ」って、言ってほしくて。

    聞こうとしたのに、聞けなかった。

    次に、律がこんなことを言うから。


    律「もう澪は、1人でも大丈夫だよ」

    澪「…え?」

    律「別れよう、わたしたち」

    64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:12:10.98
    急に…何?

    どうして…?

    聞き間違えた、では済まされないほどしっかり、その声は響いた。


    頭が真っ白になる。

    その中にこだまする、律の声。


    …律、何でそんなこと言うんだ?

    67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:13:22.77
    澪「…どうしたんだ?」

    律「どうもしないよ」

    澪「待って、わかんない」

    律「2回、言わせるつもりか?」

    澪「言わないでよ、聞きたくない」

    律「じゃあさ、そういうことだから」

    澪「何でそんなこと言うの?」

    律「思ったんだ、もう大丈夫だって」

    澪「大丈夫じゃないよ、まだ一緒に居たい」


    蛇口から流れる水を止めようともせず。

    その場で律に問いかける。

    律はこちらを見ない。

    なのに手は止まったままだった。

    68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:17:33.94
    澪「…離れ離れになるのが、問題?」

    律「そうじゃないよ」

    澪「じゃあ何?それが嫌って言うなら、わたしここに居るよ」

    律「…いつまで自分を犠牲にする気だ?」

    澪「何の話かわかんないよ…」

    律「大学だってわたしたちに合わせてさ」

    澪「犠牲になんしてない、自分で選んだんだぞ?」

    律「…今度は努力で手に入れた仕事まで、ダメにするのか?」

    70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:19:53.54
    澪「律のために何かを失っても…何かのために律を失いたくない」

    律「…バカか」

    澪「バカでいいよ」

    律「…そんなことさせられるか」

    澪「じゃあ…じゃあ律が来てよ!

      犠牲にしてるって言うなら…今度は律が犠牲になってよ」

    律「…出来ない」

    澪「…じゃあ離れても、一緒に居ようよ」

    71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:20:45.06
    律「…無理だよ」

    澪「何が無理なんだ?ちゃんと話してよ」

    律「…わたしと居ると、澪は幸せになれない」

    澪「わたし幸せだよ?今までだって、これからだって」

    律「幸せに結婚して、子ども産んで、それ全部出来ないんだぞ?」

    澪「いいよ、律が居てくれるなら」

    律「憧れのウエディングドレスも着せてやれない」

    澪「…仕事選んだ理由、そんなんじゃないよ」

    律「でも…辛いんだ」

    澪「…律はそうしたいの?結婚して、子ども欲しい?」

    律「ううん、思ったこともない」

    澪「じゃあ!」

    律「…でも澪がそう出来ないって考えると、悲しくなる」

    72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:21:43.70
    澪「何だよそれ…」

    律「わたしにだって、わかんないよ…」

    澪「自分でわかんないこと、わかれって言うのか?」

    律「そうだ」

    澪「…律」

    律「いつまでも依存してちゃいけないんだよ、わたしたち」

    澪「…好きだよ」

    律「…」

    澪「…律は、言ってくれないの?」

    74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:25:15.04
    律「…言わない」

    澪「何で…?」

    律「決めたから、もう言わないって」

    澪「勝手だよ…そんなの」

    律「ごめん…でも、ごめん」

    澪「…律、ベッド行こう?」

    律「…行かない」

    澪「じゃあキスする」

    律「…またそうやって逃げるのか?」

    75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:27:08.23
    澪「…またって?」

    律「バイト先の奴に告白されたって時、そうやって逃げた」

    澪「逃げてないよ…律に触れたかっただけ」

    律「逃げたよ」

    澪「違う、大体断ったし、悪いことなんてしてない」

    律「…あの時気付けばよかったよ、一緒に居るべきじゃないって」


    そう言って、残った食器もそのまま律はソファに座った。

    わたしはその場でしゃがみ込み、さめざめと泣いた。

    律がつけたテレビからは、甲高い笑い声が聞こえる。

    律は、笑っていなかった。

    片手にはタバコ。

    白い煙が、天井に届かず消える。

    77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:29:22.77
    ひとしきり泣いた後、立ち上がる。

    律の意思は固いようだ。

    これが、最後。


    澪「ねえ律」

    律「…ん」

    澪「わたし、そんなの納得いかないよ」

    律「…勝手なのはわかってる」

    澪「こんな風に別れるなら、この家出るのを最後にする」
     
    律「…澪」

    澪「それからもう…一生会わない」

    78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:30:17.94
    もし、心変わりなら仕方ない。

    律に好きな人が出来て、うまくいって結婚なんてしてさ。

    わたしがプランした式に出席して、周りなんか気にしないで2人とも泣いて。

    涙の本当の理由なんて、わたしたち以外にはわからなくて。


    それでも、心から言うよ。

    「おめでとう」って。


    だけど…こんなの、受け入れられるわけないよ。

    納得のいく理由も聞けずに、好きな思いもそのままで…こんな風に別れを告げられても。

    友達にだって戻れるわけない。

    ―――――だから。

    79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:32:31.35
    「この家出ても一緒に居るのと、一生会わなくなるの、どっち?」



    テレビの声に、かき消されないようはっきりと。

    これでもう、後戻りできなくなる。

    少し時間を置いて、ゆっくり答えた。


    聞こえないフリなんて、出来なかった。

    自分が問いかけたんだ。

    答えは、それとなくわかっていた。



    「…一生、会わなくなる」



    82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:37:51.72
    何も言わず、リビングを出て寝室に向かう。

    独りでは広すぎる、ダブルベッドに身を預けた。

    真っ暗な部屋で、わたししかここには居ない。

    この世の最後、世界の終わり。

    あの時の気持ちを言い表すなら、きっとこんな言葉が似合う。


    律はその日、ベッドには来なかった。

    涙を拭う手、顔を引っかく指輪も外したくはなかった。

    そのままわたしは、涙とともにベッドへ溶ける感覚を味わった。

    83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:40:16.46
    目覚めると、律は居なかった。

    家のものはそのままで、出て行ったわけではなさそうだ。

    昨日の食器は片付いていた。


    講義があることも忘れ、昨日最後に律を見たソファーへ腰掛ける。

    綺麗に畳まれた毛布が置かれてる。

    ここで寝たんだな、とわかった。

    その毛布を抱きしめて、飽きずにまた泣いた。


    それからしばらく、律と言葉を交わすことはなかった。

    84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:41:06.14
    まだ一緒に暮らしている。

    嫌でも顔を見なければならない。

    同じ部屋で生活しているのに、わたしたちは独りだった。

    共有しているのは、この部屋だけ。


    テーブルに置かれた風邪薬。

    袋には律の名前があった。

    それを気付きながら、気遣う声の1つも掛けられなかった。

    85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:41:49.46
    そんな時、携帯が鳴った。

    唯からの着信だった。


    澪「もしもし」

    唯「澪ちゃん、元気~?」

    澪「まあね」

    唯「よかった~」

    澪「どうかしたか?」

    唯「そうそう、りっちゃんのことなんだけどね」

    86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:42:46.24
    唯「電話しても出なくて、メールも返ってこないんだ~」

    澪「…そうなのか」

    唯「マンガ返す約束だったんだけどね、りっちゃんいる?」

    澪「今いないよ」

    唯「そっか~、どうしよう」

    澪「わたしが預かろうか?」

    唯「うーん、そうだね。お願いしていいかな?」

    澪「うん、いいぞ」

    唯「どうしよう、今から行ってもいい?」

    澪「待ってるよ」

    87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:44:31.75
    しばらくして、インターホンが鳴った。


    唯「お待たせ~」

    澪「いやいや、わざわざ悪いな」

    唯「ううん、お願いね」

    澪「どうする?上がる?」

    唯「澪ちゃん、今日のご予定は?」

    澪「特にないもないよ」

    唯「わたしも~、だからケーキ買っちゃった!」

    澪「はは、唯らしい」

    唯「一緒に食べよう?」

    澪「頂くよ、上がって」

    唯「おじゃましま~す」

    88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:45:18.81
    買い置きの紅茶を淹れる。

    とは言えティーパックだから、ムギのお茶には敵わないけど。


    澪「はい、お茶淹れたぞ」

    唯「ありがと、いただきます」

    澪「わたしもケーキ、いただきます」

    唯「それにしてもわたし、悪いことしたかな~…」

    澪「何が?」

    唯「りっちゃん、わたしのこと無視だもん。何かしちゃったかなって」

    澪「…違うと思う」

    唯「そうかな?」

    澪「いや、わかんないけど…最近話してないからさ」

    唯「ケンカしたの?」

    澪「…別れたんだ、わたしたち」

    90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:51:00.69
    唯「…え?」

    澪「別れようって言われちゃったよ」

    唯「何で…?」

    澪「うん、えっとな…」


    あの日、唯達が帰った後のことを話した。

    唯は紅茶から湯気が消えても、ケーキが倒れても。

    そちらには目を向けず、わたしの話を静かに聞いた。


    別れようと告げられたこと。

    律が一生会わなくなることを選んだこと。

    その日から、一言も話してないこと。

    91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:52:31.14
    唯「…変だよ、おかしいよ」

    澪「…唯」

    唯「そんなの…間違ってるよ!」

    澪「唯、いいんだ」

    唯「よくないよ、澪ちゃんは好きなんでしょ?りっちゃんのこと」

    澪「うん、大好きだよ」

    唯「りっちゃんだってそうなのに…」

    澪「…どうかな、もう言ってくれないよ」

    唯「ううん、わたしでも言い切れる」

    澪「そうだといいなって、思うけどな」

    唯「なのに、何で…」

    92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:53:18.21
    澪「いいんだ、もう受け入れたから」

    唯「…このままでいいの?」

    澪「仕方ないよ、わたしフラれたし」

    唯「…わたしが今日、りっちゃんに話すよ」

    澪「…唯」

    唯「帰ってはくるんだよね?それまで待つから」

    澪「唯!」

    唯「だって…だって…」

    93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:54:25.85
    澪「律はさ、幸せって何か考えたんだと思う」

    唯「一緒に居ることじゃないの?」

    澪「わたしはそう思う、そう思ってたよ」

    唯「…じゃあ」

    澪「でもさ、わたしも考えたんだ。それだと限りがあって」

    唯「限り?」

    澪「うん、世間一般に言われる幸せは手に出来ないだろ?わたしたちじゃ」

    唯「自分なりの幸せじゃ、ダメなの?」

    澪「自分、ならいいんだけど、相手が居るから」

    唯「よく、わかんないよ…」

    澪「わたしもわかんなかったよ、でもさ」

    94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:56:48.11
    「仕事も始めて、離れて暮らして、寂しくなっても隣に居ない」

    「忙しい毎日の中で、会えない相手を思うだけなんて辛すぎるだろ?」

    「…結婚出来るわけじゃないし」

    「全員が祝福してくれる関係だとは、とても言えない」

    「会っても、また帰る頃には、悲しくて仕方なくなる」

    「それならさ、いっそお互いのしがらみなんて、なくした方がいいんだよ」

    「そうして、たまに思い出してさ」

    「元気かな、幸せになっててほしいな、って」

    「律のこと、そう思ってる方が、ずっと…」


    唯は声を殺して泣いてた。

    わたしも気付けば涙を流していた。

    もらい泣きなのか、自分が悲しくて泣いてるのか、わからなかった。


    「…ずっと幸せなんだと、思えるよ」

    97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:01:23.33
    唯に言ったことは、ほとんどが嘘だ。

    まだ一緒に居たい。

    律のこと手放したくない、そう思ってた。

    でも律が選んだことだから、仕方ないんだ。

    だから目の前で泣く唯に言って、自分に言い聞かせる。


    唯「…言い切れるの?」

    澪「今はまだ、無理だけどな」

    唯「なら…」

    澪「わたしさ…律と付き合い始めた頃、自分でも間違ってるんじゃないかって思ったんだ」

    唯「そんなことないよ!」

    澪「でもさ、今はこうやって、別れることが間違ってるって言ってくれる唯が居る。
      
      自分のことのように泣いてくれる、唯が居る…それで少し、救われるよ」

    98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:03:08.39
    唯「だって…わたしも悲しいよ、2人が別れちゃうの」

    澪「ありがとう」

    唯「…もう、いいんだよね」

    澪「ああ」

    唯「本当に?」

    澪「本当」

    唯「そっか…わかった」

    99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:04:03.68
    唯は赤い目のまま、黙って残りのケーキを口に運んだ。

    冷えた紅茶で流し込んだ後、にっこりと笑った。

    紙袋に入った数冊のマンガを残して、帰っていった。


    再び、独りになった。

    おもむろに立ち上がって、冷蔵庫を開けた。

    律がいつ戻るか、今日戻るかはわからないけど。

    律と夕食がしたい。

    律と、話がしたい。

    そう思って、夕飯の支度をした。


    …気持ちは変わらないよ。

    時間が足りないせいとは思えない。

    でも、もうふたりは戻れないから。

    101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:06:24.63
    澪「おかえり」

    律「…ただいま」

    澪「よかった、帰ってきて。ごはんは?」

    律「…まだだよ」

    澪「出来てる、一緒に食べよう」

    律「…澪」

    澪「もうすがり付こうなんて、思ってないから安心して」

    102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:10:00.51

    律「…そうか」

    澪「唯が来たよ、律のこと心配してた」

    律「ああ…電話とか、出なかったからかな」

    澪「マンガ預かってる、テーブルにあるから」


    久しぶりに話した。

    何日ぶりだろう、わからないや。

    意外にもわたしは、きちんと目を見て話せた。

    律は何だかぎこちなくて、言葉に元気がないように見えた。

    その分、わたしはたくさん話した。

    103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:13:57.61
    澪「明日、向こうの家探しに行くよ」

    律「…そうか、気をつけてな」

    澪「うん、やっぱ向こうは高いんだろうな」

    律「そうだろうな、ちゃんと払えよ?」

    澪「当たり前だろ、律こそ1人で払えるか?」

    律「何とかなるよ、きっと」

    澪「しなきゃいけないんだよな、1人暮らしだもん」

    律「…そっか、寂しくなるな」

    澪「…はは、律が言い出したくせに」

    律「…ごめん」

    104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:18:27.12
    澪「謝るなよ、また辛くなる」

    律「…うん」

    澪「…好きだよ」

    律「言うなって…」

    澪「言わせてよ」

    律「だって…」

    澪「大丈夫、諦めてるから」

    律「そっか…」

    澪「ありがとうな、今まで」

    105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:21:30.88
    律「…こちらこそ」

    澪「今日からまた、一緒に寝ようよ」

    律「…それは出来ない」

    澪「何にもしないよ、ただ律風邪ひいてるだろ?」

    律「大丈夫だから、これくらい」

    澪「ダメだ、じゃあわたしがソファーで寝る」

    律「させられないよ」

    澪「じゃあ一緒に寝よう、本当に何もしないから」

    律「…わかった」


    その日から、また同じベッドで寝た。

    寝息を立てる律を横に感じながら、壁に顔を向けた。

    手を伸ばせば触れられる距離。

    そこに愛しい人が居ても、わたしは触れてはいけない。

    もう、そう決めたから。

    107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:24:00.02
    次の日、電車に乗り込む。

    座ると途端に目を閉じた。

    律からのメールは来るはずなくて、携帯はカバンにしまったままだ。

    いつもより、この時間が長い気がした。

    こんなに遠かったんだな。

    気付かなかった。

    本当に離れ離れになっちゃうんだ。

    実感したよ。

    109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 01:27:58.38
    向こうに着いて、最初に入った不動産屋で部屋を決めた。

    ワンルームの、とても狭い部屋だった。

    1人だから、このくらいで大丈夫。

    独りだから、このくらいがちょうどいい。


    思った以上に早く決まって、その日のうちに帰れる時間だった。

    だけど、敢えて向こうのホテルで1泊した。

    入居は卒業すぐ、という話をつけてきた。

    120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:00:48.29
    唯「澪ちゃんも泊まっていきなよ~」

    紬「澪ちゃんも一緒のほうが楽しいよね~」

    梓「そうですよ、お願いします」

    澪「ううん、今日は帰るよ」

    梓「そうですか…」

    澪「ありがとう梓、でも気を遣わなくていいから」

    梓「そ、そんなんじゃ…」

    澪「今はもうちゃんと話せるし、平気だよ」

    121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:01:40.48
    紬「…だって、梓ちゃん」

    唯「残念だね~あずにゃん」

    梓「…そうですね」

    澪「じゃあ帰るよ、おやすみ」

    唯「おやすみなさ~い」

    紬「おやすみ~」

    梓「…おやすみなさい」

    123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:02:59.15
    3人の優しさに、少し泣きかけた。

    でも泣かないよ、そう決めたから。

    火照る頬に冷たい夜風が当たる。

    冬の夜空は澄んでいて、とても綺麗だった。


    向こうは星も見えないんだろうな。

    そんなことを思いながら、家に帰った。


    寝室には、もう律がいた。

    律を起こさないよう、静かにベッドへ入った。


    「…おかえり」

    124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:04:15.58
    澪「ああごめん、起こしたか?」

    律「ううん、今ベッド入ったとこ」

    澪「そうか、よかった」

    律「…唯のとこ、行ってたんだろ?」

    澪「…知ってたなら、来ればいいのに」

    律「唯とムギはともかく、梓あたりにビンタされちゃうよ」

    澪「何で?」

    律「…澪を、泣かせたから?」

    澪「もういいんだ、忘れろ」

    125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:05:43.01
    律「…引越し、いつ?」

    澪「卒業式の次の日だよ」

    律「…そっか」

    澪「家具とかはあっちで揃えるから、心配するな」

    律「…見送り、行ってもいい?」

    澪「もう、心配するなって」

    律「わたしが行きたいんだ」

    澪「そっか…」

    律「ごめん、わがままで」

    澪「ううんありがとう、来てよ」


    それから、向こうとこっちを行ったりきたり。

    必要なものを揃え、生活できるよう配置した。

    やっぱりどこか、律との家に似ていた。

    127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:08:23.89
    卒業式は淡々と行われた。

    はかま姿のわたしたち。

    梓や憂ちゃんも来てくれて、みんなで写真を撮った。

    同じ家に居るのに、律とは別々に家を出た。

    遠くで、ゼミの子たちと写真を撮る姿が見える。

    わたしの写真には、一枚も写っていない。

    卒業式の写真で、律と一緒の写真がないのは初めてだった。


    そのまま4人でご飯を食べに行った。

    最後の夜も、律は顔を出さなかった。


    明日にはこの家とも…律ともお別れ。

    人生の半分以上を過ごした律と、4年間暮らしたこの家に別れを告げる。

    ふいに目が熱くなってくる。

    でも泣かない。

    固く目を閉じて、1人で眠りについた。

    129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:09:20.36
    律「おはよ」

    澪「早いな、昨日遅かったんじゃないのか?」

    律「うん、でも何か寝れなくてさ」

    澪「わたしもなんだ」

    律「そっか」

    澪「お茶淹れるよ」

    律「あ、わたしがやるよ」

    澪「そうか、ありがとう」


    そこから、何も話さなかった。

    話したいことがたくさんありすぎて、何を話せばいいのかわからなかった。

    沈黙が続く。

    時間はどんどん迫る。

    残酷だな、もう2度と会わないのに。

    130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:10:18.31
    澪「…そろそろ行かなきゃ」

    律「そうか、じゃあ出よう」


    2人で駅まで歩いた。

    思えば何度も往復した道。

    並んで歩くのは久しぶりだった。

    なのにまだ、何も話せない。


    とうとう駅に着いてしまう。

    わたしが切符を買って、その横で律は入場券を買っているようだった。

    改札を通っても、律は付いてこない。

    駅前のコンビニの前で、タバコに火をつけていた。

    その姿を遠目に眺めていた。

    やっぱり様になってる。

    きっとこの光景を、わたしは忘れないよ。

    131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:12:28.30
    短くなったタバコを灰皿に消し入れて、律はこっちに向かってくる。

    逃げるように、ホームの中ほどのベンチへ向かった。

    誰も居ないこの駅。

    腰掛けると、それを追うように律が隣に座った。


    律「あのさ」

    澪「ん?」

    律「元気でな」

    澪「…そっちこそ」

    律「ああ」

    133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:13:13.01
    澪「今まで、本当にありがと」

    律「何だよ、辛気臭い」

    澪「だってもう、会えないから」

    律「…そう決めたのは、わたしなんだよな」

    澪「そうだぞ、忘れたとは言わせないから」

    律「忘れない、澪のことも」

    澪「…もう、そんな風に言うなよ」

    律「本当だよ、忘れない」

    澪「…やめて、泣いちゃうよ」

    律「…ごめん」

    147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:31:04.40
    ――あなたが教えてくれた愛を、忘れない

    忘れてやらないよ。どんなに胸が苦しくても、忘れない。


    ――あなたはいつまでも、わたしの運命の人

    親友だったり、恋人だったり。大切な役目は全て、律だったから。


    ――あなたはいつまでも、わたしの心の中にいる

    心の中に、いつも律だけの場所を作っておくよ。


    ――わたしもあなたの心にいれればいいのに

    わたしのこと、忘れないでね。バイバイって、思い出してね。


    ――今も、これからもずっと、あなたはわたしの運命の人。

    もう会えないけど…大好きだよ、律。今も、きっとこれからも。


    今はまだ悲しい love song

    新しい歌 歌えるまで

    148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 02:31:59.58
    奥から奥から、涙が溢れてくる。

    泣かないって、決めたのにな。

    外では手も繋げなかったのに。


    最後の最後で、やっと人目を気にせず恋人らしいこと出来たな。


    きっと、あんなことされなきゃ、わたし泣かなかったよ。

    なのに、何で。

    わたしたち、もう終わったんだぞ。


    知らない景色に目を向けて、さっきの感覚を思い出していた。


    さようなら、わたしの幼なじみ。

    さようなら、わたしの初恋の人。

    さようなら、わたしの運命の人。



    ―――最後のキスはタバコのflavorがした。

    149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/15(火) 02:32:41.50
    終わる。

    154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/15(火) 02:34:47.25
    すごいグダって申し訳ない。

    言葉は間違えるしさるは2回食らうし携帯から書いたら充電きれるしあわわ
    支援と、最後まで読んでくれたことに感謝してます。

    お察しの通りに宇多田さんです。

    ではでは

    166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:16:55.95
    なんちゃってエピローグ。律視点。

    167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:18:21.82
    500円玉を入れ、ボタンを押す。

    顔写真付きのカードをかざして、商品とおつりが落ちてくる。

    手を伸ばして、両方を取った。

    英字の書かれた箱と、10円玉と50円玉が1枚ずつ。


    わたしが買い始める前は、もっと安かったんだよな。

    もっとも、子どもの頃なんて300円でおつりが返ってきた。

    よく父さんのおつかいで買いに出た。

    おつりはやる、って言われるから、適当に駄菓子を買ったのを覚えてる。

    168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:19:57.87
    タバコは身体によくないらしい。

    でもさ、遅かれ早かれみんな死ぬんだ。

    なら少しでも好きなものを選んで、自分で死因作って命を全うする。

    その方が、幸せじゃないか?

    だからわたしは、肺がんで死ねたら本望だよ。


    限りが何となくわかる毎日の中で、時々あいつのことを思う。

    そうして死ねたら、幸せだよな。

    169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:21:13.40
    そうそう、このカード。

    みなさんご存知、タスポだ。

    この顔写真って、どんな写真でもいいらしいぞ。

    友達は大好きなアイドルの写真で作ったくらいだ。

    性別、明らかに違うのにな。

    アニメキャラとかでも出来るのかな?

    誰か試してみろよ。


    わたしのこの写真だって、未成年の時のだ。

    黄色いカチューシャがトレードマークだった、高校生時代。

    未成年にタバコを買わせないためのものなのに、変だろ?

    この頃、好きな奴いてさ。

    …まあ、この頃よりずっと前から好きだったんだけど。

    運命の相手、なんて言っちゃいたいくらいだよ。

    170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:23:03.04
    泣き虫で、怖がりで、なのに強がりで。

    その辺の男がすれ違うたび、そいつが振り向くような綺麗な子。

    そう、女の子だったんだ。

    わたしと同じ、女。


    少なからず悩んだよ。

    自分のこの気持ちはなんだろ、ってな。

    でもとまらなくて、それまでの全部失ってもいいって思うようになって、告白した。

    すると「笑いたいのに、変なの」って、泣きながら笑ったんだよ、あいつ。

    171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:24:26.95
    それから4年間、一緒に暮らして。

    誰よりも幸せだったよ。

    人前では、恋人らしいことなんて1つも出来なかったけど。

    その分同じベッドで喘いで果てて、そんな毎日だった。


    でも、わたしから別れたんだ。

    離れるのが怖くなったんだ。

    離れること自体が、じゃなくて。

    離れた場所でさえ、あいつを縛り付けることが、かな。

    172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:26:08.91
    あいつにはきっと、わたしは荷物になる。

    あいつ自身がそう認めなくても、周りにはそうなるよな。

    何で結婚しないんだ、なんて親に言われてみろよ。

    「わたしには律が居るから」なんて、言わせるのか?

    一人娘、愛情いっぱい育てられたんだ。

    孫の顔も見せてやれないで、女と人生を共にする。


    きっと、生きた証も残せず何してんだって思われるよ。

    わたしはいいよ、弟居るし。

    不孝な姉を持った弟には悪いが、その分孝行してやってくれって任せられるし。


    でもさ、あいつは、澪は違うだろ?

    173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 08:26:56.99
    まあさ、何て言うか。

    結局はわたしのわがままだよ。

    あいつには幸せになってほしい、なんてカッコつけただけ。

    本当は、それらすべてを受け入れる自信がなかったんだ。

    祝福される恋愛して、結婚して子ども産んで。

    手に出来るかもしれない幸せの代わりになんて、なれなかった。

    あいつの人生ごと背負うなんて、わたしの背中じゃ足りないものだった。

    ただ、それだけ。


    まだわたしは、あいつと暮らした部屋で生活してる。

    あいつの思い出と、タバコの煙に満ちたあの部屋で。

    独りじゃ広すぎる、あの部屋で。

    消えていく煙をぼーっと見ては、

    明日の今頃はどこに居るんだろう、なんて、思いながらね。

    174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/15(火) 08:27:39.26
    本当に終わる。

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過去の名作たち

律「夕空夕飯探索!」
憂「もう、高校三年生か……」
唯「新しいペニバン買ったし早速あずにゃんで試そ」
  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 14:55:53 URL [ 編集 ]
    設定が不気味なくらい現実的過ぎて暗くなる
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 15:52:07 URL [ 編集 ]
    良作
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 17:02:27 URL [ 編集 ]
    どうせ後で復縁するんだろ
  4. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/15(火) 23:57:33 URL [ 編集 ]
    不愉快だ 律なら別れようとしないだろ
    こういうので深いなて思わせたいんだろ?死ね
    時間無駄にした
  5. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/16(水) 03:45:12 URL [ 編集 ]
    けいおんSSじゃなかったら良作だった

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