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憂「夜」

  1. 名前: 管理人 2011/02/28(月) 20:32:52
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:16:09.66
     夕食を済ませて食器を洗い終わった私は、居間にお姉ちゃんの姿がないことに気がついた。
     
     お姉ちゃんは大抵、ご飯を食べ終わったあとは寝転がりながらテレビを観たりして動かないことが多い。
     
     もちろん、いつもということではないけど、見慣れた姿ではあった。
     
     お風呂にでも入りに行ったのかと思ったけど、まだバスタオルを用意していなかったし、お風呂場から音が聞こえてもこなかった。
     
     となると、部屋に何かをしに行ったのだろう。ギターの練習? 勉強? そんなところか。
     
     今のうちにバスタオルとかを出しておこう。
     
     そう思った、そのときだった。
     
     天井から大きな物音がした。正確には二階から。


    2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:19:32.40
    「な、なに?」
     
     お姉ちゃんだろうけど、今のは何かが崩れるような、そんな音だった。一体、夜遅くになって何をしているのだろう。
     
     心配になった私は、一目散にお姉ちゃんの部屋に駆け込んだ。

    「お姉ちゃん! 大丈夫!?」

    「あ、憂~」

    「お姉ちゃん、なにしてるの?」
     
     押し入れに頭を突っ込んだままのお姉ちゃんに私は問いかけた。よく見ると、先ほどの音の原因だと思われる物が床に散乱していることに気がつく。


    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:25:27.19
    「てんとう虫を探してるんだよ」

    「てんとう虫……?」
     
     意味がわからない。なぜ、夜にてんとう虫を探す必要があるのだろう。そもそも、てんとう虫は押入れにはいないと思う。押し入れにいるのはドラえもんだ。
     
     そうか、お姉ちゃんはドラえもんを探しているのかもしれない。遠まわしに言って、私を試しているんだろう。だけど、そのぐらいの問題なら私にだってわかる。

    「お姉ちゃん、ドラえもんはいないよ」

    「へ、ドラえもん?」

    「ドラえもんを探してるんじゃないの」

    「違うよー、私が探してるのはてんとう虫だよ。ドラえもんじゃなくて」

    「そっか……」

    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:33:18.16
     違ったらしい。では、なんなのだろう。その他に押し入れに住んでいるのっていうと、中々思いつかない。

    「お姉ちゃん、押し入れにてんとう虫はいないと思うよ」

    「うーん、いると思ったのにいないね」
     
     そう言って、お姉ちゃんは捜索を続行する。
     
     いないと自分で言っておきながら続行する。
     
     さて、困った。どう考えても押し入れから、てんとう虫が見つかる図を想像することができない。漫画でもなさそうな展開だと思う。
     
     と、ここで一つの疑問が浮かんだ。

    「てんとう虫を見つけてどうするの?」
     
     そう、夏の夜にてんとう虫を見つけて何をしようとしているのか。押し入れにてんとう虫がどうこうよりも、そちらの方に目を向けるべきなのかもしれない。

    7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:41:23.57
    「んー、まだ秘密だよ」

    「駄目だよー、危ないことしちゃ」
     
     てんとう虫を使った危険なことなんて思いつかないけど、念のために注意しておく。

    「わかってるよー」

    「お姉ちゃん、お風呂いつでも入れるからね」

    「んー」
     
     お姉ちゃんを残して一階に下りた私は、まだ用意していなかったタオル類を収納ボックスから取り出して、お風呂場前のキャスター付きワゴンの上に置いておく。

    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:45:17.75
     リビングに戻って、明日の朝昼晩の献立を考える。買い物のときに、ある程度は献立のスケジュールを調整しているので、この作業は確認の意味合いが強い。

     献立のスケジュールを記入したメモに目を通して、冷蔵庫にある食材の在庫に問題がないか考える。

    「うん」

     明日の食事に関しては問題なしだ。
     
     家事はこれで一通り終了したので、自分の部屋に戻って夏休みの宿題の続きでもやることにした。
     
     部屋の電気を点けて、机の隅に積まれたプリントや冊子の束の一番上に置いてあるものを手にとって机に広げ、椅子に座る。
     
     シャープペンと消しゴムを筆箱から取り出し、いざ勉強を始めようとすると、

    「憂ー! 憂ー!」
     
     どたどたと音を立てながら廊下を走る音と一緒に、私を呼ぶ声が聞こえた。

    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:47:40.59
     椅子から立ち上がって部屋を出る。音のする方に向かって、

    「おねーちゃーん?」

    「憂ー!」
     
     足音が徐々に近づいてくる。

    「あ、いたいた」
     
     右手に何かを握りながら、お姉ちゃんがやってきた。

    「どうかしたの?」

    「てんとう虫、発見したよー」

    「てんとう虫……本当に?」

    「うん。はいこれ」
     
     そう言って、お姉ちゃんから懐中電灯を受け取る。
     
     てんとう虫じゃなく、懐中電灯を受け取る。

    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:49:06.24
    「てんとう虫……」

    「うん」

    「これがそうなの?」

    「うん」

    「……」
     
     どうリアクションをしていいのかわからない。

    「これって、懐中電灯だよね」

    「うん」

    「てんとう虫?」

    「てんとう虫」
     
     駄目だ、私にはわからない。
     
     てんとう虫、じゃなくて懐中電灯をお姉ちゃんに返す。

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:50:55.56
    「それで、懐中電灯をなにに使うの?」

    「知りたい?」

    「う、うん」
     
     そこまで興味があるわけではないけど、危ないことをされてはたまらないので頷く。

    「裏山に行こうと思って」

    「今から?」

    「うん。憂も一緒に行こうよ」

    「なにをしに行くの?」

    「行ってからのお楽しみ~」
     
     お姉ちゃんはそれだけ言うと、玄関の方へさっさと駆けていった。私も渋々、後に続く。

    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:54:22.36
     歩きやすい運動靴を履いて家の外に二人して出る。外は夜にも関わらず空気が蒸していて、汗とともに肌に絡みつくような気がした。
     
     敷地外に出て、家の隣にある鳥居へ向かう。
     
     夏ということもあって窓を開けているのか、テレビの音だったり談笑の声が、路地を歩いてても虫の鳴き声に混じって近所の家々から聞こえてきた。どこかで犬も吠えている。

    「ねえ、お姉ちゃん。本当に行くの? もう遅いんだし、明日にした方がいいよ。暗い中じゃ危ないし」

    「善は急げだよ」

    「善ならいいけど……」
     
     そんなことを言っているうちに鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れて社殿に到着する。
     
     裏山というのは、神社の裏側に広がる小高い丘みたいなものだ。小さい頃にはお姉ちゃんや和ちゃんと一緒に、何度か登った記憶がある。

    14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 00:59:16.17
     家の周りは街灯が設置されているので明るかったけど、社殿の周りには電灯はなかった。それでも月明かりと懐中電灯のおかげで、裏山への入り口は簡単に見つかった。

     自然の見晴台へ行くための道みたいなものだったので、入り口といっても門があるわけではなく、初見の人には何の道だかわからないと思う。
     
     入り口から先は闇に包まれていて、手前に林立する木々を確認するのがやっとの暗さが、訪問者を拒ぶようにして立ちはだかる。

    「やっぱり危ないよ、お姉ちゃん。明日にしようよ」

    「へーきだよぉ。これがあるんだし」
     
     懐中電灯を掲げてお姉ちゃんが言う。

    「しゅっぱーつ!」
     
     なんの躊躇もなく歩み始めるお姉ちゃんに遅れまいと、私も深淵の闇の中に足を踏み入れた。


    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:02:39.50
     山というか、森の中は空が見えないほどに木々が繁茂していて、月明かりは私達の元には届かない。光を頼らずに暗闇を歩くのは、水を持たずに砂漠を渡るのと似て困難だ。砂漠に行ったことはないけど。
     
     幸い、今は懐中電灯があったので完全な暗闇というわけでもないけど、水を飲めば減っていくのと一緒で、有限である懐中電灯の光もそのうち消えてしまう。

     もちろん、この小さな丘であれば、光がなくとも抜け出すことはできるだろうけど、水がなければ生きていけないのと同様、人は光がなくてはやはり生きてはいけないことを実感する
     
     懐中電灯の光を頼りに、なだらか斜面を登っていく。障害物はなく、地面も固まっているのですいすいと進んでいける。
     
     お姉ちゃんが足を動かす度に手元が揺れ、懐中電灯の先から伸びる光の筋も同時に右へ左へと揺れた。
     
     風が吹くと木々が揺れて頭上に繁った枝葉が涼しげな音を立てた。

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:04:43.35
     それにしても、ここに来るのは何年ぶりだろう。小学校高学年のときにお姉ちゃんと初日の出を見に行ったのが最後だとすると、七、八年ぶりだろうか。随分と歳をとったものだ。と、若者らしからぬことを思ってしまう。
     
     突如、お姉ちゃんが足を止めて懐中電灯の光を私にかざした。

    「ねえねえ、カブトムシとかクワガタとかヘラクレスとかいるかなあ?」

    「ヘラクレスじゃなければいるかもしれないけど……。もしかして昆虫採取に来たの?」

    「違うよぉ。そんな子どもみたいなことしないよ」

    「そっか。えー、じゃあ、なにをしに来たの?」

    「まだひみつ」
     
     お姉ちゃんは、にひひと笑って再び歩き出す。
     
     本当になんのために来たのだろう。昆虫採取ではないらしいけど。

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:09:54.80
     虫といえば、虫除けスプレーを使ってくればよかった。服装も夏ということもあって肌の露出面積が多いので、蚊にとっては恰好の標的といえる。

     蚊は吸血する際に置き土産を最低でも三つ残していくから厄介だ。一つは刺した痕。もう一つは唾液。最後に痒み。唾液と痒みはともかく、女子にとって痕が残るのは許せないことだ。

     けれど、蚊に全く刺されずにこの季節を越すのは不可能と言っていい。だから、毎年この季節は蚊に刺される度に憂鬱になってしまう。
     
     森の中では虫の鳴声が四方八方から聞こえてくる。耳をくすぐるようでありながら涼やかな音色だった。
     
     日中から気温が下がったとはいえ夏であることは変わりない。家を出てからそんなに時間は経っていないのに、額に汗が滲み出てきているのがわかった。入浴前でよかったと思う。入浴後なら、もう一度入り直さなければいけなかった。
     
     お風呂場を頭の中でイメージしていると、それは何故か玄関のイメージへと変わった。それで思わず「あっ!」と声を上げてしまう。なぜなら施錠してくるのを忘れたのを思い出したから。

    「どうしたの?」
     
     お姉ちゃんが再び足を止めて懐中電灯をこちらに向けた。

    「う、ううん。なんでもない」
     
     なんでもなくはないけど、お姉ちゃんに言っても仕方がないことなので黙っておく。ああ、家の電気も点けっぱなしだったっけ、勿体ない。もっとしっかりしないといけない。

    22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:14:44.80
     懐中電灯が進行方向に向き直る。
     
     ざっ、ざっ、と砂場で穴掘りをするような足音が連なって、森の中を進んで行く。
     
     やがて、アーチ形のように見える出口を懐中電灯の光が照らし出した。

    「あ、着いたよ憂」
     
     そう言って、一人で出口に突っ走るお姉ちゃん。

    「あ、走ったら危ないよ。お姉ちゃん!」
     
     注意してみたものの、懐中電灯の光は薄くぼんやりとして、どんどん視界の奥へ行ってしまう。私は暗闇の中で足元に気をつけながら、光を目印に小走りになった。
     
     しかし、光が落ちるとともに何かが倒れた音を聞いて、すぐに元のゆっくりとした足取りに戻る。

    「お姉ちゃん?」

    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:19:54.63
    「憂?」

    「お姉ちゃん、大丈夫?」

    「うーん。段差があるの忘れてたぁ」
     
     地面から光が拾い上げられる。懐中電灯を手に取ったのだろう。

    「転んじゃった」

    「怪我してないの?」

    「うん、怪我はしてないけど。手が汚れちゃったよ」
     
     お姉ちゃんが私に懐中電灯を向ける。

     目の前にお姉ちゃんの顔が浮かび上がった。

    「本当に大丈夫?」

    「うん、平気」

    「もう、走ったら危ないよ」

    「段差忘れてただけだってぇ」

    25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:25:50.08
    「だから明日にした方がいいって言ったのに……」

    「ほら、憂」
     
     お姉ちゃんは私の手を掴んで、森の外へ足を踏み出した。
     
     十万ドルの夜景が見渡せそうな開けた丘の上。幼少の頃の記憶を強く喚起させる光景が眼前には広がっていた。
     
     月明かりのお陰で、森の中にいるときよりも見通しはよく、自分が立っている場所、見ているものをある程度認識することができた。
     
     けれど、ここに来た意味はなんなのだろう。そもそも、ここが目的地なのだろうか。

    「お姉ちゃん、ここに来たかったの?」

    「うん。憂、こっち来て」と、私の手を引く。
     
     場の中央で足を止めると「ここに座って」と言われたので、私はお姉ちゃんとともにひんやりとする地面の上に腰を下ろした。

    「お、見えるかな」と、お姉ちゃん。

    「なにが見えるの?」

    「ふふ、見上げてごらんよ、この星空を」

    26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:29:59.86
     私は言われたとおりに夜空を、星空を見上げてみた。
     
     星がいくつか見てとれるけど、何ら目新しさもない星空だった。

    「あれ、憂。驚かないの?」

    「驚くってなにを?」

    「え、だって、綺麗だよね?」

    「綺麗だけど……」
     
     綺麗ではあるけれど、喚声を上げるほど特異な星空ではなかった。

    「なんだぁ、驚くと思ったのにつまんないのぉ」

    「ご、ごめんね」
     
     微妙に悪い気がして、口を尖らせるお姉ちゃんに思わず謝ってしまう。

    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:33:56.64
    「お姉ちゃん。どうして、星を観に来たの?」

    「さっきテレビ観てたら天体観測をする高校生ってのがやっててね。星が凄い綺麗だったんだぁ。明るいところだと綺麗に観れないって言うから、ここなら綺麗に観れると思って来てみたんだけど」

    「そっか、天体観測かぁ……」

    「合宿をして星を観るんだって、楽しそうだよねぇ」

    「うん。私も一回ぐらいはそういうのに行ってみたいな。あ、お姉ちゃん」

    「ん、なぁに?」

    「今年も軽音部で合宿に行くんだよね?」

    「うん。今年は今まで一番大きな別荘だってムギちゃん言ってた」

    「それなら、皆さんと一緒に天体観測を出来ないかな?」

    「あ、いいねぇ! そっか、ムギちゃんに言ってみようっと。あ、でも、それだと憂が観れないじゃん」

    「私のことは気にしないで大丈夫だから」

    「えー、でも……」

    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:37:57.39
     腕組みをして何か考え事をするお姉ちゃん。
     
     合宿に行って一緒に天体観測をしてみたいけれど、軽音部の部員ではないので流石に付いて行くわけにはいかない。
     
     腕組みをしていたお姉ちゃんは、うんと深く頷くと顔を私に向けた。

    「じゃあじゃあ、いつか二人で合宿しよう」

    「合宿? 二人で?」

    「そう。もっと星がたくさん観れるところに行って合宿するの」
     
     そうか、自分たちで合宿に行けばいいのか。

    「私が車を運転して連れて行ってあげるよ」

    「と、当分先だね……」

    「えー、私だってもうすぐ免許取れるんだよ」

    「お姉ちゃん、免許取るの?」

    「うーん、どうしよっかなぁ」

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:45:42.32
     お姉ちゃんがハンドルを握ってるのを想像してみるも、アクセルとブレーキを踏み間違えたりして混乱するイメージしか思い浮かばなかった。ちょっと危なっかしい感じだ。

    「まあ、そのうち取ろうかな。だから、待っててね憂」

    「うん」
     
     いつになるかは判らないけれど、そのときが訪れたときには、今、この瞬間を思い出すのかもしれない。

     そのとき、私とお姉ちゃんは何歳になっているだろう。

     私たちは一緒にいるだろうか。

     それとも、大人になって別々に生きているだろうか。

     今はまだ判らないけれど、一緒にいられたらと今の私は思う。
     
     肩に重みを感じた。
     
     横目でお姉ちゃんの頭が私の肩に乗っているのが見えた。

    「ねえ、憂。ずっと眺めてると星がいっぱい観えてこない?」
     
     言われて星空に目を凝らしてみる。すると、視界の隅々に点在し弱々しく光る星を観ることができた。パッと観ただけでは気付かないかもしれない星が、星を観ようとちょっと意識するだけで夜空にたくさん光り輝いているのが解る。

    31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:48:25.82
    「本当だね。こうやって観るとやっぱり綺麗だね」

    「ねえ、憂は流れ星観たことある?」

    「うーん、ないかな」

    「じゃあさ、流れ星探さない?」

    「そんな都合よく観れないと思うけど……」

    「願い事も考えようよ」
     
     願い事といっても、流れ星が消えるまでに三回も言うなんてできるのだろうか。それに急に願い事と言われても、すぐには中々考えつかない。家族が健康でありますように? 世界が平和でありますように? うーん、どれにしようか悩む。

    「あ、流れ星っ!」

    「えっ?」
     
     お姉ちゃんの叫声を聞いて、瞬時に夜空を見渡してみたものの、流れ星を見つけることはできなかった。どうやら遅かったみたいだ

    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:52:11.91
    「くふっ……くふふふ」
     
     お姉ちゃんがくぐもった声を発しながら震えている。

    「お姉ちゃん?」

    「憂。ごめんね、今のは嘘だから安心して」

    「嘘? ……もう、お姉ちゃん!」

    「ごめんごめん」
     
     お姉ちゃんに意地悪をされてしまった。でも、それがなんだか嬉しくって笑ってしまう。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:53:39.09
    「願い事決めた?」

    「ううん、まだ」

    「早く決めないと流れ星来ちゃうよ」

    「考えてたのにお姉ちゃんが意地悪するからだよ。お姉ちゃんは決めたの?」

    「うん。みんなが幸せでありますようにって」

    「みんな?」

    「そう、みんな。憂にお母さんにお父さん、澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん、和ちゃん、さわちゃんもみんなが幸せにって」

    「あと、お姉ちゃんも」

    「私は憂とこうしてるだけでも幸せだよ」

    「私も幸せだよ。お姉ちゃん」

    37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:56:47.95
     お姉ちゃんの頭に私は顔を寄せる。お姉ちゃんのふんわりとした髪が頬を撫でて、少しくすぐったい。汗の臭いがするけど、それもお姉ちゃんの匂いの一部に感じられた。
     
     こう身を寄せていると、温かい気持ちになる。それが幸せなのだろうか。ずっと、その温かさに浸っていたい気分に駆られてしまう。
     
     しばらくの間、私たちは身を寄せ合ったまま何も話さず、ぼんやりと夜空を眺めながら、心地よい温かさに浸っていた。
     
     そして、二の腕に痒みを感じて、もうそろそろ帰ろうかと思ったときだった。
     
     一筋の光が夜空を照らしながら地平線に向かって、あっという間に落ちていった。
     
     
     ――流れ星。
     
     
     あまりに一瞬の出来事に私は、流れ星の軌跡を唯々目でなぞることしかできなかった。

    「憂、観た?」
     
     お姉ちゃんの声を聞いて顔を起こし、お互いの顔を見合う。

    「うん……流れ星だよね」
     
     トトロのように大袈裟に、にぃっと歯を見せて笑みを浮かべるお姉ちゃん。

    「凄いっ! 本当に流れ星観ちゃったよ! 憂!」

    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:58:09.21
     そんなことを言いながら、一人でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
     
     本当に嬉しそうだ。

    「でも、願い事忘れちゃったよ。あーあー、折角観れたのになぁ」
     
     今度は残念そうに肩を落とす。私も突然の出来事に願い事を唱え忘れてしまっていたので、ため息を一回。

    「お姉ちゃん」

    「うん?」

    「お姉ちゃんは今幸せなんだよね?」

    「幸せ幸せ」

    「うん。なら、あまり欲張らなくてもいいんじゃないかな。今のままでも幸せなんだから」

    「うーん、それもそうだね。今でも十分幸せだから、いっか」

    40 名前: ◆hVull8uUnA [] 投稿日:2010/05/17(月) 02:01:43.79
     私たちはその後も流れ星を待ってみたけれど、再び流れ星が流れることはなかった。
     
     けれど、流れ星を一度だけでも観られたのだから運が良かったと思う。お姉ちゃんも喜んでいたのだし、他に言うことはない。
     
     帰宅した私は、お風呂に浸かりながら目を閉じて流れ星の残像を思い起こす。明瞭ではないけれど、まだ瞼の裏には軌跡が残っていた。
     
     明日、明後日にはこの残像も消えてしまうだろうけれど、今日の夜の出来事は私の中に深く刻み込まれている。だから、お姉ちゃんとまた星を観に行くときには必ず思い出すと思う。
     
     きっかけは、てんとう虫。
     
     あ、そういえば、何で懐中電灯がてんとう虫なのか解らないままだ。
     
     謎が解けたときには首を傾げてしまうかもしれないけれど、お風呂から上がったら、お姉ちゃんに聞いてみようと私は思う。



                        お  わ  り

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唯「りっちゃんって競争率低いよね」
唯「信代ちゃんのディープキスにどれだけ耐えられるか選手権」
和「まだ地デジじゃないの?!」
  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/28(月) 20:47:10 URL [ 編集 ]
    綺麗なお話ですね

    雰囲気も素敵です
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/28(月) 21:50:29 URL [ 編集 ]
    電灯を点灯ってやかましいわ
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/02/28(月) 23:48:55 URL [ 編集 ]
    ホントに綺麗だね
  4. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/03/01(火) 05:53:36 URL [ 編集 ]
    ものすごく懐かしいですな

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