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過去の名作たち

  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/08(金) 23:04:59 URL [ 編集 ]
    この作者さんの作品全部好き!
    短編集で欲しいくらい。
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/09(土) 01:30:54 URL [ 編集 ]
    読んでるだけで、春の匂いがする良い話
    頭の中に律達が感じる雰囲気や景色が自然に浮かんできて、温かい気持ちになれた
    こういう作品ふえてくれ!
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/09(土) 10:55:36 URL [ 編集 ]
    文章もだけど、律と澪のやり取りがすごくいい。
  4. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/09(土) 22:33:59 URL [ 編集 ]
    優しくて良い話だ
  5. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/18(月) 14:51:55 URL [ 編集 ]
    アレ?これって…

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律「桜日和」

  1. 名前: 管理人 2011/04/08(金) 18:54:15
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:12:45.37
    小春日和というのは確か、
    秋か冬の頃に春のような暖かい日という意味だっけ。
    それなら今日は、普通に花見日和ってことでいいか。

    隣を歩く澪に言ったら溜息を吐かれそうなことを考えながら、
    川縁いっぱいに咲いた桜並木を見上げて歩く。

    「おい、律」

    ぐいと二の腕を引かれて視線を下げると、
    目の前には私同様に桜を見上げたカップルが迫っていた。

    「っと、」

    慌てて身を引いてやり過ごす。相手方はそれに気付く様子もなく、
    はらりはらりと落ちてくる花びらに手を伸ばしながら通り過ぎて行った。


    2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:14:59.59
    「ちゃんと前見ないと危ないぞ」

    「ゴメン、さんきゅ」

    澪は呆れ顔で少し眉を上げると、
    私の腕から手を離して再びフィルムカメラを掲げた。
    レンズを向けた先には、私が見上げていた満開の桜。

    「綺麗だなあ」

    「うん」

    「あと何日くらい保つのかな」

    「うん」

    「……桜餅、食べたいなあ」

    「んー、」

    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:18:08.86
    澪はファインダーを覗いたまま、私の言葉に適当な相槌を打つ。
    チャッ、と、トイカメラらしい軽いシャッター音が鳴った。

    レリーズの間に息を止めていたのか、
    澪はカメラを下ろして、ふぅ、と息を吐く。

    「上手く撮れてるといいな」

    「結構撮るの難しいんだよ、桜って」

    「そうなの?」

    「うん。特にこのソメイヨシノって、とても淡い色だから」

    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:21:34.73
    そう言って澪が指差した先を目で追う。
    なるほど、ゆるい風に揺れる花びらは、午後の陽気に白く光っていた。
    桜色と言われてぱっと思い浮かぶ色とはずいぶん違う。

    「桜ってこんなに白かったっけ」

    「今みたいに光が強い時間帯だと、余計にね」

    「ふぅん」

    曇ってたり早朝とか夕方の光だとまた印象が違うよ、と澪が言葉を続けた。

    白い花びらが1枚舞い落ちてきて、澪の黒髪にふわりと着地する。
    気付くことなく再びファインダーを覗いて構図を探している彼女の横顔を、
    私はぼんやりと眺める。

    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:24:59.08
    唐突に、腹の虫がぐるりと鳴いた。
    澪ーお腹へったぞー、と、わざと甘えた声を出して澪の背中をつつく。

    澪は一旦視線を私に向けてから自身の腹をさすり、
    私もお腹空いたかも、と、ちょっと困ったように笑った。

    「確かあっちに出店あったよな」

    「タコ焼き売ってるかな」

    「歯に青のり付いてても教えてやらないぞ?」

    「澪の歯に付いてたら、記念に写真撮ってやるよ」

    肘で小突き合いながら、川縁の道から少し外れた広場を目指す。

    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:28:21.71
    平日の昼下がりにも関わらず、
    ソメイヨシノに囲まれた広場は花見客でにぎわっていた。

    まるで駐車場のようにベビーカーを並べた主婦の集団や、
    ワイシャツに緩めたネクタイ姿で談笑する会社員らしき団体。
    広場の入り口近くには、花見客目当ての出店がちらほらと見える。

    「お、タコ焼きあるぞ」

    「ほんとだ。あーでも、クレープも捨てがたい」

    「澪しゃん、カロリー気にしなくていいんですかー?」

    「うるさいっ」

    顔を覗き込んで笑ってやろうとしたら、額をぴしゃりとはたかれた。
    カウンターパンチのようになって、あ痛っと声が出る。

    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:31:42.53
    「あれ? いい音したと思ったら、あんたたち」

    「え? あっ」

    声の方向に振り返ったら、缶ビールを片手に掲げた金髪ベリーショート。
    カタカナの名前は浮かんだけれど、咄嗟のことで本名が出てこない。

    「えっと、」

    「紀美さん、こんにちは」

    澪がすんなりと名を呼んだ。ああそうだ、紀美さん。
    ど忘れしていたことを悟られないように、笑顔を作って会釈する。

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:35:02.55
    「クリスティーナ、って呼んでくれてもよかったのよ?」

    ……お見通しでした。ニヤリと笑われ、苦笑いを返す。

    「でも偶然ね。ふたりも花見?」

    「はい。学校帰りのついでに、ですけど」

    「ああそっか、ふたりとも大学生だ。おめでとう」

    アルコールのせいか少し赤い顔をした紀美さんに、
    澪と声を揃えて、ありがとうございますと応えた。

    「よし、入学祝いにお姉さんが何かおごってあげよう」

    返事を待たずに歩き出した紀美さんのあとを慌てて追いかける。

    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:38:31.13
    遠慮しないでね、という言葉に甘えて、私はお茶とタコ焼きを、
    澪はバナナクレープと紅茶のペットボトルを買ってもらった。

    広場の隅の、桜の枝が届かないベンチに私を真ん中に並んで腰掛けて、
    2本のペットボトルと新しい缶ビールをべこんと鳴らして乾杯する。

    「いただきます」

    「はいどうぞ」

    「あの、紀美さん、ここで飲んでていいんですか?」

    「会社の花見なんて退屈なだけよ」

    昼間っから飲めるのはありがたいけどね、と
    紀美さんはいたずらっぽく笑って缶ビールをあおった。

    14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:41:54.18
    「他の子達も元気にしてる?」

    「はい、相変わらずです」

    「えっと、りっちゃんと澪ちゃんだっけ」

    「あ、はい」

    りっちゃんと呼ばれたことにちょっと戸惑ったら、
    さわ子がそう呼んでたから許してね、と紀美さんがウインクしてみせた。

    「軽音部でやってたバンドはこれからも続けるの?」

    「はい。一人はまだ高校生ですけど、その子も一緒に」

    「そう」

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:45:31.61
    いいわねと紀美さんは微笑んで、手元で揺らす缶ビールに視線を移した。
    その横顔が少し寂しそうに見えた気がして、
    反射的に視線を逸らしてタコ焼きをひとつ口に放り込む。

    「私たちは、卒業してから自然消滅しちゃったから」

    「そうなんですか」

    「何回かは集まったけど、進路がばらばらだったからね」

    「……」

    「まあ、今も付き合いは続いてるからいいんだけど」

    去年の再結成も楽しかったし、と笑いかけてきた紀美さんに
    上手い返事が浮かばず、私はぎこちなく相槌を打った。

    16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:49:33.48
    「去年のステージ、格好良かったです」

    少し興奮気味にそう言った澪に、私と紀美さんが顔を向ける。

    「こんなすごい人たちが軽音部の先輩なんだって思ったら、」

    すごくどきどきしました、と紀美さんに向けた澪の目は
    尊敬の色に満ちていた。
    そう?ありがと、と紀美さんが軽く口角を上げる。


    澪の言う通り、あのステージは衝撃だった。
    今でも思い出したら鳥肌が立つくらいに。

    ステージのソデで澪と並んで立って、
    マイクに喰らいつくように唄うさわちゃんの背中を見ながら
    この人たちに追いつきたいと思った。

    気恥ずかしくて、とても本人にそんなこと言えやしないけど。

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:53:58.23
    「……あの、それで、別のバンドを組んだりはしなかったんですか?」

    おずおずと澪が質問をする。

    「んー、大学の時にいちど組んでみたけど、続かなかったねぇ」

    「何かが合わなかった、とかですか?」

    「合わなかったっていうより、軽音部が楽し過ぎたのね、きっと」

    「……」

    「過去形になると余計に実感するのよね。幸せな時間だったって」

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 12:57:33.65
    そうですね、と少しトーンダウンした澪に、
    あんたたちは懐かしむにはまだ早いでしょ、と紀美さんが笑う。

    「バンド、続けるんでしょ?」

    「……はい、まあ」

    「じゃあいいじゃない。これからもっと楽しくやっていけば」

    紀美さんのあっけらかんとした笑顔につられるように、
    澪は顔を上げて、はい、と小さく微笑んだ。

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:01:16.10


    …………


    どこに隠し持っていたのか2本目の缶ビールを開けた紀美さんは
    先程よりも饒舌になって、軽音部時代の話を聞かせてくれた。

    その多くがさわちゃん絡みのエピソードで、
    本人が聞いたら烈火の如く怒りそうだなと思いながら
    私も澪も涙が出るほど笑った。

    タコ焼きとクレープはとっくに私たちの胃の中に納まり、
    ベビーカーの集団はいつの間にか広場からいなくなっていた。

    20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:04:45.47
    つんと右の袖口を引かれ、澪を見る。
    ごめんちょっとトイレ、と澪が声をひそめて私に告げた。

    「ん、いってら」

    澪は紀美さんにスミマセンと軽く会釈をして、
    広場の反対側にある公衆トイレに小走りで向かった。
    小さくなっていく澪の後ろ姿を何の気なしに見送る。

    視線を感じて首を左に捻ると、少し笑った紀美さんと目が合った。
    何ですか?と訊いたものの、紀美さんは何も言わずに微笑んだだけだった。

    21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:07:54.76
    「結構長いこと話しちゃったね」

    「大丈夫だったんですか?会社のほう」

    「どうせみんな酔っぱらってるから、気にしちゃいないって」

    紀美さんはビールを一口飲んで、ふぅ、と息を吐いた。
    形良く組んだ足先に引っ掛けたパンプスを、ゆらゆらと揺らす。

    「あ、タコ焼きとクレープごちそうさまでした」

    「どういたしまして。私も楽しかった、思い出話も出来たし」

    「さわちゃんの武勇伝、聞き応えありました」

    「私が話したってこと、さわ子には内緒よ?」

    「わかってます」

    互いに視線を合わせて、にやりと笑う。
    それから、ひと呼吸分の間。

    22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:11:14.89


    それでりっちゃん。と、紀美さんが私の名を呼んだ。

    「はい?」

    「澪ちゃんのこと、好き?」

    「……」

    「……」

    「え?…………えっ?」

    一瞬何を言われたのか分からず、思わず聞き直してしまった。
    私の目をじっと見ていた紀美さんが何やら確信を得た笑みを浮かべる。

    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:14:30.21
    「えっ、ちょ……あの、え?」

    「んー? 私はただ、好き?って聞いただけよ?」

    「っ!」

    顔真っ赤よ?と言われ、耳までかぁっと熱くなった。

    「分かりやすいね、りっちゃん」

    「な、なっ……」

    「その様子だと、気持ちは伝えてないのか」

    そう言った紀美さんの表情が予想外に優しくて、
    私はぱくぱくと開いていた口を静かに閉じた。

    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:18:02.13
    「……なんで、」

    「んー?」

    「なんで、……その……、わかったんですか?」

    私の問いに紀美さんは微笑んだまま、同じだからかな、と応えた。

    「……同じ?」

    「私は伝えられなかったけど」

    「え、」

    「高校の頃は毎日楽しくて、それでもいいかって思ってたんだけどね」

    懐かしむように目を細めた紀美さんの横顔を見て、
    ふと、川縁の桜並木で交わした澪との会話を思い出す。

    25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:22:50.24
    昼間の強い陽に照らされて白く光るソメイヨシノの花びらと、
    その花がもつ本来の淡い色。


    「バンド続けられなかったのもね、それが原因のひとつかな」

    「……」

    「まあ誰にも言わなかったし、そこは私個人の問題だったけど」

    「……」

    「集まろうって、自分からは声掛けられなくなってね」

    「……」

    「気付いたらみんなバンド抜きの生活リズムが出来上がって、自然消滅」

    やれやれと言いそうに肩を竦めて、紀美さんは苦笑いを見せた。

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:26:10.87
    「……今からでも、伝えようとか、思ったりしないんですか?」

    「んー? もう、言わずにおこうって決めたからね」

    「……」

    「それにアイツは、恋愛対象がはっきりしてるから」

    「……つらくないですか、そういうの」

    紀美さんは私と視線を合わせ、そうねえ、と眉尻を下げる。

    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:29:47.35
    「つらいっていうのは、もうとっくに通り過ぎちゃったかな」

    「……」

    「言わずにおいたのが正解だったかどうかはわからないけど」

    「……」

    「だから、りっちゃんがどうするのが正解かも私にはわからない」

    アイツと澪ちゃんとは別だしね、と紀美さんはまた笑う。

    視界の端に、こちらに歩いてくる澪の姿が見えた。
    紀美さんもそれに気付いて、ちらりと澪を見て、私に視線を戻す。

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:33:14.54
    「酔いに任せて、ちょーっと喋り過ぎたかな?」

    「……」

    「ま、でも、秘密を共有しちゃったわけだし」

    「は、はぁ、」

    「何か話したかったらいつでも連絡しておいで」

    そう言って、紀美さんは携帯を開いて私の前に差し出した。
    私はあたふたと自分の携帯を出してボタンを操作し、
    赤外線通信で互いの連絡先を交換する。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:37:01.91
    ぱちんと携帯を閉じたのとほぼ同時に、澪がベンチまで戻ってきた。

    「よしっ、じゃ、私はそろそろ退屈な場所に戻ろうかな」

    澪に笑いかけてから、紀美さんは勢いをつけて立ち上がった。
    それは私がと言うより早く、
    ゴミを入れたビニール袋をひょいと取られる。

    「それじゃバンドと大学、楽しめよ、後輩!」

    「はい、ありがとうございます。……先輩」

    クレープごちそうさまでした、と澪が私に続く。
    紀美さんはどういたしましてと応えて、もう一度私と視線を合わせた。

    33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:40:29.29
    「りっちゃん、がんばってね」

    「えっ? あ、はい」

    焦りを隠す私に紀美さんはいたずらな顔でウインクして、
    ひらひらと右手を振りながら私たちに背を向けて歩き出した。

    「……がんばるって、何を?」

    不思議そうな顔で聞いてくる澪を、まあちょっとな、とあしらう。


    ふと思い立って、大声で彼女の名を呼んだ。
    広場の真ん中辺りで紀美さんは立ち止まり、私たちのほうへ振り返る。

    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:44:05.97
    「紀美さん、いつか、私らと対バンしてください!」

    遠目にも、紀美さんが目を見開いたのがわかった。
    私の隣で澪も小さく驚きの声を上げる。

    紀美さんはすぐにあっけらかんとした笑顔を浮かべ、
    右手の指を3本立てたキメポーズを作ってみせた。

    「いいよ。ただし、私らとタメ張れるくらい上手くなったらね?」

    「なりますよすぐ!それまでにさわちゃんを説得しといて下さい!」

    私もポーズを真似て笑い返す。

    言ってくれるねと紀美さんは豪快に笑って、
    それから、楽しみにしてるよと手を振って再び私たちに背を向けた。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:47:24.03
    「……ほんと、気持ちの良い人だな」

    紀美さんの背中を見送りながら、澪が呟いた。
    そうだな、と相槌を打つ。

    「それで、がんばるって何?」

    「え?ああ、何でもないって」

    「何でもないってことはないだろ?」

    「んと……。おおっ、澪、見ろよ」

    「え?」

    澪は私が指さした方向に視線を移し、顎を上げて満開の桜を見上げた。

    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:50:46.76
    「さっきと色が違って見えてる」

    「ほんとだ。日が傾いたからだな」

    夕刻のあたたかな斜光に照らされたソメイヨシノの花びらは、
    その色を主張するように、ゆるりと吹く風に揺れていた。

    澪はポケットからフィルムカメラを取り出して、
    ファインダーを覗いて息を止め、静かに風景を切り取った。

    「桜、上手く撮れてるといいな」

    同じ台詞をもう一度伝える。
    澪は桜の花から私に視線を移して、うん、と少し笑って頷いた。

    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:54:43.86
    それから澪は急に体ごと私に向き直って、
    私の顔をじっと見つめた。

    「澪?どした?」

    「……なあ、律」

    「ん?」

    「私、律に伝えたいことがあるんだけど……いいかな」

    「え……」

    やけに真剣な目をした澪にたじろいで、こくりと生唾を飲み込む。

    40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 13:58:03.90
    「な、何?」

    「えっと、あのさ……」

    「なんだよ」

    「歯に青のり付いてるぞ」

    「えっ?!うそ!」

    ばしん、と自分の口元を押さえる。
    途端に澪が噴き出して、嘘だよーと舌を出した。

    41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 14:01:21.04
    「ちょっ、おま、ふざけんな!」

    「ん? 律、なんで赤くなってるの?」

    「るせっ、ちょっと一発殴らせろ!」

    「はいどうぞ、って言うわけないだろ」

    私に背を向け駆け出した澪を、待てコラと叫んで追いかける。

    広場の出口で追いついて、澪の腕に手を伸ばした瞬間、
    ザアッと音を立てて風が通り過ぎた。視界いっぱいに桜の花が舞い散る。

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 14:04:49.35
    桜吹雪に一瞬目を奪われ、澪が立ち止まったことに気付かなかった。
    どん、と思い切り背中にぶつかって、ふたり同時に悲鳴を上げる。

    「いっ、たた……」

    「いってー……、急に止まるなよ」

    なんとか転ぶのは免れて、ふたりしてしかめ面を突き合わせ、
    一瞬の間を置いて噴き出した。

    「……なあ、今日はどっかでご飯食べて帰ろうか?」

    私の提案に、澪は目尻の涙を拭いながらそうだなと頷く。

    47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 14:08:59.21
    ふと澪の髪に花びらが乗っていることに気がついて、右手を伸ばした。
    何?と言われて花びらついてるぞと応えたら、律もな、と返された。

    澪の左手が私の頭上に伸びて、
    目の前に差し出された指先には、淡い桜色。

    互いに視線を合わせて、少し照れて笑う。

    「律は何食べたい?」

    「澪が食べたいものでいいぞー。カロリー気になるだろ?」

    「だからうるさいって」

    49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/04/08(金) 14:11:46.62
    互いに小突き合いながら、夕暮れの川縁を並んで歩く。

    長く伸びたふたりの影に何故だか顔がにやけてしまって、
    澪にばれないように、緩む口元をそっと右手で覆い隠した。




    おしまい

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律「おーい、澪~!」石ころ「」
律「・・・・・・」
梓「だからここはこうして……」
  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/08(金) 23:04:59 URL [ 編集 ]
    この作者さんの作品全部好き!
    短編集で欲しいくらい。
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/09(土) 01:30:54 URL [ 編集 ]
    読んでるだけで、春の匂いがする良い話
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    文章もだけど、律と澪のやり取りがすごくいい。
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    優しくて良い話だ
  5. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/04/18(月) 14:51:55 URL [ 編集 ]
    アレ?これって…

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