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唯「恐怖のお婆ちゃん」

  1. 名前: 管理人 2010/08/08(日) 22:55:43
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:08:42.89
    ある日の夕方。

    唯「ソースじゃないよ~醤油だよ~砂糖じゃないよ~♪」

    とみ「おや、唯ちゃん……
       どこへ行くんだい……?」

    唯「お砂糖買いに行くの!」

    とみ「へぇ……お砂糖をねぇ」

    唯「うん!」


    3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:10:13.13
    とみ「お砂糖……
       本当にお砂糖なのかい?」

    唯「え? うーん……」

    とみ「お醤油じゃあないのかい」

    唯「あ、そうだ! そういえばお醤油だった!」

    とみ「やっぱりそうかい……
       醤油ならウチにあるから、ちょいと待ってなさい」

    唯「わーい。
      でもお婆ちゃん、よく醤油だって分かったねー」

    とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」

    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:11:20.98
    ……

    とみ「はい、醤油」

    唯「ありがとー」

    とみ「そうだ、ちょうど唯ちゃんに話があったのよ……
       これなんだけどねェ」ぴらり

    唯「演芸大会~?」

    とみ「老人会で毎年やってるんだけど、
       今年は出場者が少ないみたいでねぇ」

    唯「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」

    とみ「唯ちゃん、出てくれない?」

    唯「え、私が?」

    とみ「若い人が出てくれるとねえ、盛り上がるのよ。
       唯ちゃんがギター弾くとこも見てみたいし」

    唯「えー、うーん」

    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:12:10.53
    とみ「ねえ……頼むわ唯ちゃん」

    唯「でもなー」

    とみ「唯ちゃん以外に頼れる人いないのよ……」

    唯「期末試験も近いしー」

    とみ「賞品はケーキ食べ放題のチケットだって」

    唯「出ます!」

    とみ「あらそう、良かった……
       みなさんもきっと、喜ぶわね……ヒヒ」

    唯(ケーキ食べ放題か~♪)

    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:17:00.06
    平沢家。

    ガチャ
    唯「ただいまいけるじゃくそん!」

    憂「おかえり、お姉ちゃん。ずいぶん早かったね」

    唯「うん、スーパー行こうとしたら、
      ちょうど隣のお婆ちゃんに会ってさ~」

    憂「え゛っ」

    唯「で、醤油おすそわけしてもらっちゃったー」

    憂「お姉ちゃん……いつも言ってるでしょ、
      隣のお婆ちゃんには関わらないで、って……」

    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:21:56.76
    唯「えー、なんでー?
      いい人だよ、お婆ちゃんは」

    憂「いい人なのは分かるけど……
      なんか気味悪いよ」

    唯「もう、ダメだよ憂、人のことそんな風に言っちゃ!
      お婆ちゃんには小さい頃からお世話になってたでしょ!」

    憂「えーでも……
      ご近所の人だって、お婆ちゃんのこと避けてるでしょ」

    唯「近所がどうとか関係ないよ。
      お婆ちゃんはいい人なんだから。
      今日だって醤油おすそ分けしてくれたんだよ」

    憂「あ、そう……」

    唯「お婆ちゃん凄いんだよ、
      私が醤油買いに行くのを分かってたの!
      『唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』だって、
      なんかすごいよねー」

    憂「いや怖いよ」

    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:25:56.15
    唯「もー、怖くなんかないってば。
      あ、これ醤油ね」

    憂「え、うん…………」

    唯「なあに、お婆ちゃんのお醤油にまでケチつける気?」

    憂「えーだって……
      この前お婆ちゃんから貰ったお砂糖、なんか変な味したし……」

    唯「もー、大丈夫だよ!
      せっかくお婆ちゃんがくれたんだから、ちゃんと使って! ほら」

    憂「うん……分かったよ……」

    唯「私部屋行ってるから、ご飯できたら呼んでねー」

    憂「はいはい」

    姉が2階に行くのを見送ってから料理に戻る憂。
    お婆ちゃんからもらった醤油を一舐めしてみたところ
    なぜかやたらと酸っぱい味がしたので
    憂はそれを捨ててスーパーまで醤油を買いに走った。

    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:30:49.61
    ……

    唯「いただきまーす」

    憂「いただきます」

    唯「もぐもぐ……ほらー憂、
      別に変な味なんてしないじゃん!」

    憂「そうだねHAHAHA」

    唯「へんな憂~」

    憂「あ、そうだお姉ちゃん……
      このチラシはなんなの?」

    唯「あー、それもお婆ちゃんがくれたの。
      演芸大会出てみないかって」

    憂「え……それで、出るの?」

    唯「うん、出るよ」

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:04.00
    憂「えー……」

    唯「お婆ちゃんにはいつもお世話になりっぱなしだからね、
      ここらでちょっと恩返しも兼ねて!
      あと優勝したらケーキ食べ放題だし!」

    憂「ケーキ目当てでしょ……
      で、いつやるの?」

    唯「そのチラシに書いてあるよー」

    憂「あ、ほんとだ……再来週の金曜日、
      って期末テストの最終日だよ」

    唯「だいじょーぶ、勉強はちゃんとするから!」

    憂「ホントかな……それで場所は、
      南豊崎の公民館……?」

    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:47.32
    唯「ああ、お婆ちゃん、
      若い時は南豊崎に住んでたんだって~」

    憂「そ、そうだったの? 道理で……」

    唯「道理で、って何が?」

    憂「お姉ちゃん、知らないの?
      南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれて
      部落で有名なとこだよ」

    唯「ぶらく? なにそれ」

    憂「説明するのは難しいけど……
      とにかく卑しい人達が隔離されて住まされてた土地なの」

    唯「えーなにそれ、じゃーお婆ちゃんも
      その卑しい人の仲間ってことー?」

    憂「そこに住んでたんだからそうだよ。
      ご近所の人たちはそれで避けてたんだ」

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:41:43.89
    唯「もー、いい加減にしてよ!」

    憂「びくっ」

    唯「さっきからお婆ちゃんの悪口ばっかり言って……
      私は出るからね、演芸大会!」

    憂「だ、だめだよあの地区に近づいちゃ」

    唯「大丈夫だよっ!
      今時そんな危ない土地なんてあるわけないでしょ」

    憂「で、でも……」

    唯「憂の分からず屋!
      ごちそうさま、私お風呂はいるから!」

    憂「お姉ちゃん……」

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:46:13.64
    翌日、学校。

    憂「……というわけでさー」

    純「へー、南豊崎ねぇ。
      確かに良い評判は聞かないけど」

    憂「評判が良い悪いの問題じゃないよ。
      小学校の時、男子たちが南豊崎に肝試ししようって話してたんだけど」

    純「うん」

    憂「それがバレて親たちにめちゃくちゃ怒られたらしいよ。
      何人かはしばらく外遊び禁止になったって」

    純「へえ……思ったよりヤバそうだね。
      あ、そういえば思い出した」

    憂「何を?」

    純「ずっと昔、なんかの噂で聞いたんだけど、
      南豊崎って何十年か前まで処刑場があったんだって」

    憂「処刑場?」

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:21.85
    純「江戸時代くらいからずっとあったものなんだけど、
      戦後になってようやく取り壊されたって」

    憂「へぇー……」

    純「今生きてる老人たちは、その処刑場知ってるんじゃないかな。
      そしてその件のお婆ちゃんも……」

    憂「こ、怖いこと言わないでょ」

    純「はは、ごめんごめん冗談だよ」

    憂「で、どうしよう……
      やっぱりお姉ちゃんを止めるべきなのかな」

    純「さー、どうだろ。
      そんな危ないことにはならないと思うけど……
      部落とはいっても、現代日本なんだしさ」

    憂「んー、そっかなー」

    ガラッ
    梓「おはよー」

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:52.64
    憂「あ、おはよう」

    純「そうだ、梓は南豊崎のウワサ知ってる?」

    梓「南豊崎? なにそれ」

    純「この近くにある部落地域だよ」

    梓「さあ、知らない。私、高校入るときに引っ越してきたから、
      このへんの地域のことあんまり詳しくないんだよね」

    純「へー、そうなんだ」

    憂「ここ来る前はどこに住んでたの?」

    梓「チベットだよ。
      家族そろって寺院に住んでたんだけど
      中国軍の宗教弾圧から逃れて日本に戻ったの」

    純「何その壮絶な人生」

    20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:53:39.86
    梓「で、その南豊崎とかいうのがどうかしたの?」

    憂「実はお姉ちゃんが赫々然々」

    梓「演芸大会……?
      ああ、そういえば夕べ、唯先輩から
      一緒に演芸大会出ようってメールが来たよ」

    憂「なっ……」

    純「で、OKしたの?」

    梓「うん、別に断る理由もないし」

    憂「……」

    純「あはは……梓を味方につけて
      意地でも演芸大会出る気だね」

    憂「それにしてもなんで梓ちゃんを」

    梓「そーいえば唯先輩、
      他の先輩たちも誘ってみたけど全員から断られたって」

    純「唯先輩てもしかしてハブらてるんじゃない?」

    憂「もーやだなー、お姉ちゃんがハブられてるなんてあるわけ無いじゃん!」バチコーン

    純「ぶほぉぁっ」

    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:02:55.27
    梓「何? 演芸大会がどうかしたの?」

    憂「あーうん、実はそれに出ないかってお姉ちゃんを誘ったのが
      うちの隣の独居老人でさ」

    純「その人が南豊崎の出身で、
      ご近所からも嫌われてるんだってさー」

    梓「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!
      出身地なんて関係ないじゃん、
      人はみな仏のもとに平等なんだよ」

    純「仏って……」

    憂「いやいや、出身がどうこうだけじゃなくてさ、
      ホントになんか怖いんだよあの人」

    梓「何がどう怖いの?」

    憂「話せば長くなるけど……
      そう、あれは私が幼稚園の頃だった」

    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:10:35.76
    【回想】

    とある公園。

    唯『うぇーん、ういー、
      私のぬいぐるみどっかいっちゃったよー』

    憂『えー、おねえちゃん、なくしちゃったのー?
      さがさなきゃー』

    唯『さがしてもみつからないんだよぉー』

    和『本当にちゃんと探したの?
      さっきジャングルジムで遊んでたわよね。
      あのへんは探した?』

    唯『探したけど無いんだよぉーうえーん』

    和『最後にぬいぐるみで遊んだのはどこ?
      思い出して、そこを重点的に捜すから』

    唯『わかんないよぉーうえーん』

    憂(ののかちゃんはあいかわらずむずかしい言葉を使うなあ)

    とみ『あら、どうしたんだい唯ちゃん』

    唯『あ、おばーちゃーん』



    25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:18:38.00
    和『あ、一文字さん。
      実は唯がぬいぐるみを紛失してしまったみたいで』

    とみ『おやおや』

    唯『うぇーん』

    とみ『……滑り台の下は探してみたかい?』

    唯『すべりだいのしたあ?』

    和『ちょっと見てきます』たたっ

    とみ『きっとそこにあると思うよ……』

    和『あっ、ありました!
      これよね、唯』

    唯『わー、うん、それだよー!
      ありがとーおばーちゃん!』

    和『どうして分かったんです?』

    とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』


    【回想おわり】

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:21:12.60
    純「いいお婆ちゃんじゃん」

    梓「別に怖くないよね」

    憂「これはまだ序の口なの!
      次があるんだよ」

    純「ほう、聞かせてもらおうか」

    憂「これは純ちゃんも知ってる話だと思うよ。
      中学の修学旅行のことなんだけど……」

    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:29:02.97
    【回想】

    中学の時の修学旅行、行き先は沖縄だった。
    一日の行程を終え、沖縄のホテルで一息つく憂たち。

    憂『いやー楽しかったねー』

    純『防空壕は怖かったけどね』

    陽子『……』

    憂『? 陽子ちゃん、どうしたの?』

    陽子『いや、な、なんでもないよ』

    純『なんでもないようには見えないけど……
      気分悪いの? 先生呼ぼうか』

    陽子『いや、そんなんじゃなくて……
        ちょっと気になることがあって』

    憂『気になること?』

    純『何?』

    陽子『いや、いいよ……
        言っても信じてもらえなそうだし』

    憂『大丈夫だよ、言ってよ、ちゃんと聞くから』

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:34:20.50
    陽子『うん、じゃあ言うね……
        実は今日一日ずっと気になってて』

    純『だから何がよ』

    陽子『色々なとこ行ったでしょ、今日』

    憂『うん、ひめゆりの塔とか防空壕とか
      平和祈念なんたらとか』

    陽子『……その行く先々で、同じ人がいたの』

    純『はい?』

    陽子『ひめゆりの塔でも、防空壕でも、
        おんなじお婆さんを見かけたの!
        まるで私たちのことを待ち構えて、監視してるみたいに……』

    純『あっはっは、何を言い出すかと思えば』

    陽子『い、いやほんとなんだってば……
        すっごく怖かったんだから!』

    聡美『あっ、私も見たよ、その人』

    陽子『えっ、そうなの?』

    31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/08(日) 16:38:52.69
    聡美『うん、修学旅行の添乗員さんかなーと思ってさ、
        話しかけてみたけど違ったよ』

    陽子『その人、白髪で赤い服着たお婆さんじゃなかった……?』

    聡美『うん、その人だよ。
        私写真撮ったけど見る? ほらこの人』

    陽子『そ、そうだ、この人だよ!
        今日ずっと私たちのこと監視してた人……』

    純『監視とは大げさな』

    憂『……』

    純『? どしたの憂』

    憂(とみおばあちゃんだ……)

    陽子『やっぱり怖いよ……先生たちに言ったほうがいいんじゃないかなあ』

    聡美『えー、別にそこまでしなくても』

    陽子『だって怖いよ』

    聡美『じゃー明日も尾行してくるようならさ、先生に言えばいいじゃん』

    陽子『う、うん……』

    しかし翌日以降、おばあちゃんは現れなかった。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:42:37.02
    2泊3日の修学旅行を終え、
    地元に帰った憂。

    憂『ふー疲れた、でも楽しかったー』

    とみ『あら、憂ちゃん……』

    憂『ひっ、お、おばあちゃん……』

    とみ『修学旅行は楽しかったかい』

    憂『え、ええ、とっても』
     (やっぱり見間違いだよね……
      沖縄なんかにおばあちゃんがいるわけないし……)

    とみ『ひめゆりの塔で聞いた話は感動したねえ』

    憂『えっ』

    とみ『憂ちゃんはちょっと涙ぐんでいたねえ。
       いいんだよ、ああいうときは素直に泣けば』

    憂『な、なんで……知ってるんですか』

    とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』


    【回想おわり】


    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:47:42.74
    純「あー、確かそういうこともあったねー。
      まさかあのお婆ちゃんがその人とは」

    梓「つまりどういうことだってばよ」

    憂「おばあちゃんが沖縄にいたかどうか、真相はわからないけど……
      とにかくこういう不気味な人なんだよ。
      関わるのはよしたほうがいいよ、ね」

    梓「でも唯先輩と約束しちゃったしなぁ」

    憂「お姉ちゃんは私からも説得するから、
      梓ちゃんも演芸大会に出るのはやめて、ね」

    梓「えー、うーん……
      唯先輩が出ないんなら、私は出ないけども」

    憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃんを説得して、
      演芸大会に出ないように」

    梓「わ、分かったよ。できるだけやってみる」

    憂「うん、お願い」

    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:55:31.42
    そうだよ

    37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:57:50.04
    放課後、音楽室。

    ガチャ
    梓「こんちはー」

    澪「おう」

    律「梓ー、唯と一緒に演芸大会出るんだって?」

    梓「え? はあ、まあ……」

    律「実はうちのクラスがその話題で持ちきりでさ!
      本番の日、みんなで応援に行くことになったんだ!」

    唯「みんな横断幕とか作ってくれるって~!
      がんばろーね、あずにゃん!」

    梓(うわー説得しづれえええええ)

    38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:03:03.96
    律「私たちも行くからなー。
      澪なんかチアガールのコスプレするって」

    澪「しねェよ」

    律「クラス総出で盛大に応援してやるから、
      楽しみにしてろよー」

    梓「あーなんていうかそのー、
      お気持ちはうれしーんですが……」

    律「ん? なんだよ」

    梓「いやーなんてーかそのー
      伝え聞いたところによりますとー
      会場はたいへん狭くていらっしゃるみたいなのでー
      そんな大勢はーちょっとー」

    律「そうなのか? 会場ってどこなんだ?」

    唯「南豊崎の公民館だよっ」

    澪「……南豊崎だと?」

    41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:13:19.74
    律「南豊崎……」

    唯「あれ? どうしたのみんな」

    澪「えー、だって……なあ」

    律「……うん」

    唯「言いたいことがあるんならハッキリ言いなよ」

    澪「唯、お前は知らないのか?
      南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれてるとこだぞ」

    唯「知ってるよ、それがどうしたの?
      土地がどうとかなんて関係ないじゃん!」

    律「私、昔からあの土地には近づくなって親に言われてたんだ。
      唯も近寄るのはやめたほうがいいぞ」

    澪「そうだよ、いい噂も聞かないし」

    唯「もう、いい噂とか親が言ったとか、そういうのはどうでもいいじゃん!
      なんで? なんでみんな南豊崎を嫌う? 南豊崎が何かした?」

    律「そういんじゃないけど……」

    唯「じゃあもういいよ、みんなは口出さないで!
      あずにゃん、私たち二人だけで頑張ろうね!」

    梓(出るのヤメろとは言えない……)

    45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:23:20.19
    色々あって演芸大会当日。

    梓「展開早っ!」

    憂「結局お姉ちゃんを説得することはできず、
      お姉ちゃんと梓ちゃんは演芸大会に出ることになりました。
      私たち3人は今、南豊崎に向かっています」

    唯「誰に喋ってんの?」

    梓「で、その南豊崎っていうのはどこにあるの」

    憂「もうちょっと歩かなきゃ。
      このへんはバスも電車もないから」

    梓「もうちょっと……って、
      周りに人家が見当たらないんだけど……
      ほんとにこの先に人が住んでんの?」

    憂「うん、1回だけ行ったことある……
      おばあちゃんに連れられて」

    梓「へえ、どんな感じだった?」

    憂「一言でいうと……不気味だった」

    梓「不気味って……」

    唯「南豊崎行くの久々だよねー、
      もう8年ぶりくらいかな~」

    46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:28:24.23
    梓「ねえ、まだかかるの?
      もう40分くらい歩いてるよ」

    憂「おかしいなあ、こんなに遠かったかな」

    梓「早くしないと演芸大会に間に合わないんじゃ」

    憂「間に合わなかったら間に合わなかったで
      こっちとしては嬉しいんだけどね」

    唯「あ、憂ー、おうちが見えてきたよー」

    梓「ああ、ほんとだ……
      良かった、迷子になってたわけじゃなかったんだ」

    3人は南豊崎の町についた。
    しかし憂と梓はすぐに景観の異様さにゾッとした。

    48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:37:12.02
    道の脇に建っている家々はすべて同じ形、
    そして屋根の色もすべて青で統一されていた。

    梓「な、なにこれ……なんか怖い」

    憂「前来た時もこうだったよ……
      その時はなんとも思わなかったけど」

    唯「わー、屋根がみんな青色だよー。
      相変わらず綺麗だよねー、憂ー」

    憂「はは、そうだね……」

    さらに不気味さに拍車をかけていたのは町の静けさだ。
    さっきから人っ子ひとり見かけない。

    梓「だれもいないのかな……」

    憂「分かんない……
      とにかく早く公民館に行こう」

    唯「あ、憂、やばいよー、もうだいぶ遅刻しちゃってるよー。
      急がなきゃマズイよー」

    憂「そんな急がなくて大丈夫だよ、
      私たちが出るのは後の方だから……」

    49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:46:32.94
    公民館は町のはずれにあった。
    いやもう町と呼ぶより集落としたほうが適切であろう。
    同じ家が並ぶこの集落の中で
    公民館は異様な存在感を放っていた。

    ガラガラ
    憂「あれ? まだ始まってない……?」

    公民館の中には集落の人間が集まっていた。
    そのすべてが老人だった。
    憂たちが公民館に入ると、
    規則正しく並べられた椅子に座った老人たちは
    いっせいに憂たちのほうに振り向いた。

    梓「す、すみません遅れてしまって」

    唯「ごめんなさーい」

    老人たちの中から
    とみが歩み寄ってきた。

    とみ「ああ、よく来たね、疲れたろう。
       遅れたのは良いんだよ、気にしないで」

    憂「あの、まだ始まってないんですか」

    とみ「ええ、みんな唯ちゃんたちを待ってたのよ。
       さあ中にお入り」

    唯「おじゃましまーす」

    50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:49:42.61
    書くの忘れてたけど
    ゆいあずを応援すると言っていたクラスの人達は
    会場が南豊崎ということを聞いて
    急に応援するのをやめました

    52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:59:57.54
    そして演芸大会が始まった。
    参加者は一人ひとり壇上にあがり、自慢の芸を披露していく。

    司会『一番、山田尚吉さんによる手品です』

    山田「ではいきますぞ、3,2,1……ホッ」

    老人たち「おーええぞええぞー」
    老人たち「さすが尚さんの手品は面白いわい」
    老人たち「いいぞもっとやれ」

    司会『二番、吉田玲次郎さんによる詩吟です』

    吉田「延々んん~続行ぅ~ぉぉ~ルララーァァーあああー」

    老人たち「おーええぞええぞー」
    老人たち「さすが玲さんの詩吟は面白いわい」
    老人たち「いいぞもっとやれ」

    会場は盛り上がっていた。
    しかし憂と梓は薄ら寒さを感じていた。
    老人たちの盛り上がりが、まるで演技のように感じられたのだ。
    意図的に作られた雰囲気。
    それは憂たちに居心地の悪さを与えるばかりであった。

    唯「わーすごいね今の詩吟! すっごくうまかったよー」

    憂「そ、そだね……」

    そして唯と梓の番が回ってきた。

    53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 18:01:50.43
    ちょっと中断する
    7時か8時くらいに再開しまんとがわ

    56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:19:41.40
    再開しまちゅ

    57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:21:02.60
    『13番、ゆいあずのお二人によるギター演奏です』

    唯「どもどもー!」
    梓「ゆいあずでーす……」

    二人が壇上に上がると、
    先程までの盛り上がりが嘘だったかのように
    会場は一気に静まり返った。
    そして客席の老人たちは、
    まるで品定めでもするかのような目で
    ゆいあずの二人を凝視した。
    それはとみも例外ではなかった。

    とみ「……………………」
    老人たち「……………………」
    老人たち「……………………」
    老人たち「……………………」

    憂(な、なにこれ、どうなってるの?)

    梓(なんなのこの人たち、怖い!)

    唯「じゃー演奏しまーす、聞いてください!
      ふでペンボールペン!」

    唯はなんとも思っていないようだった。
    梓は客席からの刺すような視線を意識しないよう
    演奏に集中することにした。

    59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:33:40.58
    ……

    唯「かなり本気よー♪」
    ジャジャーン

    異様な空気に包まれたまま演奏は終了した。
    老人たちは片時も二人から視線をそらすことはなかった。

    憂「……」ぱちぱちぱち

    憂が拍手をすると、老人たちも思い出したかのように拍手をした。

    唯「どもどもー」

    梓(帰りたい……)

    司会『では今回の演芸大会は以上となります。
        優勝者は後日、広報紙で発表させていただきます』

    唯「なんだ、今日発表してくれないんだ。
      優勝賞品早く欲しいのにー」

    梓「賞品って何なんです?」

    唯「ケーキ食べ放題だよ」

    梓「老人メインの大会でケーキ食べ放題が賞品って……」

    その後、3人は帰路についた。
    帰りはなぜか来るときよりも時間はかからなかった。

    60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:40:46.64
    翌日。

    ガラッ
    梓「おはよー」

    憂「おはよう、梓ちゃん」

    純「おっはー。で、行ってきたんでしょ、昨日。
      どうだったの?」

    梓「どうって……ねえ」

    憂「まあ……うん」

    純「なにー? 何があったの、教えてよ」

    梓「一言で言えば怖かったかな」

    61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:46:45.62
    純「怖かった? 何が?」

    梓「いや、何から何まで……
      全部同じ家で同じ色の屋根だったのも怖かったし、
      住んでた人もなんか……
      あれが部落っていうものなのかな」

    純「あはは、人は仏のもとにみな平等とか言っときながら
      梓も部落嫌いになってんじゃん」

    梓「だ、だって……」

    憂「まああれ見たら誰だって嫌いになるよ……
      梓ちゃんも分かったでしょ、
      南豊崎には関わらない方がいいって」

    梓「うん、私は痛いほど分かったけど……
      でも唯先輩はなんとも思ってなかったみたいだよね」

    憂「そうなんだよ……
      昨日家帰ってからも、『楽しかったねー』とか言ってたし」

    純「あはは……」

    憂「はあ、どうにかなんないかな、あのおばあちゃん」

    62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:53:02.72
    放課後。

    梓「じゃーねー」

    純「また明日、憂」

    憂「うん、またね」

    純「さてジャズ研に行きますかね」

    梓「私は軽音部に」

    純「軽音部に行ってお茶会か」

    梓「今日はお茶会じゃないよ。
      倉庫を掃除して軽音部の古いアルバム探すって言ってた」

    純「……」

    梓「何?」

    純「いやなんでもない、頑張ってね」

    梓「? うん」

    63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:58:54.46
    音楽室。

    ガチャ
    梓「こんにちはー」

    唯「あー、あずにゃん!
      聞いて聞いて、みんなが酷いんだよぉー」

    梓「ど、どうかしたんですか」

    澪「ああいや、昨日南豊崎に行ったー、って
      今朝からクラスで唯が自慢げに語るもんだから、
      クラスのみんなが引いちゃってな」

    律「そうそう、みんなドン引きだったな。あの和でさえも」

    澪「あの和の汚物を見るような視線は一生忘れられそうにない」

    梓「そ、そんなことがあったんですか」

    唯「ね、ひどいよねえ、あずにゃん!
      私は昨日の楽しい思い出をみんなに話したかっただけなのにい」

    梓「……唯先輩」

    唯「なに?」

    64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:05:23.24
    梓「もう理解しましょう、子供じゃないんですから。
      南豊崎は……あいなま地区は、
      近づいちゃいけない場所なんです。
      私は昨日それを痛感しました」

    唯「なんで? おかしいよ、
      南豊崎の人に悪い人がいるの?
      南豊崎を嫌う理由がどこにあるのさ!」

    梓「こういうのは理屈じゃないんですよ。
      とにかくダメなものなんです」

    唯「そんなのってないよ!
      じゃあこれからも未来永劫、南豊崎は
      ずっと嫌われたままなの?」

    梓「まあそうでしょうね」

    澪(近いうちに過疎で滅びそうだけどな)

    唯「おかしいよ、ひどいよ……
      南豊崎の人はいい人ばっかりだよ、
      おばあちゃんだってそうだよ……
      みんなは南豊崎のことを知らないだけなんだよ」

    律「唯……」

    65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:14:27.85
    唯「そうだ、今からみんなでお婆ちゃんの家に遊びにいこう!」

    梓「えっ」

    唯「南豊崎の人がいい人だって知れば、
      みんなもきっと南豊崎が好きになるよ~」

    澪「で、でも」

    律「なあ」

    唯「大丈夫だよー、ほら行こう!
      お婆ちゃん、私の家の隣に住んでるんだ!」ぐいぐい

    澪「わ、わかったわかった、引っ張るな」

    律「まったく、しょーがないなー」

    唯「わーい、じゃあ早速行こう」

    澪「あ、そうだ……お婆ちゃんちに遊びにいくことは誰にも言うなよ」

    唯「え、なんで?」

    澪「そ、そりゃー部活サボって遊びにいくなんて、
      誰かにバレたら……なぁ?」

    律「はは、そうだな……」

    梓(酷い先輩たちだ……)

    66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:24:43.73
    一方その頃、憂は。

    憂(帰ったら洗濯もの取り込んで、
      買い物行って、夕飯の支度して、
      お風呂掃除して……)

    帰り道、自分の家が見えてきた頃。
    平沢家の隣、くだんの老婆が住んでいる家の前に
    一人の男が立っているのが見えた。
    彼は門の外から家の中を伺おうとしていた。

    憂「……?」

    明らかに怪しい……と憂は思ったが、
    もう一文字家とは関わりを持ちたくないので
    見て見ぬふりをして通り過ぎ、
    自分の家に入ろうとしたところ

    男「あっ、ちょっとすみません」

    憂「…………な、なんですか」

    男「そちらのお宅にお住まいの方ですか」

    憂「は、はあ、そうですが」

    67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:32:32.84
    男「私、市役所のもので」

    そう言って男は名刺を差し出す。

    憂「はあ」

    男「隣のおうちにお住まいの方のこと、ご存じですか?」

    憂「お婆さんが一人で住んでますよ」

    男「はあ、やはりそうですか」

    憂「なんなんです?
      お婆さんがどうかしたんですか」

    男「いや、この家、実はずっと前から空き家のはずなんですよ」

    憂「えっ」

    男「古い資料を整理してて分かったことなんですがね。
      このへんの不動産屋さんに問い合わせてみても、
      ここには誰も住んでないはずだと」

    憂「……」

    70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:41:32.25
    男「そのお婆さんは、いつから住んでいるんですか」

    憂「私が、小さい時から、ずっと……
      もう15年以上も」

    男「15年……」

    憂「15年異常、空き家に
      勝手に住んでたってことですよね」

    男「勝手に住んでいたどころじゃないですよ。
      この家にはガスも電気も水道も通っていないんです」

    憂「えっ……
      え、で、でも……夜とか灯りついてましたよ」

    男「ランプか何かを持ち込んでいたんじゃないですか。
      もしくはどこかから盗電していたか。
      まったく、どんな生活をしてきたんだか」

    憂「……」

    15年間。
    自分の家の隣で、
    電気も水道もガスも使えない家に住んでいた。
    なぜ?
    なんのために?

    考えた瞬間、
    憂の体に悪寒が走った。

    71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:50:49.04
    男「今日はお婆さんは留守のようですね」

    憂「え……あ、そうなんですか」

    男「はい、ずっと待ってたんですけど、
      帰ってくる気配がなさそうなので、
      また後日出直すことにします。では私はこれで」

    憂「あ、はい……」

    そう言い残し、
    男は去った。

    一文字とみ。
    怪しい、不気味だとは思っていたが
    ここまで得体のしれない人間だとは思わなかった。
    なぜわざわざライフラインの通っていない家に
    住み続ける必要があったのか。
    そして何故よりにもよって
    自分の家の隣なのか。
    まあなんでもいい、近いうちに不法占拠で逮捕されるだろう。
    これでようやくあの老婆がいなくなってくれる……

    そんなことを考えながら
    憂は自分の家のドアに手をかけた。

    ガチャ。
    憂「!?」

    鍵があいていた。

    74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:00:12.20
    憂「お、お姉ちゃん……?
      もう帰ってきてるの?」

    恐る恐るドアを開ける憂。
    しかし玄関に姉のローファーはなかった。

    憂「…………」

    今朝学校にいくとき、
    鍵をかけ忘れたのだろうか。
    いやそんなことはない、
    鍵だけはなんども確認しているし、
    今日だってそうだった。

    憂はそっと靴を脱いで、
    家の中に上がった。
    誰もいないはずだったが、
    怪しい気配に満ちているような気がした。

    憂「だ、誰かいるんですか……」

    小声でそう尋ねる。
    誰かがいたとしても誰にも聞こえないだろう。

    とその時。

    しゃーこ しゃーこ

    憂「!?」

    75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:04:41.74
    しゃーこ しゃーこ


    憂「な、何、この音……」


    しゃーこ しゃーこ


    台所の方から音が聞こえてきた。
    音の正体はわからない。

    憂は忍び足で台所に向かう。


    しゃーこ しゃーこ


    これは普通の事態じゃない。
    何か危ないことが起こる。
    憂の心臓が高鳴る。


    しゃーこ しゃーこ


    台所。
    そっと、中を覗くと。

    とみ「あらあ、おかえり憂ちゃん」

    76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:14:28.79
    憂「なっ……なにしてるんですか!?」

    とみ「何って……何でもいいじゃない」
    しゃーこ しゃーこ

    憂「そ、それ、ほほほ包丁……」

    とみ「ええ、包丁を砥いでいたの。
       よく切れるようにしなきゃねえ」

    憂「ひっ」

    とみは包丁を手に立ち上がり、
    ゆっくりと憂のほうに向かってくる。

    とみ「そうだわ、昨日の演芸大会……
       みんなあなたたちのこと本当に気に入ったみたいよ。
       良かったわねえ、憂ちゃん」

    憂「なんで、どうやって入ったんですか……」

    とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」

    79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:24:06.02
    憂「やめてください、包丁を置いてください……」

    とみ「それはできないよ。
       みんな憂ちゃんたちのこと気に入ってたからね」

    憂「それとこれとなんの関係があるんですかっ」

    とみ「おとなしくしていなさい、
       すぐに終わるからね」

    憂「な、なにがですか」

    とみ「怖がることはないよ、
       ずっと隣同士で暮らしてきたじゃないか」

    憂「ふ、ふ、ふ、不法占拠だったんでしょっ」

    とみ「人聞きの悪いことを言わないでおくれよ。
       全部憂ちゃんと唯ちゃんのためなんだから」

    憂「な、なにを……」

    じりじりと詰め寄るとみ、
    それとともに後ずさる憂。

    憂の背中はついに壁についてしまった。

    とみ「さあ、みんなに食べてもらおうね、憂ちゃんたちのお肉を」

    憂「いやあああっ!」

    80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:30:57.42
    ガチャ
    唯「たっだいまー」
    澪「おじゃましまーす」
    律「ちーっす」
    梓「……」

    唯「憂ー、今日おばあちゃん留守なのかなー、
      ……っておばあちゃん!?」

    とみ「あらあら、唯ちゃん……
       それに昨日の黒髪の子も」

    憂「お姉ちゃん、来ちゃダメえ!」

    律「な、なんだあのバアさん、なんで包丁を……」

    澪「恐怖のあまり気絶」バタッ

    とみ「お友達が多いんだねえ、唯ちゃんは……
       みんなも見ててくれるかい、
       憂ちゃんたちがお肉になるところを」

    律「な、何いってんだ、キチガイかこのババア」

    梓「うんびらおんびえいそわか」

    唯「あずにゃん?」

    84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:38:07.57
    梓「ふんにゃらはんれいうんたびら」

    とみ「な、何を……」

    梓「ほんてらぶえいそびえんだら」

    とみ「や、やめないか」

    梓「にんぱらそぞでるいちょうむばい」

    とみ「やめ……」

    梓「破ァっ!!」

    とみ「あ、ああああ…………」ガクリ

    律「な、何をやったんだ梓!?」

    梓「いえ、別に……
      チベットの老師から授かった、
      ちょっとした気功術ですよ。
      憂、大丈夫だった?」

    憂「あ、うん……」

    寺育ちって凄い。
    憂は改めてそう思った。

    86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:45:17.70
    その後、警察がやってきてとみは逮捕された。
    とみは警察に連れていかれるとき、
    「私は何も悪くない」と魂の抜けたような表情で
    何度も繰り返しつぶやいていた。

    警察の調査によって、南豊崎の人間による
    組織的な殺人事件の実態が明らかになった。
    彼らはとみのように各地に人を送り込んで、
    適当な人間を殺させていたらしい。
    このことは連日ニュースで大々的に報じられた。

    純「いやー、でもこれで一件落着だね」

    憂「そうだね、包丁持ったおばあちゃんが
      家の中にいたときはどうなることかと思ったけど。
      梓ちゃんがいなかったら私殺されてたよ」

    梓「護身術くらい身につけとかなきゃだめだよ」

    純「あ、そうだ。
      この前から南豊崎に興味出ちゃって、
      ちょっと調べてたんだけどさ」

    憂「うん」

    純「なんか南豊崎に処刑場があったっていう噂は本当らしいよ」

    梓「へえ、そうなんだ」

    89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:53:58.24
    純「うん、それでね、
      戦中の食料がなかった時期に、
      そこの処刑場で殺された人間の肉を食べてたんだって!」

    梓「ええっ?」

    純「それで戦後になってやっと処刑場は壊されたんだけど、
      きっと南豊崎の人たちは人肉の味を忘れられず……」

    梓「人肉を求めて殺人をしていたって言うの?」

    憂「そ、そういえば、憂ちゃんをお肉にしようとか
      言っていたような……」

    純「ほら、絶対そうだって。
      現代日本に残る食人文化! そそるねぇ」

    梓「その食人文化の犠牲になりかけた人間の前で
      そんなこと言わない方がいいよ……」

    しかし南豊崎の人が食人を行なっていたことについては
    公にされることはなかった。
    その証拠が見つからなかったのか、
    公表すべきではないと封印されたのか、
    真相は分からない。

    また、警察はとみがいた空き家に捜査に入ったが
    空き家には一切モノが置かれておらず、
    およそ人がいた形跡は皆無だったという。
    とみは本当にあの家に住んでいたのか、これも真相は不明。

    91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:02:38.28
    唯はこの件で大変落ち込んでしまった。

    唯「はあ……」

    律「唯のやつ、元気ないなあ」

    梓「そりゃそうでしょう、
      大好きなおばあちゃんが妹を殺そうとしたんじゃあ……」

    澪「唯、元気だせよ。
      あんな頭おかしいバアさんのことは忘れてさ、な」

    唯「頭おかしくなんかないよっ!」

    澪「唯……」

    唯「おばあちゃんは私たちのことずっと見守ってくれてたよ……
      それが頭おかしいなんて」

    律「それ、殺す相手の品定めをしてただけだろ」

    唯「そんなことない!
      お婆ちゃん、私たちのこと本当に好きでいてくれたもん……」

    梓「……」

    唯「寂しいよ……
      お婆ちゃん……いなくなっちゃうなんて……
      戻ってきてよう……」

    94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:10:51.44
    数日後。

    唯「ういー! ういー!」

    憂「どしたの、お姉ちゃん」

    唯「隣の空き家に新しい人が引っ越してきたよ!」

    憂「えっ、そうなの?
      どんな人?」

    唯「おばあさん!」

    憂「えっ」

    唯「80歳くらいのお婆さんでね、一人暮らしなんだって!
      若い頃は北朝鮮に住んでたらしいよ~」

    憂「へ、へえー、そうなんだ……」

    唯「とみお婆ちゃんがいなくなっちゃって寂しかったけど、
      これでもう寂しくないよ~」

    憂「……」

    新たなおばあちゃんの出現に喜ぶ唯。
    そして今度もまた自分たちの身に何かが起こりそうで
    気が気でない憂であった。

           お       わ                               り

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梓「唯先輩孕ませシューティング!」
梓「もっとペロペロして……いじめて下さい!」
憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」唯「私もう社会人なんだけど」
  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/08/08(日) 23:14:59 URL [ 編集 ]
    この唯はむかつくな

    現代の情弱日本人が朝鮮人中国人を擁護してるみたいで
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/08/09(月) 00:43:47 URL [ 編集 ]
    >>2
    逆に考えてみろ
    そんな現代日本人を皮肉ってる良SSじゃないか
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/15(金) 05:05:12 URL [ 編集 ]
    こわい
  4. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/23(土) 23:28:16 URL [ 編集 ]
    なんだかんだ勘違いでおばあちゃんがいい人だったって方がおもしろい気がする。
    てか最後適当すぎワロタ
  5. 名前: 2011/06/16(木) 08:57:14 URL [ 編集 ]
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