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碇シンジ「軽音部?」

  1. 名前: 管理人 2010/09/28(火) 20:05:55
    1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:16:29.45

    見慣れない街並み。見上げると青い空が広がっている。

    シンジ「…僕は……」

    手のひらに付いている、赤黒く変色した血。
    アスカを助けられなかった。ミサトも死んだ。さっきまでの光景がフラッシュバックする。
    サードインパクトが起こり、生命の樹となったエヴァの中でシンジが最後に見たのは、
    あの地下の巨人の様な姿をした、綾波レイと渚カヲルだった。

    シンジ「…そっか……死んだんだ。僕も。」

    死後の世界がこんなに長閑なものだったなんて思いもしなかった。
    まず頭をよぎったのはそんな事で、自分が死んだという事もすんなりと受け入れられた。
    エヴァに乗るきっかけは突然の事だったし、初めはあんな得体のしれない化物と戦うのは怖かった。
    けれども時が立つにつれ、トリガーを引く指の感覚が麻痺するように、死への恐怖も薄れていった。
    全てを失った今、この誰も居ない街がなんだか心地良く感じられた。

             『げりおん! ~Neon genesis K-ON club!~』


    2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:18:41.16

    今は夏なのだろうか。そもそも死後の世界に季節なんてあるのか。
    四季を失い、絶えず夏の太陽が照りつける第三新東京市と比べたら多少は涼しいが、
    それでも歩いていると汗が止まらない。足は疲れるし、喉も渇く。
    体感としては生きていた時となんら変りない。とにかく暑い。
    目に入りそうな額の汗を拭おうとしたが、手に付いた血が見えて、そのままポケットに仕舞った。
    少し先に公園が見える。シンジは少し大股で歩き出した。

    シンジ「え…」

    目に飛び込んできたのは、シーソーで遊ぶ子供たちと、それを木陰のベンチで見守る母親の姿だった。
    この世界には誰も居ないと思っていた。なのに。
    子供たちがはしゃぐ、平穏で微笑ましい光景もシンジにとっては憂鬱な光景だった。
    初号機のエントリープラグの中で、最後に思っていたこと…

    「誰とも接する事が無ければ、傷つくことも無かったのに」…

    たとえこの親子のような赤の他人であっても、今のシンジにとっては疎ましい存在であると言えるのかも知れない。
    手汗で血が水分を取り戻し、べとつき始めた感触で我に帰ったシンジは、公園の端にある手洗い場でそれを流した。
    ミサトの血、赤、弐号機の赤、アスカの赤。
    もう誰とも会いたくない…そう思っているはずなのに、自分の身近に居た人たちの事を考えると、胸が締め付けられるように痛む。
    目を閉じて首を振り、シンジは頭をリセットしようとした。
    血は取れているのに手が赤い。
    知らず知らずのうちに力が入りすぎて、うっ血していた。



    3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:20:29.65

    シンジ「僕は…最初から一人だった……そうだ、戻っただけだ…」

    そう呟くとシンジは蛇口を閉め、公園をあとにした。
    ベンチから我が子を見守る母親は、シンジの母親、ユイに似ていた。
    いや、そう見えただけかも知れない。もし死後の世界なら母さんも居るかもしれない。
    会えるのだったら、母さんに会いたい。
    そんな事を考えていると、不意に父親の顔が浮かび上がり、自分に腹が立った。

    当てもなく街を歩いていると、それなりに人が居ることに気がついた。
    二階建ての家のベランダで布団を干す女性、車を運転する男性、ベビーカーを押す夫婦。
    キョロキョロと見渡しているとスーツ姿の男性と目が合い、シンジは俯いた。

    シンジ「どうすれば良いんだろう」

    この数時間で起こったことは恐らく誰も体験しえない事ばかりで、シンジは疲れきっていた。
    暑さも体力を奪い、立って居られず、その場で座り込み、ガードレールにもたれ掛かった。
    暑くて死にそうだ。
    死後の世界で死んだら、次はどこに行くんだろう。

    …。……。………。

    座った時にお尻の感触で分かったが、後ろポケットにSDATが入っていた。
    これで少しは一人の世界に入れる。イヤホンを耳に入れ、目を閉じると、周りの景色、人が気にならなくなった。



    4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:21:47.74

    3分も経ってないだろう。シンジの世界に誰かが入ってきた。
    誰かに肩を叩かれたシンジはイヤホンを外し、人物を確認するために見上げた。

    ?「大丈夫ぅ?ねっちゅうしょうかなぁ??」

    そう言いながらシンジを心配そうに見つめる、制服姿の少女。
    髪は茶色いセミロングで、黄色いヘアピンが目を引いた。
    制服を着ている。学生だろうか。

    ?「ねえ、大丈夫ぅ?」
    シンジ「あ、あの、だ、大丈夫です…すみません…」

    知らない人と話すのはいつまで経っても慣れない。
    けれども不思議と嫌な気分にはならなかった。
    目を合わせようとしないシンジだが、少女は気にせずに笑顔を振りまく。

    ?「そう?こんな暑い日に外で座ってたら、もっと暑いよ~」
    シンジ「………はい、すみません…」
    ?「そうだ!私たちの部室においでよ!今日はムギちゃんがかき氷作ってくれるんだ~♪いま練乳買ってきたとこー!」

    そう言って片手に持っていたビニール袋をシンジに見せる。

    シンジ「…部室?…ムギちゃん??」
    ?「そうそう!あ!氷溶けちゃう!早くいこー!」

    そう言うと少女はシンジの手を取り、走りだした。
    少し頭がクラクラしたが、シンジは少女の汗ばんだ手を握り返し、並走した。
    少し走ると、学校らしきものが見えてきた。



    5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:22:46.31

    ?「つ、はぁはぁ、着いたぁ…」
    シンジ「はぁ…はぁ…」
    ?「あ!かき氷!へばってる場合じゃないよぉー!じゃあ部室へレッツゴー!」
    シンジ「ま、まだ走るんですか!?」

    シンジ以上に息を切らしながらも再度走りだす少女。
    よほどかき氷が好きなんだろう。
    死後の世界の楽しみは、食ぐらいしか無いのだろうか。
    そんな事を考えていると建物の入口についた少女がぴょんぴょん跳ねながらシンジを急かしているのに気がついた。
    なんなんだろう…ここに来て、何一つ理解出来ていないが、それでもいいやとシンジは走りだした。

    ?「ただいま戻りましたー!りっちゃん隊長!練乳買ってきましたー!」
    カチューシャの少女「おおー!戻ったか唯隊員!…って、その人は…?」

    ユイ…って言うんだ。母さんと同じ名前だ。
    そんな事を考えてヘアピンの少女を見ていると、部屋の中に居た全員がこちらを見ていた。
    そっか、知らない人が来たんだもんな、とシンジは納得した。

    シンジ「…え……えーと」
    唯「…だれだっけ?」
    全員「えぇーー!!!!」




    7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:05.04

    唯「…で、おっきな猫がいるなぁーって思って近寄ったら、汗だくの男の子が座っててー!」
    黒髪ロングの少女「あのなぁ…普通猫と人間間違えないだろ…」
    唯「えへへ…」
    カチューシャの少女「で、死にそうだったから連れてきた、と」
    唯「えっへん!」
    ツインテールの少女「なにが『えっへん!』なんですか!部外者の方なんですよ!」
    クリーム色の髪の少女「でも今日は氷いっぱい持ってきたから!」
    ツインテールの少女「そういう問題じゃないですー!」

    賑やかだ。こうやって賑やかな会話を聞いてると、なんだか自分が一人だって事が際立って体感できる。
    だから苦手だ。
    シンジは一応、と座らされた椅子に座りながら、そんな事を考えていた。
    すると急に部屋のドアが開いた。

    メガネの教師(らしき人)「みんなー!おっまたせー!さあ!かき氷食べましょう!」

    そう元気に叫んだあと、その教師とシンジの目が合った。
    部屋の空気がピタッと止まる。
    そうか、部外者って言ってたしな。でもここ学校っぽいけど、死後の世界に学校なんてあるのかな…。
    シンジが教師を見つめながら考えていると、教師はゆっくりと口を開いた。

    メガネの教師「あら、こんな男の子っぽい子、うちに居たかしら?」
    一同「なんでそうなるー!!」

    入ってきたときは涼しく感じた部屋が、いっせいに転ぶ人々の熱気で少し暑く感じた。


    9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:25:01.87

    唯「…で、おっきな犬がいるなぁーって思って近寄ったら、汗だくの男の子が座っててー!」
    カチューシャの少女「猫じゃなかったのかよ…」
    唯「…あ、そうだった、でも、なんか大変そうだったから…」
    メガネの教師「だからって、無断で学校に入れちゃ駄目じゃない…第一ここ、女子高だし…」

    そう言ってシンジの顔を覗く教師。じょしこう?って事はこの人達、高校生か…どうりで少し大人っぽいわけだ。
    物思いにふけるシンジに見つめられていると勘違いした教師は、少し恥ずかしそうに、こほんと咳払いをしてから唯に体を向ける。

    メガネの教師「じゃあ唯ちゃんの知り合いではないのね」
    唯「はい…」
    メガネの教師「きみ、名前は?年はいくつ?」

    そう言って再びシンジを見てくる教師。シンジはこの部屋に入ってきて初めて声を発した。

    シンジ「碇…シンジです。年は14歳です…」
    メガネの教師「ちょっと~!中学生じゃない!」
    シンジ「…ご、ごめんなさい…」

    シンジはそう謝ると、視線を床に落とした。



    10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:26:01.26

    メガネの教師「あ、そ、そういう事じゃなくて…」
    カチューシャの少女「あー!さわちゃんが中学生イジメたー!」
    メガネの教師「うっさいわね!」

    やっぱり、僕は一人なんだ。唯さんと会わなければこうやって誰かに迷惑を掛けることも無かったんだ。
    ますます落ち込むシンジを見たさわちゃん、と呼ばれる教師は少し検討した後に、

    さわちゃん「まあ…今は夏休みで学校には誰も居ないし、今日は特別に、ね!」

    と笑顔を見せた。
    シンジは床からさわちゃんに視線を移した。
    その笑顔にミサトの面影を感じ、なんだか涙が出そうになったが、堪えた。



    11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:26:52.20

    カチューシャの少女「あー!ほらー!さわちゃんがビビらせたから涙目ー!」
    さわちゃん「なんでよー!あー!泣かないでー!かき氷食べましょ?ね?」

    駄目だ。シンジの肩に触れられた手の温もりがなんだかとても懐かしくて、涙が止まらなかった。
    最初は静かに、そしてだんだんと強くむせび泣くシンジを部室の一同は優しく慰めた。

    唯「はい、シンジくん。かき氷だよー」
    シンジ「…ありがとうございます」
    カチューシャの少女「まあ~、何かの縁だしさ!ゆっくりしてってくれよな!」
    シンジ「…ありがとうございます」
    クリーム色の髪の少女「おかわりもありますよ~」
    シンジ「…ありがとうございます」
    唯「シンジくんさっきからそればっかり。ふふっ」
    シンジ「…あ、ご、ごめんなさい」
    カチューシャの少女「あ、今度は謝りだした」
    一同「ははは」

    かき氷を頬張ると、その冷たさで頭がキーンとした。
    なんだろう、本当に、生きてるみたいだ。
    痛さに顔をしかめながらもふと黒髪ロングの少女を見ると、一瞬目があった後に急いで視線を逸らされた。
    なんだか恥ずかしくなって視線のやり場にこまり、ふと部屋の水槽に目をやる。
    なんだ、この生き物は。水中に漂う謎の物体がシンジの目を引いた。



    12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:28:05.93

    シンジ「…」
    唯「かわいいでしょー!」
    シンジ「…はい、こんな生き物…初めて見ました」
    唯「トンちゃんだよー!スッポンモドキのトンちゃん!」
    シンジ「トンチャン?…スッポンモドキ?」
    カチューシャの少女「亀だよ!亀!」
    シンジ「…カメ?」
    カチューシャの少女「まさか亀を知らないなんてこと…無いよな?」
    シンジ「…えっと……」
    カチューシャの少女「…え?」
    さわちゃん「もしかして…」
    一同「…」
    さわちゃん「ムギちゃん並みの箱入り息子!?」
    一同「ずこー」
    黒髪ロングの少女「で、でも亀を知らないって…どういう事?」
    シンジ「…」
    さわちゃん「もしかして、記憶喪失?」
    シンジ「いや!そんな事は…無い…はずです。ちゃんと記憶はありますし…」

    そう言った後、ふいに頭に浮かんできた人たちの顔を消そうと、シンジは目をぎゅっと閉じた。


    13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:28:56.23

    完全に聞こえている。しかしこの反応には違和感を覚える。
    死後の世界だとしても、生前の世界では日本に住んでいたのだろうから、第三新東京市は分かるだろう。
    一同のシンジを見る目が明らかに不審者を見るような視線に変わったのが分かった。
    肩身が狭い。やっぱり居心地が悪い。

    唯「もしかして、他の世界から来たとか!?」
    カチューシャの少女「唯~、お前は黙ってような~」

    (他の世界…世界…自分が居た世界とこの世界が違う?あの世って事じゃなくて?
    僕は死んだんじゃ無かったのか。エヴァに乗って、世界を守るため、
    いいや……人に言われたから乗っただけか…
    使徒と戦って、そしてあの白いエヴァ達に…
    それにしても、確かにこの世界は何だか違う。
    でも僕のこの記憶自体が間違っているとしたら?
    アスカや綾波、ミサトさん、トウジやケンスケ、みんな僕の記憶の中だけに存在するとしたら?)

    心臓がさっきよりも早く、強く鼓動を打っているのが分かる。
    目の前がグラグラしだして、今にも倒れそうだ。


    14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:29:52.24

    シンジ「……もしかしたら…やっぱり」
    一同「…」
    シンジ「記憶…喪失かも…知れません」
    一同「……」
    唯「…って何?」
    一同「おいっ!」

    かき氷は半分くらいしか食べられなかった。
    氷は溶けて、器の中には色の付いた水が残っている。
    オレンジ色。LCLの色にそっくりだ。
    あのあと部室では誰も口を開かず、かき氷を崩すシャリシャリといった音だけが響いていた。
    しかしシンジが一番混乱し、そして落ち込んでいたのは誰にでも分かることであった。

    シンジ「…ごめんなさい」
    唯「なんで謝るの~?」
    シンジ「僕が来なかったら、こんなに…雰囲気も悪くならなかったし…その…」
    唯「そんな事ないよ~。それよりもシンジくんの記憶、もどるといいね!」

    そう言って優しく微笑む唯の笑顔は、自分が幼い頃に亡くした母親、碇ユイに似ていた。
    夕陽が差し込んだ、オレンジの光は、エントリープラグの中を連想させる。
    記憶喪失なんかじゃない。シンジはそう確信していた。


    15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:30:38.89

    カチューシャの少女「じゃ~、そろそろ帰るか~」
    ツインテールの少女「結局今日も練習しなかった…うぅ…」
    黒髪ロングの少女「まぁ、今日は仕方ないだろう」
    シンジ「ご、ごめんなさい…」
    黒髪ロングの少女「あ、いや…あの…」

    なんだろう、この黒髪ロングの少女も人と接するのが苦手なのだろうか。
    まともに目も合わないが、シンジにとっては都合が良かった。

    さわちゃん「シンジくん、今日はどうするの?」

    真剣な顔でさわちゃんがシンジを覗く。

    シンジ「え……ど、どうしよう…行くところも…ないですし…」
    唯「じゃあ、うち来る?今日は憂と二人だから!」
    一同「駄目!!!」
    唯「えー、なんでぇー」
    さわちゃん「…うーん、じゃあ、今日は私の家に来る?」
    カチューシャの少女「うっわー!さわちゃんエローい!」
    さわちゃん「やかましい!」
    カチューシャの少女「あ痛ぁー!」



    17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:31:22.82

    シンジ「で…でも…」
    さわちゃん「ええい!うちに来なさい!お巡りさんに補導されても良いの!?」
    シンジ「……じゃ、じゃあ…」
    カチューシャの少女「さわちゃ~ん、いくらなんでも、中学生に手を出しちゃ…」
    (ゴツン!)
    カチューシャの少女「あ痛ぁー!」
    さわちゃん「でも、明日はちゃんと警察に行くこと!私もついていってあげるから!」
    シンジ「…はい」

    補導?警察?もうここが死後の世界だなんて考えは弱まってきていた。
    自分の居た世界とは違う、全く別の世界。そんな有り得ない事象の方が納得が行く。

    家に着いた後、さわちゃんは家族のことや学校の事など、さすがにいろんな事を聞いてきた。
    シンジは自分の記憶を確かめるように、ひとつずつ詳しく話した。
    母さんは居ないこと。父さんと仲が悪いこと。
    ミサトさんとアスカと暮らしていたこと。
    綾波っていう友達がいたこと。
    トウジやケンスケと仲が良かったこと。
    けれどもエヴァや使徒に関することは何も話さなかった。
    この世界には使徒も居ないし、ラジオから流れるニュースでは水難事故とかそういった事ばかりだった。

    海で泳ぐ人なんて居るんだ。シンジはあの世界に広がっていた赤い海を思い出しながら、奇妙な光景を想像していた。



    20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:32:16.46

    さわちゃん「てなわけで」
    カチューシャの少女「今日も連れてきたわけね…」

    そう言って向けられる少女たちの視線を少しでも避けようと、背中を丸めて床を見つめる。

    さわちゃん「まあ、シンちゃんも色々大変みたいなのよ。でもしっかりしてるし、特に心配いらないわ!」

    昨日、色々話していると、突然さわちゃんが泣き出した。
    親御さんとも色々あって大変なのに、そのうえ記憶喪失だなんてー!!と泣き叫びながらシンジの頭を撫でてきた。
    人に優しくされるのは怖い。優しくされなくなった時の事を考えてしまうから。
    けれどもシンジは、自分を心配して泣いてくれるさわちゃんの事を怖いとは感じなかった。

    ツインテールの少女「でも、親御さんとか心配してるんじゃ…」

    そう言ってシンジを見つめる少女は、心配しているような、それとも何かに怯えているような、子猫のような顔をしていた。
    でも心配するような親は居ない。もう、誰も居ないんだから。


    22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:32:59.15

    さわちゃん「ま、まあ…シンちゃんも、色々大変なのよ!」
    カチューシャの少女「それさっき聞いた」
    さわちゃん「そ、そうだっけ…」

    でもここを出てもどこに行けばいいのか、何をすればいいのか、シンジには分からない。
    それに唯を見てると母さんや綾波を思い出して、何だか落ち着く。
    性格も顔も似ては居ないけど、なんだか面影があるような。
    姦しく討論を続ける部員たちをぼーっと見ていると、カチューシャの少女が大きな声でまとめた。

    カチューシャの少女「まあ、さわちゃんが良いって言うならあたしはオッケーだけどな!」
    黒髪ロングの少女「お、オッケーって何が?」
    カチューシャの少女「いや、こうやって部室でまったりするくらいなら良いだろ?なあムギ!」
    クリーム色の髪の少女「ええ。そう思ってケーキも多めに持ってきたの」
    唯「さっすがムギちゃん!」
    クリーム色の髪の少女「えへへ…」

    そう言ってまた部員同士で会話が始まる。またシンジがそれを眺めていると、さわちゃんがそっと耳打ちした。

    さわちゃん「まあ、心配しないで。皆もいい子だし、ゆっくりしていけばいいわよ」

    そう言うとさわちゃんはケーキの箱を開き、わー美味しそう!どれにしようかしら、と声を上げて部員たちの注意をケーキに向けた。
    人と接するのはもうやめようと思っていたけれど、唯やさわちゃんは屈託なく自分を迎え入れてくれている。それが何だか嬉しかった。




    23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:33:53.22

    唯「シンジくんはどれにする~?」
    シンジ「あ、あの…ぼくは…残ったやつを…いただきます」
    唯「はい!じゃあシンジくんはショートケーキね!あたしといっしょだよー!」
    シンジ「ありがとうございます…いただきます」

    ショートケーキを頬張りながら、笑顔でティータイムを過ごす部員たちを見渡す。
    これからどうすれば良いのか検討も付かなかったが、どの道こんなに疲れる死後の世界なんて無いだろう、とシンジは考えを改めていた。


    24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:34:36.68

    シンジ「あの…唯…さん」

    『ゆい』という名前を口にするのは何だか恥ずかしかった。
    それ以上にこの部屋には女性しか居ないのがシンジには居心地が悪かった。
    ミサトやアスカと同居していたので女性に対する免疫が無いわけではないが、
    まず全く知らない人たちとこうしてお茶を飲んでいる状況自体、全く理解できず、混乱していた。

    唯「んー?なにー?」
    シンジ「ここ、部室、って言ってましたよね?みなさん、何部なんですか?」
    カチューシャの少女「おいおいさわちゃーん、何も話してないのかよー!」
    さわちゃん「だって…話聞くのでいっぱいいっぱいで…」

    事実、昨日はシンジの話ばかりで、軽音部の話は何も聞いていなかった。

    カチューシャの少女「ふっふっふ…気になるならぁ、仕方がない!我々は!世界を大いに盛り上げr」
    (ゴツン!)
    カチューシャの少女「あ痛ぁー!」
    黒髪ロングの少女「真面目にやれ!」

    この黒髪ロングの少女はシンジとは全く話さないが、カチューシャの少女に対してはかなり強気なようだ。
    タンコブをこしらえたカチューシャの少女が話を再開する。



    25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:35:15.10

    カチューシャの少女「うちら、軽音部なんだー」
    シンジ「…軽音部……」
    カチューシャの少女「まさか、軽音部知らないって事は無いよな!?」
    シンジ「わ、わかります!バンド、ですよね!」
    カチューシャの少女「そうそう!うちら5人でバンド組んでるんだ!」
    シンジ「へぇー」
    唯「シンジくんは何か楽器やってるの?」
    シンジ「ぼ、僕ですか?…僕は…チェロを…」
    唯「え!チェロ!?おいしいよね~。あのサクッ!とした食感と、砂糖のザラザラした感じが…」
    シンジ「い、いや…あの」
    ツインテールの少女「唯先輩!それはチュロスです!チェロですよ!チェロ!」

    このツインテールの少女は後輩なのだろう。誰に対しても敬語を使っている。
    しかし見た感じでは唯よりもこの子の方がしっかりしているように思える。

    唯「へぇ~、チョロかぁ~、かわいいね~!」
    シンジ「いや、チェロ…」
    カチューシャの少女「聴かせてくれよ!あたしロックしか分からないんだけどさ~!」
    シンジ「いやでもチェロなんて」
    さわちゃん「ここにあるわよ!!!」

    そう言ってさわちゃんはどこからか持ってきたチェロをシンジに渡した。


    26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:36:04.72

    シンジ「なんでチェロが!?」
    カチューシャの少女「さわちゃんは、吹奏楽部の顧問なんだぜ~!」
    シンジ「へぇ…チェロまであるなんて、すごい大きな部なんですね!」
    さわちゃん「間違えて発注しちゃいました!てへぺろ!」
    黒髪ロングの少女「いや間違えてとかそういうレベルじゃ…」

    頭をかかえる黒髪ロングの少女と、笑い飛ばす一同。
    この部活、楽しそうだな、とシンジは思った。
    少し羨ましいのかもしれない。
    部活とネルフを一緒にするのも変な話だが、父親であり総司令官でもある碇ゲンドウが
    もっとコミュニケーションの取れる人間だったら、もっと変わっていたかも知れない。

    ふと父親の事を考えていることに気づき、シンジはまた自分の脳内を恨んだ。

    カチューシャの少女「じゃあ聴かせて!」
    シンジ「はい…」


    …♪……♪………♪



    27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:36:42.64

    一同「わー!(パチパチ)」
    唯「すごーい!上手だねー!チェ郎もいい音!」
    シンジ「チェ、チェ郎…って?」
    唯「うん!チェロのチェ郎!かわいいねー!」

    なんだろう、自分のチェロではないけど、そうやって名前を付けられると少し愛着が湧いた気がする。
    次々に賛辞の言葉をシンジに向ける部員たち。
    でもこうしてチェロを褒められると、アスカを思い出して、なんだか切なくなった。

    カチューシャの少女「じゃあ次はうちらの番だな!」
    唯「そうだね!私たちの演奏も聴いて!」

    そう言ってセッティングに取り掛かる部員たち。
    各自のパートが、シンジの予想していた通りで少し嬉しかった。
    バンドの生演奏はテレビでしか見たことがない。
    セッティングの最中、アンプから響くベースの重低音で肌がビリビリする。
    スネアの乾いた音が耳を突き抜ける。

    音のせいか、それとも演奏に対する期待からか、心臓が高鳴っていた。



    28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:37:20.73

    唯「どうも!放課後ティータイムです!それじゃー、メンバー紹介しまーす!」

    椅子に座ったシンジとさわちゃん、二人の観客が拍手する。

    唯「まずは、ベース・ボーカルの秋山澪ちゃん!恥ずかしがり屋さんだけど、しっかりものなんだよ!」
    澪「よ、よろしく…な」

    シンジはこの2日間で初めて澪とコミュニケーションを取った。
    今度は互いに視線をそらさず、しっかりと目を見て、会釈をした。
    とても美形だが、少し緊張しているのか、その表情は凛としている。

    唯「次にキーボードの琴吹紬ちゃん!とっても優しくて、いつもケーキ持ってきてくれてるんだよ!」
    紬「楽しんでいってくださいねー」

    紬とはまだ会話らしい会話をしていないが、唯の紹介通りきっと優しい、ほんわかした人なんだろうと思っていた。
    ケーキを運ぶときに触れた髪の毛が、とてもいい匂いがした。


    29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:38:05.37

    唯「そしてギターのあずにゃん!あ、中野梓ちゃんです!2年生だけど、しっかりしてて…あと猫みたいでかわいいでしょー」
    梓「ちょ、ちょっと!ちゃんと紹介してくださいよ!」

    そう言って顔を赤らめて唯に抗議する梓は、シンジから見ても幼い、猫っぽいといった紹介が的を得ているなあと感じた。
    動くたびに一緒に揺れるツインテールが、さながら猫の尻尾のようだった。

    唯「ドラムの田井中律ちゃん!軽音部の部長で、面白いんだよー!」
    律「へへっ!唯には負けるけどな!シンジ、よろしくな!」
    シンジ「はい、よろしくお願いします」

    律は唯の次にシンジによく話しかけてくる。
    なんでも、律の弟も中学生で、中学生の扱いにはなれているからだそうだ。
    けれどもそれだけじゃなくて、やはり部長ならではの細かな気配りや配慮で、気を使ってくれているのだろう。シンジはそう感じていた。

    唯「そしてギター・ボーカルの平沢唯です!この子はギー太です!」

    そう言ってピカピカに光るギターをシンジに見せる唯。
    最初に会った時から笑顔の絶えない、明るい人物だ。
    シンジも唯には何故だか心を開けそうな気がしていた。


    唯「それじゃあ聞いてください!『ふわふわ時間』!!!」
    律「1,2,3,4,1,2,3…」

    …♪……♪………♪


    31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:38:44.66

    シンジ「…」
    一同「…」
    シンジ「…」
    律「ど、どうだった…?」
    シンジ「…すごい!凄いです!僕、感動しました!」
    律「おー!ありがとうなー!(いやー、ちょっと途中ミスったからヤバかったんだけど…)」
    唯「へへへ~」
    シンジ「僕もこうやっていろんな楽器で合わせられたら、もっと楽しかったんだろうな…」
    澪「チェロは、一人だけでやってたの?」
    シンジ「はい…始めたきっかけも曖昧ですし…やめるきっかけが無かったから続けてただけです…」
    唯「も、もったいないよぉ~!」
    シンジ「え?」
    唯「あんなに上手いのに、バンド組まないなんて勿体無いよ!」
    梓「いや唯先輩、チェロはバンドではなく…」
    唯「ねえ!一緒にバンドやらない?きっと楽しいよ!」
    シンジ「え…いや、あの…でも……みなさんの迷惑になるし…せっかくこの5人で組んでるんだから…」
    唯「わたしね、みんなとバンド組めて、本当に毎日が楽しいし、うれしいんだ!シンジくんもきっと喜んでくれると思う!」
    シンジ「……楽しい…?」

    楽しい事なんて、人生の中で数えるほどしか無かった。
    トウジやケンスケと一緒に寄り道しながら帰った事もあったけど、使徒のせいで疎開してからは会えなくなった。
    アスカとも綾波とも、この軽音部の人たちのように、一緒に笑いあう事は無かった。
    自分から楽しいことを避けていたのかも知れない。
    楽しいことがあった分、そのあと悲しいことがある気がして。
    実際、シンジの“人生”は昨日、異常な終わり方を迎えた。
    誰も居なくなった。
    そして分かった。
    誰かと絆が深まれば深まるほど、時間を共有するほど、失った時の悲しみは大きい。



    32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:39:47.74

    >>30

    すみません、これがSSスレ初デビューです><
    色々と慣れていないので、見辛いかも知れませんが、よろしくお願いします!


    33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:40:24.67

    唯「シンジくん!」

    唯の声ではっと我に帰った。シンジの手を握り、まっすぐに見つめる唯の表情は真剣そのもので、シンジの心臓は再び高鳴った。

    シンジ「……やりたいです。僕も。僕もバンド、やりたいです!」
    唯「わーい!」
    さわちゃん「まあ最近じゃバイオリンが居るロックバンドもあるしねぇ。チェロが居てもおかしくはないんじゃない?」
    律「そうだな、面白そうだし!いいんじゃないか?」
    澪「シンジ君は他校…っていうか、うちの生徒じゃないから文化祭とかには出られないけど、外のライブとかなら出られるしな!」
    紬「この夏休みを使えば、きっと形になると思うわ!」
    梓「…新しい試みも、大事ですよね!」

    誰かに強要されるのではなく、自分で決めること。
    エヴァに乗るのも、きっかけはあの人に呼ばれたからだったけど、最終的に乗るって決めたのは自分だ。
    それでも自分で決めて、自分の為に何かを頑張る。
    当たり前の事だが、シンジには新鮮に感じられた。

    シンジ「あ、でも…みなさん…高校3年生って事は…大学受験…とか」

    高校3年生、の辺りでシンジが何を言わんとするか察した一同は、ピタリと止まった。
    しかし勢いは止まらず、大学受験、という単語を発した瞬間、完全に空気が凍った。

    梓はやれやれ、といった感じでため息をついた。



    34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:41:00.54

    律「ま…まぁ、大丈夫だろ!それとこれとは別!」
    澪「そうそう。まあどうせ律は大学受験も一夜漬けだろうしな!」
    律「な、なにをー!!」

    二人は冗談めかしてくれて、他の部員もそれを笑っているが、本当に良いのだろうか。
    自分のやりたいことが出来るとはいえ、他人に迷惑を掛けるのならやめたほうが良い。
    シンジはもう一回口を開こうとしたがそれより先にさわちゃんが耳打ちしてきた。

    さわちゃん「シンジくん、皆はきっと迷惑だなんて思ってないわよ。人の為に何かをしてあげたいって気持ちは、大事にするべきだし、素直に受け取るものよ」

    そういってウィンクをしたさわちゃんを見て、シンジはじーんときた。
    また律にからかわれる。シンジは笑いあう部員達の和の中に自分から入り、一緒に笑った。

    さわちゃん「じゃあ、そろそろ警察署に行きましょうか」
    唯「えー!何か悪いことでもしたんですか!?」
    さわちゃん「違うわよ!ほら、シンジくんの身内の方でシンジくんを探してる人が居たら、大変でしょう?だから警察に相談に行くのよ」

    シンジを探している人なんてこの世界に居るのだろうか。
    あっちの世界でも、ネルフを抜けた際についてきたのは黒いサングラスに黒いスーツ姿の、諜報部の大人だけだった。
    もう一人なんだ。

    でも今はあんなに望んでいた一人になることが、少し切ないことに気がついた。



    36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:41:41.89

    律「じゃあ!うちらもついていくか!」
    唯「いいねぇ~!」
    さわちゃん「あんたたち、遊びに行くんじゃないんだから…」
    唯「…ほら!シンジくんも、行こう!」

    そう言って唯はシンジの腕をつかんだ。シンジは考え事をすると怖い顔になっている事が多い。
    本人には自覚がないがそれは他人を寄せ付けないオーラが出ている。
    それに気づいたのかは分からないが、唯は考え事をしているシンジに話しかけることが多い。
    唯は誰にでも優しい。
    けれどその「誰にでも」の中に自分も含まれているということが、シンジにとっては何よりも嬉しかった。

    警察署では全国どこからも捜索願などは出されていないという。
    そんなの当たり前だ。誰も知り合いなど居ないのだから。
    シンジは名前と年齢と、そして碇ゲンドウの名を警察官に告げ、住所は分からないと答えた。
    さわちゃんはその後も詳しい話などをするため、警察署に残った。
    さわちゃんにお辞儀をし、シンジが警察署を出ると、軽音部の5人は主人を待っていた飼い犬のように、明るく迎え入れた。



    37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:36.87

    唯「どうだった~?カツ丼、美味しかった?」
    シンジ「カツ丼?」
    澪「ドラマの見過ぎだ!だいたい事情聴取じゃないんだから…」

    そうか、シンジもテレビで見たことがある。
    古いドラマで、警察に事情聴取を受ける悪人が、泣きながらカツ丼を食べるシーン。
    美味しそうだったなあ、などと考えていると、お腹がグーっと、同時に2つ音を立てた。

    シンジ「あ、ご、ごめ」
    唯「ごめーん!お腹空いちゃった!!」
    律「そうだなー、じゃ、バーガーでも食べて帰るか!」
    梓「いいですね!」

    シンジの居た中学のクラスでは、授業中にお腹を鳴らしたトウジをヒカリが説教していた。
    お腹の鳴ることは恥ずかしいことだと思っていたけど、この人達は気にしないみたいだ。
    シンジはお腹をさすりながら、考えていた。

    律「あたし、ポテトとコーラ!」
    唯「あれ、りっちゃん、それだけ?」
    律「あ、ああ…今月ピンチなんだよ…スティックも買いたいし…」

    ケンスケもたまに、ピンチだからと言って帰り道にアイスを食べない日があった。
    その前の日に大きなモデルガンや戦車の模型などを嬉しそうに眺めていたから、きっと金はそちらに飛んだのだろうと想像がついた。

    そうだ、お金。

    シンジは自分の制服に付いている、合計4つのポケットを確かめた。
    あったのは、SDAT。ミサトのネックレス。それだけだった。


    38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:43:37.22

    シンジ「ごめんなさい…やっぱり僕…」
    ムギ「あ、お金は良いのよ。今日はシンジくんの歓迎会だから!」
    唯「そうそう!気にしないでー!」

    そう言って律に小銭を集める部員たち。それをニヤニヤと握り締める律。
    しかしシンジよりも澪の方が気づくのが早かったらしく、

    澪「おい、自分のも買おうとしてるんじゃないだろうな」

    と釘を刺した。
    シンジは咄嗟に出そうになった『ごめんなさい』という言葉を飲み込み、さわちゃんの言葉を思い出した。

    『人の為に何かをしてあげたいって気持ちは、大事にするべきだし、素直に受け取るものよ』…

    まだその考え方には慣れないけれど、シンジは息を吸い込むと、それを吐き出す勢いで言った。

    シンジ「ありがとう、ございます…」

    思った以上に声が小さくて自分でも後悔しそうになったが、部員たちはシンジに笑顔を見せ、各々の注文をしにレジへ向かった。
    なんだろう。
    友達とまではいかなくても自分を迎え入れてくれている。それがとても心地良かった。
    席についてから、部員たちと色々な事を話した。
    と言っても殆どがシンジに対する質問で、それに対して応えるという5対1のインタビューのようなものだった。
    シンジはこの世界でも矛盾がないであろうことだけを選んで、話をした。
    自分の事を話すのは苦手だけど、この人達ならなんでも聞いてくれそうな気がする。
    シンジはハンバーガーで満たされる胃と共に、胸に広がる幸福感を覚えていた。

    皆が食べ終わる頃、律の携帯が鳴った。相手はさわちゃんのようだ。
    今日もさわちゃんの家に泊めてもらえるらしい。シンジは電話を代わってもらい、お礼を言った。



    40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:44:20.94

    律「でもシンジも大変じゃないか?」
    シンジ「どうしてです?」
    律「いや、さわちゃんって結構ずぼらっぽいからさ~。家の掃除とか、料理とかさせられてるんじゃないかな~、って」

    鋭い。さすが部長、なのかもしれない。実際昨日はシンジが料理をした。
    しかしそれは言われたからではなく、お礼として作ったのであって、さわちゃんがずぼらであるとかそういう話ではない。

    シンジ「まあ、前に住んでた家でも僕が家事をしてましたから…」

    あの家の、冷蔵庫にぎゅっと押し込まれたビールを思い出した。
    さわちゃんはあまりお酒を飲まないらしく、冷蔵庫には最低限の食料が入っているだけだった。
    幸せそうにビールを飲むミサトの顔が思い浮かんだ。

    澪「へぇー、凄いな。若いのに関心だ」
    律「澪おばあちゃんが感心しております」
    澪「誰がおばあちゃんだ!」
    律「あ痛ぁー!」

    このやりとりもなんだか既視感を覚える。そうだ、トウジとヒカリだ。
    シンジはもう、知らず知らずのうちに思い出していた「あっちの世界の人達」の事を無理やり忘れようなどとは思わなかった。
    そうして氷だけが残ったドリンクを、ぞぞぞと音を立てながら飲んでいるふりをして、1時間ほど会話をしていたら、さわちゃんがシンジを迎えに来た。

    じゃあまた明日、と部員たちと別れ、シンジとさわちゃんは車を置いてある学校へ戻った。


    41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:45:26.01

    帰路、助手席でシンジは欠伸を噛み殺して、後ろに流れていく無数の電灯を眺めていた。
    いつまでもさわちゃんの家に泊めてもらうわけにはいかない。
    どうにかして住む場所だけでも探さないと。
    そう思ったシンジはさわちゃんに話したが、そんなの気にするなとだけ言われて、カーラジオが車内に流れ始めた。
    本当にそれで良いんだろうか。
    シンジはもやもやしていたが、風呂に入らせてもらって、客人用の布団に横になると、
    どっと疲れが押し寄せて、何も考える事が出来ずに眠りについてしまった。


    ここはどこだろう。

    LCLの中?水中でありながらも、呼吸は出来ている。
    オレンジの景色が広がる。
    15メートルほど先に立っているのは、紛れもない、綾波レイだった。

    レイ「…」
    シンジ「…綾波?」
    レイ「今の私は綾波レイであり、碇君でもある。碇君も私なのよ」
    シンジ「綾波!…何を言ってるのか……僕には…!何が何だか…」
    レイ「ここは、あなたの望んだ世界。人を拒絶したあなたが、もう一度人を信じたいと願った世界」
    シンジ「僕が…望んだ世界…?」
    ?「そうだよ、シンジ君」

    声の方に振り返ると、そこには渚カヲルが立っていた。
    使徒として自分が殺した渚カヲル。
    エヴァ初号機で握りつぶした感触が鮮明に蘇ってきて、心臓の鼓動が早くなる。



    42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:46:03.13

    シンジ「…カヲル君……」
    カヲル「会いたかったよ」
    シンジ「……カヲル君…僕も…会いたかった…!」
    カヲル「そう、きみが願ったから、この世界は造られた」
    シンジ「え?」
    レイ「あなたは、傷付いた」
    カヲル「気が済むまで、自分の好きにすればいいよ」

    そう言い終わると、2人はオレンジの景色に溶けていった。

    シンジ「…待って!…待ってよ!僕を置いて行かないでよ!!」

    シンジ「僕はまた一人だ!僕を一人にしないでよ!!!」

    シンジ「待って!!!」

    はっと目が覚めた。夢、だったのか。酷い寝汗だ。
    暑さのせいもあるだろうが、あの夢が原因だろう。

    僕の望んだ世界、ってなんだろう。

    一人でこの世界に来ること?
    唯さん達とバンドを組むこと?
    さわちゃんと暮らすこと?

    いくら考えても分からなかった。
    でもひとつだけ、あれだけ忘れたかったあの世界の人達の事が、少しだけ恋しいと思っている事にシンジは気づいた。
    まだ朝までは時間があったが、寝付けそうにはなかった。



    43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:46:43.64

    律「じゃあ、練習するかー!」

    ケーキを食べ終えた部長がカバンからスティックを取り出し、腕のストレッチを始めた。
    なんだか練習なんて久々な気がします、と梓も嬉しそうにケースから赤いムスタングを取り出す。

    梓「そうそう、この前山中先生が言っていた、バイオリンのいるバンドの演奏を聴いてみたんです」
    律「おお!で、どうだった?」
    梓「ギターやベースの音に負けている感はありましたけど、バイオリンならではの高音が抜けてて聞きやすかったです。でもそれがチェロとなると…」
    澪「低音が命…。おまけにアンプラグドだからな。難しいかも」
    一同「うーん…」
    律「シンジは、何か他に出来る楽器とか無いのか?」
    シンジ「はい…僕はチェロしか…」
    澪「じゃあ、ボーカルとか!」
    律「そんな事言ってー!ライブで自分が唄わなくて良いかも、なんて思ってるんじゃないだろうな?」
    澪「そそそ、そんなんじゃない!」
    律「ふーん。ならいいけどさー!」
    澪「なんでニヤニヤしてるんだよー!」
    紬「まあまあまあまあまあまあ」
    梓「唯先輩はどうなんですか?ボーカル、先輩やらなくてもいいんですか?」
    唯「うん。私はいいかなー!」

    そう言って唯はにこにこしながらシンジの方を見ている。
    昨日のバーガーショップで軽音部の思い出話に花が咲いた時、各自のパート分けがどう決まったのか教えてもらったのをシンジは思い出した。
    各々が出来る楽器が見事にバラけていたのもあるが、ボーカルは初めから唯がやりたがっていた節があったらしい。
    特別表には見せないが、ボーカルには思い入れがあるのだと思う。
    そのパートを奪ってまで、自分がバンドに入っていいのだろうか。



    45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:47:30.12

    シンジ「あの、僕ボーカルなんて…それに唯さんが…」

    シンジがそう言うと唯は少し残念そうな顔をした。
    何故だろう。唯だってボーカルをやりたいはずなのに。
    シンジは他に何かまずいことを言ってしまったのではないかと心配になった。

    澪「実を言うとさ、昨日別れたあとも少し話してたんだけど、唯はシンジくんの唄ってる姿が見てみたいんだってさ」
    シンジ「僕の?」

    ふとシンジが唯を見ると、再び唯の顔には笑顔が戻っていた。

    唯「シンジくん、たまに難しそうな顔してるでしょ?
    わたし、ライブで唄ってる時、すごい楽しい気持ちになれるから、シンジくんにも楽しい気持ちになって欲しいって思ったんだ」

    確かに、シンジが考え事をしている時に話しかけてくるのは唯だ。
    この世界に来てから難しいことばかり考えていたけれど、そこまで気持ちが落ちなかったのは唯のお陰かも知れない。
    何度もその笑顔に母親を重ねてきたが、シンジが笑い返すことは無かった。
    しかしバンドをやってみたいと言ったのはその時の気分の高まりではなく、本当の気持ちだと今でも言える。
    誰かに強要されるのではなく、自分でやりたいと思ったことをしたい。
    シンジは新たな一歩を踏み出す決断をしようとしていた。

    シンジ「僕…上手く出来るかわかりませんけど、やってみたいです」
    唯「やったー!」

    そう言って跳ねる唯。この人のお陰で自分自身も変われる気がする。


    46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:48:10.26

    律「よし!じゃあシンジをボーカルに置いて、新曲の練習だー!」
    一同「おー!」

    頑張ろう。なんて初めて思ったかも知れない。
    チェロをやっていたのも惰性だし、エヴァに乗っている時も正直、必死なだけだった。
    放課後ティータイムの演奏を聴いて感じた感覚を、自分も発信してみたい。
    シンジは高ぶる気持ちで全身がゾクゾクするのを感じていた。

    律「うーん、でもただボーカルだけってのもなぁ」
    唯「じゃあカスタネットは?わたしが教えてあげるよー?」

    シンジはカスタネットを叩く自分の姿を想像した。

    シンジ「なんか暗くなりそうなので遠慮しときます」
    唯「そ、そんなぁっ!」
    澪「じゃあタンバリン、とかどうだ?」
    律「おぉ!オアシスのボーカルみたいだな!」
    シンジ・唯・紬「オアシス?」
    梓「イギリスの有名なロックバンドです」
    律「眉毛が太い兄弟がメインなんだよなー」
    紬「まゆげ!?」
    梓「じゃあマイクスタンドも高めにして…」
    澪「サングラスもかけようか?」

    シンジは断片的な情報をもとに、頭の中にオアシスのボーカルを想像した。
    眉毛、高いマイクスタンド、サングラス…
    何だかイロモノなバンドマンが浮かんできたが、澪や梓も乗っているということはそれなりにカッコいいものなのだろう。
    とりあえずシンジのパートはボーカル(タンバリン付)に決定した。



    47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:48:52.65

    練習初日は、簡単なメニューで終わった。
    というのも既存の曲が唯と澪に合わせて作られたものであるため、シンジにはキーが合わず、唄えなかったのである。
    新曲が出来るまでは6人での練習は中断せざるを得ない。

    放課後ティータイムの作曲は紬が担当している。
    楽譜の読めるシンジは、ぜひ一緒に曲を作る作業がしたいと申し出た。

    次の日からの作曲作業は思いのほか捗った。
    ムギがコード進行の候補を挙げ、澪と梓、そしてシンジが意見を言っていく方法は当たりだったのかも知れない。
    いつも以上に出来が早いよ、と澪は嬉しそうにつぶやいた。
    作業に没頭していたせいか時間が経つのも忘れていた4人を我に返させたのは、唯と律の「お茶のみたーい」の一声だった。

    今日のスイーツは、羊羹だった。それに合わせて、紅茶ではなく緑茶が出された。
    部室をいい匂いが包みこむ。

    皆幸せそうに羊羹を頬張っていると、部長がふと呟いた。


    48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:49:26.53

    律「そうそう、ライブのお誘いが来たんだけどさ」

    シンジはむせそうになった。そっか、ライブをやるためにバンドをやってるんだ。
    改めてそう意識すると手にじっとりと汗をかいてきた。

    唯「お誘いっていうと、この前誘ってくれた?」
    律「そう、ラブクライシスのマキちゃんが!」
    シンジ「ラブクライシス…なんだかカッコいい名前だな…」
    唯「うん!曲もカッコいいんだよー!」
    澪「日にちは…夏休みの最終日か。まだ時間はあるし、大丈夫そうだな!」
    律「あれ~?今回は余裕だな?」
    澪「ま、まあ!二回目だからな!」
    律「とか言ってぇ、今回はボーカルじゃないから気が楽なんじゃ…?」
    澪「…」
    律「あれ、図星?」

    そんな訳で、シンジを含めた放課後ティータイムのライブは夏休みの最終日に決定した。
    シンジはなんだか他人事の様な感じがしたが、これから練習して、大勢の人の前で唄うことを想像したら何だか緊張してきた。
    それと同時に、高揚感も感じていた。早く唄ってみたい。
    こんな気持になるのは、生まれて初めてかも知れない。


    49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:49:57.04

    シンジ「唯さん」
    唯「ん?なーにー?」
    シンジ「あの…僕、歌を唄ったことがあまりないので…その…教えてもらえたらな、って」
    唯「そっかー!じゃあ、練習しよう!そうしよう!」
    澪「うん、曲作りもあとは歌詞だけだし、ボーカル練習も始めたほうがいいな!」

    シンジ「翼をください…?」
    唯「うん、これだったら音程も合うかな、って!」
    澪「うちらでアレンジしたバージョンがあるんだ」
    シンジ「へぇー!」
    律「じゃ、一回演ってみるか!」

    …♪……♪………♪

    シンジ「すごい!カッコいいです!!」
    律「だろ~?」
    梓「じゃあ、シンジくんを入れてやってみましょう!」
    シンジ「は、はいっ!」

    …♪……♪………♪


    50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:50:39.46

    シンジ「駄目…だ…」
    澪「ま、まあ最初だからな、そう上手くいくもんじゃないよ…」

    悔しかった。
    放課後ティータイム5人の一体感のあった演奏が、自分の歌で台無しになってしまった。
    緊張で声も出なかったし、テンポにもついていけなかった。

    シンジは額の汗を拭いながら、メンバーに謝った。

    紬「そんな!謝らなくていいのよ、最初から完璧だったら練習なんて要らないもの」
    梓「そうです!何回も練習しましょう!ね!唯先輩!」
    唯「うん!わたしもさわちゃんに特訓してもらったからね!それをシンジくんに伝授してあげよう!」
    律「ん?さわちゃん?」
    一同「あー!!!」
    シンジ「そっか、さわ子先生に教えてもらえば良いんですね!」
    澪「確かに、その方がいいかもな!」
    唯「ぶー。わたしが教えてあげようと思ったのにー」

    唯は頬を膨らませながら、拗ねた仕草をした。
    唯には申し訳ないが、それでも自分を気にかけてくれていたのが嬉しかった。


    51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:51:29.65

    唯「あ、そうそう!歌を唄うときは、笑顔でね!笑顔にしたい人の顔を想像しながら唄うんだよ!」
    シンジ「笑顔にしたい人…か」
    唯「うん!」

    笑顔にしたい人、って誰だろう。
    エヴァに乗って使徒と戦うのは全人類のため、だなんて言われていたけど実際はそんな恩着せがましい事は考えてなかったし、
    笑顔にしたいなんて思ったこともなかった。
    けれどアスカや綾波、ミサトさんたちに歌を送ったら喜んでくれるだろうか。

    あちらの人々の顔が思い浮かんだ。

    シンジ「もう一回!もう一回、お願いします!」
    律「オッケー!いくぞ!」

    …♪……♪………♪

    唯「おおー!」
    澪「さっきより良くなってるよ!」
    シンジ「ありがとうございますっ!」

    もう誰とも会いたくないと思っていたけど、実際に歌を唄ってる時に思い浮かんだのはあっちの世界のみんなの顔だった。
    もし自分があの時もう少し頑張れていたら、誰も死ななかったのかも知れない。
    そんな後悔の念すら感じるようになっていた。
    悲しいことを考えて気分が落ちそうになったが、もう下は見ない。
    唯や軽音部の人たちのように、出来るだけ笑顔で過ごせたらとシンジは思った。


    52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:52:02.93

    家ではさわちゃんに発声の方法を、部室では作曲を、そんな生活が1週間ぐらい続いたのだろうか。
    シンジが加入した放課後ティータイムは見事に“形”になっていた。
    エヴァに乗っていた時とは違う、心地良い疲労感が体を駆け巡る。
    歌を唄うことがこんなに気持ち良いことだったなんて、思いもしなかった。
    そして何よりも、自ら目を背けていた父ゲンドウや、アスカや綾波に対する気持ちが変わってきている事に、自分でも気付き始めていた。


    ライブ寸前のある日の事。一通り練習を終え、ムギの紅茶を飲んでいると律が口を開いた。

    律「もうすぐライブだし、新しいスティック買わないとな~」
    梓「わたしもピック買っておかないと!」
    唯「じゃあ皆で楽器屋に行こうか?」
    シンジ「楽器屋か。行ってみたいな」
    唯「じゃあ決定!」

    年も性別も違うのに、昔からの友人の様に気さくに接してくれる軽音部のメンバーが、シンジにとっては何よりの宝物になりつつあった。

    もう人と接したくないと思っていたあの頃が、遠い昔の様に思える。



    53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:52:33.55

    楽器屋に着き、各自が自分の買い物をしている間、シンジはギターを見ていた。
    そう言えば青葉さんもバンドやってたな。
    ベースかギターか分からないけど、上手そうだった。
    そんな事を思い出していると、買い物を済ませた律が棚の影から「わっ!」と脅かしてきた。

    律「どうだ?びっくりした?」
    シンジ「いや、びっくりはしませんでした」
    律「ちぇっ、つまんねーな~!」
    シンジ「なんかご機嫌ですね」
    律「そ、そうか?分かる?いや、店員がものすっごい可愛い人でさー、オマケしてもらっちゃったんだよね!」

    可愛い店員に浮かれているのか、オマケしてもらったことに浮かれているのか。
    まあ女子が女子を見てテンションが上がることは無いだろうから、後者だろう。
    シンジはそんな事を考えながらも黙っていた。

    律「ほら、あの人!茶髪のさ!日本人離れした可愛さじゃない?」

    そう言って律が指を指す方を見て、シンジは愕然とした。


    54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:53:24.15

    シンジ「あ、アスカ…?」
    律「え?知り合い?」

    心臓の鼓動が早くなる。律の言葉も耳に入らなくなり、シンジはゆっくりとその店員に近づいた。

    シンジ「アスカ…?」

    シンジに気づいた店員は、まっすぐにこちらを見つめ返した。そしてゆっくりと口を開いた。

    店員「…?お客様、何かお探しでしょうか?」
    シンジ「…あっ、あのっ、すみません…大丈夫です」

    人違いだった。アスカと同じ髪色、髪型。けれど冷静に考えれば間違えるはずも無いだろう。
    バンド練習を続ける内に募っていた気持ちが、シンジの中で確実に膨らんでいた。
    からかう律に愛想笑いを返しながらも、複雑な思いが巡っていた。

    楽器屋からの帰り道、アイスを買って、皆で食べながら歩いていた。
    アイス屋では唯だけがダブルを頼んでいた。
    食べても太らないという唯を羨望のまなざしで見つめる澪と紬。
    しかしその手にはしっかりとアイスが握られている。



    56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 01:54:00.90

    梓「あの、シンジくん…?」
    シンジ「は、はい!?」
    梓「アイス溶けちゃってるよ?」
    シンジ「あ、ああ!ごめんなさい」

    そう言って、少し急ぎ気味にコーンに垂れたオレンジ色のアイスを舐めた。
    甘いのか酸っぱいのか、良く分からない味だった。
    楽器屋でアスカに似た店員を見かけてから頭が痛い。
    ライブまであと少し。風邪なんて引いたら洒落にならない。

    この前まで自分は誰の為にエヴァに乗っていたのか、あまり分からなかった。
    時に死にかけながらも必死に戦って、使徒を倒し、そして…。
    自分の為に何かを頑張ってみる、という考えはこれまでの人生でそこまで考えた事が無かった。
    しかしこの世界に来て、軽音部と出会って、人のために何かをする事が、自分にとっても幸せな事なのだと気付けた。
    あの時終わったも同然だった人生に、再び火を灯してくれたのは唯たちだった。

    人を信じてみたい。
    裏切られるのは怖いけど、それから逃げるような考えは捨てていた。

    その日、シンジは夢の中で再び彼らと再会した。


    60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:02:44.07

    カヲル「気は済んだかい?」
    シンジ「カヲル君!…ぼくは…何のことだか…」
    カヲル「その時は迫ってるよ」
    シンジ「……」

    雷の音で目が覚めた。近くに落ちたのだろうか。寝汗はかいていなかったが、心臓が強く鼓動していた。
    “その時”とは何のことだろう。
    ライブの事…ではないだろう。
    でもただの夢ではない、何かを予感させる、後味の悪い夢だった。


    61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:03:24.30

    雨は勢いを増し、校庭の噴水も氾濫寸前のようだ。
    いつもはこの時間にランニングをしている運動部も、今日は見当たらない。
    窓の近くに立って外を眺めていると、梓がトンちゃんに餌をやりに来た。

    梓「雨、凄いね」
    シンジ「はい」
    梓「私、雨きらいだな」

    そう言いながら梓は少し背伸びをして、水槽に餌を撒いた。

    かぷかぷと餌を食べる音が室内に響く。

    梓「シンジくんは、ライブが終わったらどうするの?」
    シンジ「えーと……」
    梓「…」
    シンジ「ご、ごめんなさい、あまり考えてなくて…」
    梓「あ、謝らないで!こっちこそ、嫌な気分にさせちゃったら、ごめん…」

    沈黙を雨音が埋める。
    トンちゃんは餌を食べ終え、再び水槽の中を泳いでいた。


    63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:04:01.49

    シンジ「僕…みなさんに迷惑かけっぱなしで…」
    梓「そんな!」
    シンジ「でも!でも…みなさん優しくしてくれて…すごく居心地が良かったっていうか…
    やっと自分の居場所が見つかったっていうか…ちょっとの間だったけど、楽しかったです」
    梓「わたしも」
    シンジ「え?」
    梓「わたしも、初めは肩に力が入りっぱなしだったけど、先輩たちが優しくしてくれて…軽音部が大好きだし、自分の居場所だなって、そう思う」
    シンジ「…」
    梓「シンジくん、寂しそうな顔してるって、唯先輩も言ってた」
    シンジ「…唯さん…」
    梓「さすがに学校が始まったら難しいかも知れないけど、それでもまた、いつかライブ出来たら、いいよね」
    シンジ「……はい!」
    梓「まあ!明日のライブの出来次第では、再検討も必要かもしれないけど!」
    シンジ「ふふっ、そうですね」
    梓「…」
    シンジ「…」

    さっきまで強かった雨脚も、だんだんと弱まってきていた。
    もう数時間で雨は止むだろう。
    唯たちが来るまで、先に練習を始めようと各々で準備をしていると、ドアが軋む音がした。
    耳をすますと、ひそひそと話す声が聞こえてくる。

    ?「ちょ、押すなよ!バレるって!」
    ?「ムギちゃん、鼻息!」
    ?「たまにはこういうベタなのも…良い!」
    ?「ねえ、やっぱり普通に入ろうよ!」

    同じようにそれに気づいた梓は、ドアを勢い良く開けた。案の定、軽音部の3年生達がどさっとバランスを崩しながら入室してきた。



    64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:04:36.46

    梓「もう!何やってるんですか!」
    律「あ、あはは…なんか邪魔しちゃ悪いかなって…」
    梓「はぁ!?何言ってるんですか!早く練習しますよ!」

    そう言って不機嫌な様子でギターを担ぐ梓の頬が、少し赤くなっているようにも思えた。
    全員がニヤニヤしながらシンジと梓を見比べていたが、シンジには何のことだか分からなかった。
    そしてなぜか最終的に梓がブチ切れ、ライブ前日の練習が始まった。

    クーラーの温度を2度下げ、氷の浮いたアイスティーを飲む。全員が「ぷはーっ」と一息ついたところで、唯が声を上げた。

    唯「あーっ!雨、止んでる!」
    律「本当だー!」
    シンジ「良かった…」
    紬「明日、頑張ってねって、太陽も応援してくれてるのね!」

    明日のライブが終わったら、どうすれば良いのか。
    考えも付かなかったし、考えたくもなかった。
    今シンジの頭にあるのは放課後ティータイムの一員として、ライブを成功させたい、それだけだった。


    65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:05:29.35

    生まれて初めてのライブハウス。緊張気味のシンジに唯が声を掛けた。

    唯「緊張するよね~、わたしたちも初めてのライブハウスは緊張しまくりだったよ~」

    唯の笑顔を見ているといつの間にか緊張も収まっていた。
    思えば最初から最後まで、唯には助けてもらってばかりだった気がする。
    リハが始まり、今回のメインである、ラブクライシスというバンドの演奏が耳に突き刺さる。
    重低音が心臓に響き、高揚感を煽る。やるしかない。シンジのテンションは高まっていた。

    紬「シンジくん、暑い?汗、すごいけど…」
    シンジ「え?あ、あれ?」

    気づかないうちに物凄い量の汗をかいていたようだ。
    背中の汗を吸い込んだシャツがヒヤリとする。そんなに暑いなんて感じていなかったし、緊張のせいだろうか。

    ラブクライシスのリハが終わり、放課後ティータイムの番になった。
    客席からは明るく、華やかに見えたステージからは、客席は薄暗く、あまり見えなかった。
    しかし誰が来る訳でもなし、どうでもいいやと思いつつマイクスタンドの高さを調整する。

    演奏の方は、ティータイムの時の緩いイメージからはかけ離れた、
    タイトで緊張感のある、クオリティの高いものだった。
    特に唯と澪は楽器に専念できるため、いつも以上に演奏に力が入っているようだった。
    シンジは緊張で声が少し出づらかったが、本番までに温めれば何とかなるレベルだったと言える。


    66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:06:10.61

    リハが終わり、シンジはホールで談笑するメンバーの輪に入れずに居た。
    このライブが終わったら夏休みの様に毎日会えなくなる。
    それどころかさわちゃんの家にもお世話になる事すら難しいだろう。
    また一人になってしまう。
    初めはそれを望んでいたはずなのに、今となってはそれが一番怖い事であると気づいた。

    逃げ出したい。

    いっそライブをしなければ……しなければ、どうなるんだろう。

    「そうやって、嫌なことから逃げているのね」

    ふと、あの言葉が頭をよぎり、シンジははっとした。

    逃げちゃ駄目だ。
    逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。

    半ば催眠的に自分に言い聞かせていたこの言葉も、今は勇気を与えられるような気がする。
    ライブを成功させて、メンバーやさわちゃんに感謝の気持ちを伝えたい。
    唇を噛み締めるシンジに気づいた唯がおいで、と手を招く。澪も、律も紬も梓も、シンジを笑顔で迎え入れる。


    68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:07:22.01

    全力で唄った。客席の盛り上がりは予想以上で、シンジも最高に楽しめていた。

    シンジ「唯さんは僕に『笑顔にしたい人』の顔を思い浮かべて唄うように教えてくれました。
    だから最後の曲は、僕に人を信じる事の大切さ、そして信じることの、幸せを教えてくれたメンバーに、

    そして、父さんや綾波、アスカ、皆に感謝の気持ちを込めて。」


    一番最後に出来たアップテンポなナンバー。
    元気な中に、どこか切ないメロディーが観客に突き刺さる。
    今回唯一シンジが作詞を担当した曲だ。
    信じること、感謝の気持ち、会いたいという気持ち、長らく忘れていたような感情が一気に溢れ出す。

    激しく点灯するオレンジの光に包まれ、放課後ティータイムは最高のパフォーマンスを終えた。


    69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:07:57.53

    律「いやー!すごかったー!シンジもすっごい歌上手くなってたし!」
    シンジ「あ、ありがとうございます!」
    澪「わたし、演奏しながらウルッと来ちゃったよ」
    紬「わたしも!」
    梓「わたしもです!」
    唯「シンジくん、楽しそうで良かったよ!」

    そう言ってシンジに笑顔を向ける唯。底の見えない優しさ。
    その優しさにシンジは癒され、前を向くことが出来た。
    もう一度人を信じたいと思えたのは、唯が居たからだ。

    シンジ「はい。…あの、ありがとう、ございました」
    唯「そんな!お礼なんて!」
    律「そうそう!そんな今日で終わりみたいな言い方~!」
    紬「いつでも遊びに…は難しいと思うけど…」
    梓「スタジオとかで会えるじゃん!そうですよね!先輩!」
    澪「ああ、そうだな!」


    今日で終わり。
    はっきりとは分からないが、もう会えないような、そんな気はライブが近づくにつれ強まってきていた。
    どこに行くアテも無いが、今の生活をずっと続けるわけにはいかない。
    シンジはそんな思いを胸に秘め、精一杯の笑顔で応えた。


    70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:08:56.60

    シンジは少し外の空気が吸いたいと告げ、長い階段を登った。
    階段を一段一段と上るたびに視界がぼやけ、頭がグラグラする感覚が強くなっていく。

    最後の1段を上りきったとき、そこにある筈の街並みは消え失せ、白い、ただ白い空間が広がっていた。
    後ろを振り返ると今登ってきたはずの階段はおろか、建物すら消えていた。
    意識が朦朧とし、考えることすら難しくなってきたシンジに、誰かが声を掛ける。

    カヲル「さあ、約束の時だ」
    シンジ「カヲル…くん?」

    疲れがどっと押し寄せたような疲労感が足にまとわりつき、シンジはその場に座り込んだ。
    オレンジの波が押し寄せる。
    ちゃぷん、ちゃぷんと寄せては返す波が、少しずつかさを増し、まばたきをするとそこは水中であった。
    呼吸は、出来るようだ。

    カヲル「気は済んだかい?」
    シンジ「…何のことだか…分からないよ」
    カヲル「ふふ…」
    シンジ「…」
    カヲル「人々を拒絶したキミが求めたのは、人々だった、って事さ」
    シンジ「…」
    カヲル「キミは他人との境界に人一倍敏感で、人一倍傷ついてきたんだ」
    シンジ「…でも!」
    カヲル「それでもキミは、人をもう一度信じたいと願った」
    シンジ「……」
    カヲル「放課後ティータイム、彼女たちはきみの希望だった」

    唯たちの笑顔がフラッシュバックする。


    81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:17:42.74

    すみません

    >>79さんの仰る通り、連投規制でした…
    もう終わりまで出来てるので、あと数レス貼るだけ…!


    82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:18:37.05

    おっ!書き込めました!
    こんな遅い時間にどうもすみません。
    あと少し、どうぞお付き合い下さい。


    85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:21:08.41

    カヲル「ここはLCLの海。人々は境界を失い、一つの生命となった」
    シンジ「…サード、インパクト?」
    カヲル「君達は、そう呼んでいたね」
    シンジ「…この世界では、誰もがキミであり、キミも誰かで在り続ける。
    他人との境界は失くなり、自分という個の境界も無くなった世界。これがキミの望んだ世界なのさ」
    シンジ「僕が…」

    温かい。目を閉じると手足の感覚はぼやけ、溶けてしまいそうな気がした。
    誰も居ない世界。シンジの望んだ世界。

    そして、背後からも声がした。

    レイ「そしてあなたが可能性として示したもう一つの世界。放課後ティータイムと共に過ごしたあの世界も、あなたが望んだ世界」
    シンジ「僕が…望んだ世界?」
    レイ「人をもう一度信じてみたい、そう願ったのは碇君、あなたなのよ」
    シンジ「…じゃあ!唯さんや律さん、澪さん紬さん梓さんさわこ先生…綾波やカヲル君、君達は一体誰なの?」

    レイ「希望よ」

    シンジ「希望…?」
    レイ「人は互いに分かり合えるかも知れない、ということ」
    カヲル「好きだ、という言葉と共にね」

    だけどそれは見せかけだ。ずっと続くわけない。いつか裏切られる。



    そう思っていた。


    86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:22:24.74

    けれど、もう一度だけ、もう一度だけ、会いたいと思った。

    軽音部の笑顔、アスカの笑顔、ミサトの笑顔、もう一度…


    シンジ「この気持ちは、本当だと思うから…」


    シンジの言葉を聞いたレイとカヲルは、少し小さく頷き、LCLの海に消えていった。
    水中を無力に漂うシンジは、遠くの方で揺らぐ人影を発見し、そしてゆっくりと目を閉じた。

    ユイ「もういいのね」

    幼い頃に別れた母の声が聞こえた。

    ふと、母の顔と、唯の顔が思い浮かぶ。
    たとえもう会えないとしても、目を閉じればいつでも会える。シンジは笑顔でそれに応えた。


    目眩の感覚が酷くなり、シンジはそのまま気を失った。


    87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/28(火) 02:23:38.21

    水の音。寄せては返す、水の音。
    目を開けると、そこには赤い海が広がっていた。

    生命の海。

    母さんや、みんなの眠る、海。

    シンジはポケットからSDATを取り出す。
    不思議と制服もこのSDATも、濡れてはいなかった。
    巻き戻しボタンを押し、カセットの頭まで巻き戻す。
    耳に慣れたイヤホンを挿し込み、再生ボタンを押すと、聞き慣れたバンドの演奏が聞こえてきた。

    こちらまで笑顔になるような、ボーカルの声。
    凛とした、芯の通ったベースの音。
    優しく、そして時には力強く演奏を支えるキーボードの音。
    走り気味だけど心地の良いドラム。
    しっかりした音で、どのパートにも負けていないギターの音。

    赤い海を見つめながら、シンジは聞き慣れたその曲を鼻歌で確かめる。
    曲が終わり、イヤホンを外すと背後からポン、と肩を叩かれた。




    「なーに鼻歌なんて唄ってるのよ、気持ち悪いわね!」

    その声の主の見慣れた赤い髪飾りの少女は、シンジと目が合うとぷいとそっぽを向いた。

    (終)

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  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/09/28(火) 20:53:21 URL [ 編集 ]
    続きマダー
  2. 名前: けいおん!大好き ◆- 2010/11/23(火) 23:07:27 URL [ 編集 ]
    楽しかった!けいおんとエヴァンゲリオンの話ってすごい!

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