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いちご「メガネの生徒会長」

  1. 名前: 管理人 2010/10/13(水) 00:30:18
    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:06:37.71
    生徒会室にいた和は、仕事に集中していて初め、誰か入ってきたことにすら気付かなかった。
    淡々と同じ作業を繰り返すことに飽きてきて、ふっと息を吐いて手を止めた途端肩を叩かれ、
    流石の和も驚いて小さな悲鳴を上げてしまった。

    「へえ、生徒会長でもそんな悲鳴、あげるんだ」
    「いちご……っ」

    後ろに立っていたのは、和の予想だにしなかった人物で、和はまたしても驚いてしまった。
    クラスメイトの若王子いちご。
    いちごとは嫌いあってる仲ではないが、それほど話すわけでもなく、プリントの受け渡しや
    その他クラスの事務的な会話しかしたことがない。だから和が驚いてしまうのも仕方が無い。


    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:10:42.20
    「それで、生徒会室に何か用?」

    和は気を取り直すと、驚いた拍子に飛び上がったときずり落ちてしまったメガネを
    戻しながら訊ねた。
    いちごは生徒会室を興味深そうに眺めながら、「別に」と答えた。

    「そ、そうなの?」
    「うん」
    「……、あの、それじゃあ出て行って欲しいんだけど。一応ここ、関係者以外立ち入り禁止だし」
    「生徒会の関係者は生徒全員、そうじゃなかった?」
    「それは、そうだけど……、そういうことじゃなくって」
    「それに、生徒会長と仲が良い唯とか軽音部の子は皆普通に出入りしてるじゃん」




    7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:13:04.50
    >>5
    悪いがいない。和スレは覗いたことも無い。


    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:17:00.50
    和は押し黙るしかなかった。
    確かに唯たちを不用意にここに立ち入らせてしまったわね、と心の中で反省する。
    今度からはちゃんと用があるときしか入っちゃだめって言わなきゃ。

    「生徒会長」
    「何?」
    「ここ、座っていい?」

    突然、いちごは和の座っている場所の丁度前にあたる席を指差して尋ねてきた。
    和は「えぇ」と頷く。いちごの手には、どこから取ってきたのかつい先日書き終えたばかりの
    去年の生徒会報告冊子が握られていた。



    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:22:12.50
    いちごはお姫様然と椅子に座ると、冊子を広げ読み始めた。
    もういちいち何か言うことが面倒臭くなって、和は再びさっきしていた作業に
    取り掛かる。

    暫く無言の時間。ただ、いちごが頁をめくる音と、和が作業をする音しか
    聞こえてこない。
    教室くらいの大きさの生徒会室には静か過ぎて、和は居た堪れなくなってしまった。
    一人でいるのならどんなに静かだって平気だ、けど二人以上いてはこんなに静かだと逆に不安になる。

    「ねえ、いちご」

    和が何か話題を振ろうとすると、いちごは「なに?」と言って顔を上げた。
    その瞳がいやに真剣で、和は「ううん、何も」って言って目を逸らしてしまった。
    いちごも何事もなかったように頁をめくり始める。

    と、ふいにいちごが口を開いた。

    10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:25:40.62
    「生徒会長って、字も上手なんだ」
    「そうかしら?」
    「うん」
    「けど、いちごだって綺麗じゃない。……それより」

    いちごに自分の字を褒められ些か驚きながらも、これで会話の糸口がつかめたと、
    和は会話を続かせようとさっきからずっと気になってたことを口にした。

    「なに?」
    「私のこと、生徒会長じゃなくて和、って呼んでくれない?」

    いちごの大きな目がさらに大きく見開かれた。何でそんなに驚くのだろう、と
    和はさらに驚いてしまった。

    「いいの?」


    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:31:08.15
    「いいのって……、勿論いいわよ?私だっていちごって呼んでるんだし」

    いちごの搾り出すような声に、和は大きく頷いた。
    生徒会長って呼ばれるほうが変にくすぐったいし嫌だ。

    「のどか」

    いちごが和の名前を呼んだ。初めて発音する単語みたいに、ゆっくりと、小さな声で。
    けど、確かに聞こえるように。


    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:41:20.81
    「なに、いちご?」
    「和」

    いちごはもう一度、今度こそしっかりと和の名前を呼ぶと、恥かしそうに俯いた。
    そんないちごの様子を見るのが始めてで、和は意外と可愛いとこもあるんじゃないって
    考えてしまった。

    「私、ずっと唯たちが羨ましかった」

    いちごは言った。和は「どうして?」と訊ねる。

    「だって、和と普通に話せるから」
    「何言ってるのよ、私たちだって普通に話せる……」
    「違う」

    いちごは和の言葉をいつもより大きな声で遮った。

    「いちご……」

    「違う、私は、ずっと、和に憧れてたから。友達としてじゃなくて、一人の女として」

    「……え?」


    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:46:17.86
    「ずっと、和を意識しちゃって、だから普通に話せなくて……。唯達を見て、私は和の
    友達以上にはなれないんだな、って思って……。だから、和の親友として、唯たちが和と
    普通に話せてるのを見て、羨ましかった」

    淡々と、けどいつものように無表情ではなく、苦しげな表情で話すいちご。
    いつもより沢山言葉を並べているせいか、多少途切れ途切れで、でもいちごは一生懸命に
    和に自分の思いを伝えようと必死に話している。
    そんないちごを見て、和は立ち上がるといちごの傍に行って頭を撫でてやった。

    「和、私は……、和の親友以上になりたい」



    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:54:39.23
    >>14
    噴いたwwwwwwwwww

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 13:59:25.61
    「……、そう」

    和は静かにそれだけ言うと、いちごの手をとって立たせた。

    「のどか?」

    いちごが不安そうに和を見る。和は「ごめんなさい」と謝るといちごの背中をそっと
    押した。いちごの身体がふらふらと生徒会室のドアの前に移動する。

    「和……」

    「私は今はまだ、いちごのことをよく知らないしわからないわ。だからちゃんと友達に
    なることから始めましょう。私と唯達がそうだったみたいに。今は、ごめんなさい」

    「……、わかった」





    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:01:00.32
    >>16
    まじでかorz
    これから和書くときは気をつける。教えてくれてありがとう。

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:04:42.17
    >>10ちょい訂正

    いちごに普段あまり褒められることの無い自分の字を褒められ些か驚きながらも、


    22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:11:22.60
    ぱたん、と生徒会室の扉が力なく閉まった。その音を聞いて、突然張り詰めていた糸が
    切れたように和はさっきまでいちごが座っていた椅子に座り込んでしまった。

    「どうしよう」

    和は呟いた。突然の、本当に突然すぎるいちごの告白に和は自分がどうすればいいのか
    わからずにただ頭を抱え込んだ。このままじゃいけない。それはわかってる。
    さっきのことでいちごを傷付けてしまったんじゃないかって、そう思うと自分の良心がひどく痛む。
    けどあのまま受け入れてしまったらきっと、もっといちごを傷付けてしまったかも知れない。

    「……、よし」

    和は声に出して自分の気持ちを切り替えさせた。このもやもやとした気持ちを
    引きずったままじゃ、生徒会の仕事だってちゃんと出来そうに無い。
    それならこの気持ちを無くすしかない。その為にはいちごのことを何とかする。
    そう、和なりに頭の中で方程式を組み立てて。

    とりあえず、いちごともっと親しい“友達”になってみよう。
    和はそう決めると、明日どんなふうに話そうかと考えながら残ってしまった仕事を
    さっさと終わらせるべく自分の席に戻ると急いで手を動かし始めた。






    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:13:12.37
    需要絶対ないと思うからとりあえずここで終わっとく。
    続きは大体決めてるけど、反応見てから書くか書かないか決めるわ。

    後書いてないカプで、王道カプ書いたこと無いことを思い出したorz

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:20:00.51
    見てくれてる人いたんだ。じゃあ書き溜めてないし遅筆ながら続けます。


    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:29:31.28
    ――――― ――

    次の日、唯と一緒に登校すると、和はまず一番にいちごの姿を探した。いつもの朝なら、
    一番初めにすることと言えば唯の身嗜みチェックなのに。
    まだいちごが来てないことに和は少しほっとしながらも、自分は今までこうやって一緒の
    クラスで過ごしていながらもいちごのことを本当に全く、登校時間でさえ知らなかったんだと
    いうことに気付いて愕然とした。

    「ねえねえ和ちゃん!私の髪、今日寝癖ってない?」

    いつもは和にされるがままになっている唯が、和の袖を引っ張って訊ねた。和は「あぁ」と
    思い出したように唯を見ると、「ちょっと寝癖ってるわよ」とポケットから櫛を取り出して
    唯の髪を梳き始めた。



    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:34:15.26
    「あー、姫子ちゃん、いちごちゃん、おはよう!」

    唯の言葉に混じった「いちご」という名前に和はびくっと反応した。唯の髪を梳き終わり、
    ポケットに櫛を戻した丁度そのときで、和は慌てて唯の視線の先に目線を移した。
    確かにそこには姫子の姿ともう一人、待ち望んでいたようであまり来て欲しくなかったような、
    微妙な心情になる人物が立っていた。

    和はすっと息を吸い込むと、何気ない仕草を装っていちごに近付いた。
    そして、いつも皆にするように「おはよう」と声を掛ける。

    「……おはよう」

    いちごはというと、昨日あったことが嘘のようにいつもと同じくそっけない態度で
    そう返すと、さっさと和の横を擦り抜けて自分の席に座ってしまった。


    31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:40:50.67
    「おっはよーっ」
    「律、朝からうるさい!」

    和が少しショックを受けて立ち止まっていると、元気のいい声とその声の主を遠慮無しに
    殴る音が聞こえた。後ろのドアのほうで、頭を抑えながらもクラスの視線が集まっていることを
    気にしているのか「おはよう」ともとれる「痛くないし大丈夫」ともとれるように手を振っている
    律と、そしてそんな律を見ながらもう、と怒っている澪の姿があった。
    澪は和の姿を見つけると駆け寄ってきて抱きついてきた。

    「のどかぁー!」
    「ど、どうしたの?澪。おはよう」
    「おはよう、和、あのな、今日英語あったって知らなくて教科書持って来てないんだ、
    どうしようー!」
    「忘れたくらいで大袈裟な……」
    「だって、この時期って大切なんだろ!?教科書忘れたらちゃんと授業受けられないし……!」
    「っていうか今日、英語なんてあったかしら?」
    「……え?」

    澪はきょとん、と和と、そして律を見ると見る見るうちに顔を真っ赤にして律の
    ほうへ走っていった。
    また律が澪の泣きそうな顔を見る為に嘘言ったのね。
    やれやれ、と溜息を付いていると、「おはよう」って後ろから声がした。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:42:31.37
    >>30
    作家気取りっていうかこういう需要ないのとか書いてると
    誰か見てくれてるって言われないと書く気失せてくるじゃん、誰かが見てる
    自信なんてないし。それに誰か見てくれたほうがやる気も出る。

    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:47:35.90
    後ろを見ると、律と澪の様子を見ながらにこにこしているムギがいた。

    「おはよう、ムギ」
    「うん。ねえ和ちゃん、突然なんだけど、今日の私、どこか違うんだけど、わかるかな?」
    「えっと……?」

    和が首を傾げると、ここっ!とムギが自分の前髪を指差した。
    あぁ、前髪が少し短くなってる。

    「切ったんだ」
    「うん、そうなの。それでね、ちょっと切りすぎちゃったかなって……」
    「そんなことないわよ。大丈夫よ」

    和が安心させるように笑ってやると、ムギはほっと息を吐いていつものふんわりとした
    笑顔を見せた。そして「ありがとう」って言うと軽い足取りで自分の席へ歩いていった。

    これで軽音部の三年生は全員お出ましね。遅刻者は無し。
    まるで保護者か何かみたいに考えながら、和は自分の席に戻った。

    始業のチャイムが鳴るまでにはまだ時間がある。今のうちにいちごに何か話しておこうか。
    そう思いながら斜め前であるいちごの席を見てみると、そこには律の姿があった。


    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:52:52.20
    さっきまで澪と話してたはずなのに。そう思いながら澪のほうを見ると、澪とムギが
    仲良く談笑していた。
    なるほど、と納得して再びいちごの席に目を移す。
    いちごは楽しそうではないが、律の言葉にいちいち反応してちゃんと言葉を返してる。
    すごい、いちご相手にちゃんと普通の会話が成立してるわ。
    もちろん、いちごと話しているとちゃんと会話できないとかそういう意味じゃないんだけど。

    和はいちごと律の様子を遠巻きに眺めながら、密かに溜息を付いた。
    どうしてか、昨日決めてなくなったはずの胸のもやもやが戻ってきていた。

    ――――― ――

    37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 14:59:10.71
    始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきてホームルームが終わり、また授業終了の
    チャイムが鳴り……。
    チャイムの繰り返しからやっと解放された昼休み、和は軽音部の面々とお弁当を広げながら、
    そうだ、と思いついた。

    授業中も、いちごにどうやって話しかければいいのかと頭の中で考えていて授業の内容が
    全然頭に入ってこなかった和は、後でノートをちゃんと見とかなきゃと思いながら卵焼きを
    口に入れているときだった。

    「そうだ」を口に出してしまっていたのか、皆が不思議そうに和を見ていた。

    「どうしたんだ、和?」
    「和ちゃんが独り言なんて珍しい~」

    澪と唯が心配そうに言った。和は「何でもないわ」って取り繕うと、箸を置いて
    立ち上がった。そして澪を挟んで隣の隣に座っていた律の元へ行くと、「ちょっといいかしら」と
    律の服の袖を引っ張った。

    38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:07:31.27


    和と律は、非常階段の踊り場で向き合っていた。ここは秘密の話をするのには最適だと
    いつか唯に教えられた和は、あえてここを選んだ。別に隠さなければいけない話題でもない
    のだけど、突然「いちごと仲良く話す方法を教えて」なんて言ったら不審に思われるだろうから。

    律は和に「ちょっといいかしら」と言われると、すぐに何かあると悟ってくれたらしく、
    「ちょっと待って」というと急いでお弁当の残りを掻きこんで一緒にこの場所に来てくれた。
    普段の律は元気すぎるくらい元気で、何も考えて無いように見えるけど実際はそんなことはない。
    いつでも第一に皆のことを考えていて、自分は目立たず他の子に光を当ててあげようとする子。
    和は律のそんなところに、影ながら憧れていた。もちろん、昨日のいちごとは違う意味の「憧れ」だけど。

    「で、なに?」

    律はよっと階段の手すりに座りながら訊ねてきた。和は「そんなとこ危ないわよ」って
    生徒会長の立場上注意しながらも、自分も階段に腰を下ろした。





    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:16:08.21
    「それで、なんだけど。律に折り入って相談があるの」
    「なんだよ、和がそんなこと言うなんて。まあ、私でよければ乗るくらいなら乗るけど?
    てっきり告白かと思っちゃったわん」

    律にしてみれば、和が言い難そうにしているのを見て言いやすいようにと思って言ったのだが
    和にしてみれば違った。和は「おかしくないと思うの!?」と律に詰め寄った。

    「うわ、なに!?つーか近い、近いし危ない!」
    「あ、ごめんなさい、つい」

    和は慌てて身体をずらした。律は反っていた身体を元に戻すとふう、と溜息。
    それから和に「何がおかしくないと思うって?」と訊ねた。

    「あぁ……、その、女の子同士が……」
    「付き合うこと?」
    「え、えぇ」
    「私は別にいいと思うけどな」
    「そう」

    和は律の答えに半ば驚きながらも頷いた。一夜明けて、ちゃんと冷静になってよく
    考えてみた和は、「まず友達から」とか何とか言ったものの、それ以上の関係になんて
    なれるんだろうか、と不安に思っていたから。
    なるほど、律みたいにそういうことに偏見を持たない子もいるんだな、と和は思った。






    41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:21:15.38
    「え、なに?もしかして和の相談ってそっち系のこと?」
    「あ、いや……」

    そう、とも言えるし違う、とも言える。微妙なところだ。だから和は返事を曖昧に濁した。
    それからこのままずるずると話してたら昼休みが終わってしまう。
    和はだから唐突に話を切り替えた。

    「律、私、いちごと仲良く話したいんだけど、どう話せばいいかしら」
    「は?」

    突然の話の変わりように律はついていけないらしく首を傾げると「なに?」と聞き返してきた。
    和はだから、と言うともう一度同じ言葉を繰り返す。

    「和が?いちごと?」
    「えぇ」
    「……、なんか意外な名前。っていうか、これとさっきの話題がどう繋がるのか全く
    わかんないんだけど」
    「でしょうね。言わなきゃだめ?」
    「出来れば。そうじゃなきゃアドバイスの仕様もないし」

    和は「そうよね」と小さく息を吐くと、昨日あった出来事を話し始めた。

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:30:14.98


    話し終えると、律はしばらくきょと、とした顔をしていた。
    それからすぐに「へえ」と声を漏らし、「いちごが、和を、ねえ」と呟いた。

    「それで、どう思う?」
    「まあ和が友達になることから始めよう、って言ったんならそれでいいんじゃない?
    和が私に話してるみたいに話せばいいんだろうし」
    「そう、なんだけど……」
    「それよりもさ、和はどう思うの?」
    「え?」

    「もし、だけどさ。もしいちごと付き合うこととかになったらどう思う?」

    和は暫く考え込むと、わからないわ、って首を振った。そして、「ただ」って続けた。



    44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:33:03.36
    「ただ?」
    「嫌じゃないのは確かね」
    「そっか」

    律は頷くと、手すりからひょいっと身軽に下りると「それならいいんじゃない?」と
    言った。

    「どういうこと?」

    「……和がもしいちごに友達として接しててもいちごは違うかも知れないだろ?
    っていうか実際違うだろうし。それで、無いと思うけどもしもいちごが和に無理矢理
    付き合って、なんて言ってきて、和が嫌って拒んじゃったりしたらお互い傷ついちゃうだろ?
    それは和の友達としても、いちごの友達としても嫌だし、もし和が同性同士が付き合うのに抵抗があるんなら
    友達になるのもやめとけ、って言おうと思ってた」

    そんなの、お互い辛いだけだから。

    律はそう言い残して「頑張れよ」って和の肩を叩いて教室に戻っていた。
    まるで、そんなことを経験したような口振りで、和は暫く、なんだか申し訳なくて
    律の顔が見れそうに無いと思った。



    46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:39:13.71
    ――――― ――

    チャイムが鳴る前には教室を戻らなきゃ、と思って和は律が行った数分後、教室へ
    戻った。
    私はもっともっと、冷静になって考えるべきなのかも知れない。
    和は自分の机に戻ると、珍しく机に突っ伏した。

    どうすればいいんだろう。
    確かに私は、もしいちごと“友達以上”の関係になったとしても嫌じゃない。
    嫌じゃないけど――本当に?
    実際体験したわけじゃないんだからそんなことわかるわけない。

    これからどうやっていちごと接すればいいのかますますわからなくなって、和は
    大きな溜息を吐いた。

    「のどかちゃーん」

    その時、突然背中に暖かな重みを感じた。唯が和に背中から抱き着いて「やっぱり
    和ちゃんに抱きつくの気持ちいいー」と本当に気持ち良さそうに声を出した。

    「それはどうも」
    「ねえ和ちゃん、さっきりっちゃんと何の話してたのー?」


    48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:44:00.95
    のろのろと身を起こすと、あまり人の事を詮索しない唯が珍しく、和に尋ねてきた。
    和は「どうして?」と訊ねる。

    「だって、りっちゃん戻ってきたときあんまり元気なかったんだ。だから何かあったのかなって」
    「喧嘩じゃないから安心して」
    「そっかあ」

    和がそう言うと、唯は本当に安心したように笑った。やっぱり、律にあんなこと話さなかったら
    良かった、と今更ながら後悔する。きっと律は昔、私が今経験していることと同じことを経験した。
    だからあんなふうに忠告したんだ。和は後で律に謝りに行こうと思いながら唯の頭を撫でてやった。






    51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 15:51:46.65
    チャイムが鳴り、再び授業が始まる。受験生にとって毎日の授業は大切。
    わかってはいるのに、和はどうしても授業に集中できなかった。

    結局今日はほとんどいちごと話せてない。
    今日何度目かわからない溜息をまた吐いていると、こつん、と背中に何かが当たった。
    先生の目を盗んで見てみると、手紙がすぐ近くに落ちていた。
    唯が小声で「ごめーん」って謝ってくる。和は「大丈夫」と返すと、手紙を開けてみた。
    手紙は律からのものだった。

    『とりあえず、いちごに手紙回してみたら?』

    律のほうを見ると、見事なウインクを返された。和は「ありがとう」と声に出さずに
    言うと、再び前を向いて筆箱からメモを出そうとした。それから今日はメモを持って来ていない
    ことに気付いて、仕方がなくノートの切れ端に書くことにする。

    なんて書こうかしら。

    いざ紙と向き合ってみると、何も文句が浮かばない。
    とりあえず……。

    『拝啓、若王子さん』

    61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 19:25:46.65
    何か変よね。
    そう思いながらもとりあえず前の席の人に「お願い」と手紙を渡した。
    返ってきた返事は当たり前と言えば当たり前。

    『なに』

    だった。しかも怒りマークつきの。
    和はどうしよう、と迷ってから『手紙を書きたくなっただけ』と書いて送った。
    結局、その授業中、その手紙の返事が返ってくることはなかった。



    教科書を片付けていると、いつのまにか隣にいちごが立っていた。

    「あ、いちご……」
    「何のつもり」

    いちごは言った。手紙を和の机に投げつけるように置く。

    「いちご?」


    62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 19:35:02.70
    「いいよ別に。そんなに無理して私と友達になってくれなくて。話題が浮かばないくらい
    私たちには何の接点もないんだし」

    いちごの嫌味の含んだ言葉に、和は何も返せなかった。確かにいちごの言う通り、
    話題でさえ満足に考えることが出来ない。そんなの友達といえない。
    だけど。

    「私はまだいちごのことがわからないから。だからなんて書けばいいかわからなくて。
    ふざけているように見えたのならごめんね」
    「そんなこと……」
    「でもこのままじゃ私たちずっと今のままよ。私は、いちごと友達になりたい」

    いちごの表情が微かに揺らいだ。

    「だから、ちょっとずつでいいから私にいちごのことを話してくれない?」

    いちごは俯くと、小さくこくりと頷いた。


    63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 19:41:01.65
    ――――― ――

    帰り道。
    和の隣には唯ではなくいちごの姿があった。二人はポツリポツリと会話を交わした。
    「好きなもの」とか「嫌いなもの」とか、まずはそんなこと。
    それから学校のことや家族のこと。いちごは全然楽しそうじゃなかったけど、
    和は構わずに話した。

    「いちごはどこの大学行くの?それとも就職?」
    「まだ決めてない」
    「何唯や律みたいなこと言ってるのよ、早く決めないと……」
    「うそ」
    「……、そう、なら良かったわ。それでどこ?」
    「F大」
    「そっか。いちごの成績なら余裕でいけるわよね」
    「まさか」

    やがて、和が別方向だから、と立ち止まった。
    じゃあね、と手を振って背を向ける和の背中に、いちごが小さく「ありがとう」と呟いた。



    65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 19:57:07.28


    その日から、和といちごは教室では挨拶する程度だけど一緒に帰る日が増えるようになった。
    生徒会の活動で遅くなる和を、いちごが待っていたこともあった。
    そんなことをしながら、ゆっくり、けど確かに二人は距離を縮めていった。



    そんなある日の帰り道。以前よりは沢山話せるようになってきたことと相乗効果で、
    和のすぐ傍でいちごが歩いていた。一緒に帰り始めた最初のほうは、二人の間はだいぶ空いていた。
    和は心だけでなく、身体の距離も近付いたのかしら、なんて考えていると、ふいに
    いちごの右手と、和の左手が触れた。そして、いつのまにかいちごの手がそっと和の
    手を握っていた。

    突然のことで、和は思わずその手を振り払っていた。

    「あ……いちご」
    「やっぱり、だめだよね」

    いちごは笑った。初めてみたいちごの笑顔は、とても哀しそうだった。
    いちごは「じゃ」とその場から動けない和を残して走り去った。

    66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 20:01:21.95
    ――――― ――

    あれ以来、いちごに話しかけようとしても悉く無視された。帰る時、いくら待っても
    いちごは現れなかった。
    いちごと話せない日が続く。それと同時に和の胸のもやもやも増えていく。

    「……、どうすればいいの」

    呟いた。答えなんて誰も知っているわけないのだけれど。

    いちごと前みたいに話すためには、どうすればいいんだろう。和は考えた。
    そして、一つの答えを見つけた。

    和は自分に言い聞かせた。
    私はいちごが好き。この気持ちはきっと恋。だから――

    67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 20:06:26.11

    「私たち、付き合わない?」

    早朝の静かな生徒会室に、和の静かな声が響く。
    来てくれないかもと思っていたいちごは来てくれた。後は自分が言うだけだ。
    意を決して和は言った。付き合わないかと。

    いちごは暫く、息を呑んで和を見詰めた。それから俯くと、「やだ」と言った。
    まさか断られるとは思っていなくて、和は「どうしてっ」と強い口調で訊ねた。

    「だって、和は私を好きじゃない。私のこと、好きだって目をしてない。
    それなのに付き合うなんて、やだ」

    いちごは最後まで静かな口調で言うと、生徒会室を出て行った。
    出て行く間際、いちごは「さよなら、生徒会長。ありがとう」と囁くように言った。

    和は一人、生徒会室に取り残された。
    そして、今になってやっと、自分のもやもやに隠された本当の気持ちに気が付いた。


    終わり。

    70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 20:14:59.01
    つまり、和は結局いちごのことが好きなんだけど、自覚がなかったから
    はっきり出来なかった。それを見破ったいちごが和を拒んだ、みたいな。
    うん、意味わかんなかったな、ごめん。
    結構急いで書いたからorz

    ちなみに自分的には和(→)←いちご←律、みたいな感じだと思ってる。

    72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 20:21:47.21
    >>71
    そっか。自分的にはこの終わり方が一番まとまるんじゃないかなって思ったんだけど。
    また書けそうなら続き書いてみる。



    77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 21:26:41.40
    ハッピーエンドになるのかバッドエンドになるのかわからないけど、
    続ける。

    80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 21:39:15.57
    ――――― ――

    あれから数日が経った。和はこの気持ちはきっと一時的なものだと思い込もうとした。
    だけど日が経つにつれて、あのもやもやが増えていったように想いはどんどんと
    膨れていった。



    「和ちゃん、一緒に帰ろう?」

    唯がそう言って誘ってくれるけど、和は「ごめんね」と首を振った。
    待っていても来ないってわかってるのに、やっぱりいちごの帰りを待ってないと
    落ち着かなくて、和は下校時間ぎりぎりまでずっと待ち合わせ場所だった場所に居た。
    教室でいちごが帰ったかどうかは確認しなかった。

    少しでもいいからここで待っていて、いちごが来てくれるんじゃないかっていう
    希望を持っていたかった。


    81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 21:52:20.85
    今日もまた、いちごを待っていると、律と澪が和のほうに歩いてきた。
    二人は大体事情を唯から聞いているのだろう、「何をしているのか」は聞いてこなかった。
    けど、律が「和、一緒に帰ろうぜ」と和に声を掛けてきた。
    和が断ろうとすると、澪が和の手を無理矢理引っ張った。

    「澪?」
    「和、強制だよ」
    「え?」

    訳がわからずに和は澪に手を引かれ外に連れて行かれる。
    外に出てみると、いちごが立っていた。

    「いちご……」
    「ほら、和」

    立ち止まっている和を、律がぽんと背中を押した。
    和の身体が前に押し出される。

    「ちょっと、律……」
    「和、一緒に帰ろう」
    「え?」

    和は一瞬、何を言われたのかわからなかった。
    そして徐々にそれを理解すると、胸に嬉しさがこみ上げてきて「えぇ」と思い切り頷いた。


    82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 22:03:05.56


    「ねえ、いちご」

    二人で歩き出したのはいいが、何も会話が浮かんでこなかった。
    とりあえず和はいちごに呼びかけた。いちごは「なに?」と和を見た。
    まるでデジャヴ。
    そもそもの始まりの生徒会室の出来事を思い出して和は密かに笑った。

    「ううん、何でもない」
    「そ」

    いちごはそう言うと、突然立ち止まって一歩先に行ってしまった和の服の袖を
    掴んだ。

    「いちご?」
    「和、もう、あそこで待ってなくていいよ。それに前にも言ったでしょ、無理しなくて
    いいって」
    「……え」

    「私ね、律と付き合うことにしたから」

    87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 22:42:52.43
    「え、なに?」

    和は今聞いたことが信じられなくて、訊ね返した。いちごは和を冷めた目で見詰めると
    同じ言葉は繰り返さず、ただ「だからもう私に関わらなくていいよ」と言った。

    そんな。
    和は呆然と今歩いてきた方向を見た。
    律は全部知っていたうえで私を送り出したの?そんなの……。

    「律にはまだ言ってない」

    私の考えていることがわかったのか、いちごが静かに言った。

    「どういうこと」
    「私が今さっき勝手に決めたこと。律はきっと私みたいに断らないから。
    今日和と一緒に帰ろうと思ったのはずっとあそこで待ってる和を見てられなかったから
    だけだし、ついでに言っておこうと思って」
    「……そんな」
    「勘違いしないでね、同情でもなんでもないよ。全部私が決めたことだし、だから
    和はもう私のこと気にしないでくれていい」



    88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 22:44:40.24

    あ、今遅くなったのはパソがおかしくなったから。
    ただ、確かに掛け持ちしてるから遅くなる、ごめん。

    いちごが悪い人になってきたよあわあわ。



    90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/11(月) 23:04:57.98
    いちごはそう言うと、「バイバイ」って手を振った。和は「どうして」って呟いた。
    呟いたけど、それはほとんど声にならなかった。いちごは聞こえない振りをして、和に
    背を向けた。

    段々遠ざかっていく小さな背中を、和は最後まで追いかけることは出来なかった。

    ――――― ――

    「和ちゃん、今日お休み……?」

    階下から唯の声が聞こえてきて、和はうとうととした眠りから目覚めた。
    唯が迎えに来てくれたらしい。

    昨日、あの場所に突っ立っていた和を唯が偶然通りかかり、連れ帰ってくれた。
    唯は何があったかは聞かずに、「じゃあまた明日」と言って帰って行った。
    そんな唯に和はどれだけ感謝したことか。

    「起きなきゃ……」

    お母さんには休む、って伝えてあるけど唯には自分からちゃんと説明しなきゃ。

    118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 16:48:49.33
    和はだるい身体を起こすと、ベッドから抜け出した。手近にあったカーディガンを
    引っ掛けて、パジャマのまま階下に下りる。階段の下りる音が聞こえたのか、
    唯が玄関から階段を覗いて「あ、和ちゃん!」と嬉しそうに手を振った。

    「和ちゃん、起きてきて大丈夫なの?」
    「えぇ、まあ。唯、あの……」
    「和ちゃん、帰り、また寄っていい?時間もないし」

    和が昨日のお礼と、そしてもう一つ、いちごとのことを話そうとしたとき、唯が
    何か察したのかそう言って和の言葉を遮った。
    母親の前だということを忘れていた和は、それでそのことを思い出してまた唯に借りが
    出来ちゃったと苦笑した。唯とは借りがどうとかそんな関係じゃないのだけど。

    「そうね、遅刻しちゃうわ」
    「それじゃ和ちゃん、お大事に。おばさん、行ってきまーす」
    「行ってらっしゃい、唯ちゃん。来てくれてありがとう」

    唯が和と和の母親に手を振り走って出て行った。開け放った玄関の扉から、転びそうに
    なった、いつものどんくさいけど愛すべき唯の姿が見えて、和の心は少しだけ軽くなった。



    121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 17:07:07.93
    ――――― ――

    部屋に戻ってみると、机の上に乱雑に置かれた参考書類の傍にぽつんと置いてあった携帯が
    弱弱しい光を放っているのに気付いた。
    和は携帯を手に取ると開けた。表示されていた名前は『律』だった。

    そういえば、と和は思った。
    そういえば、いちごのメールアドレスや電話番号でさえ、私は知らない。
    誕生日も、どこに住んでいるのかも、どこの中学出身なのかも。
    いちごの肝心なことを、和は何も知らなかった。好きなものや嫌いなもの、そんな
    どうでもいいようなことだけを知って、自分がいちごのことを知ったつもりでいたのだと
    いうことに和はやっと気付いた。




    122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 17:11:50.22
    『まずは友達から始めましょう』なんて偉そうなこと言って。
    実際は“友達”にさえなれていない。それなのに、こんな想いを抱えてしまって。
    おかしくて、悲しいのに笑いがこみ上げてくる。

    和は小さく虚しい笑いを宙に浮かべて、律からのメールを開けた。
    内容なんて大体わかってる。律のことだ、どうせ罪悪感を感じて『ごめん』って
    謝ってるメールのはずだ。

    実際その通りで、考えていた言葉すら同じで、和はまた一人、虚しく笑った。



    >>121
    ミスった、途中で投下しちゃったorz

    123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 17:20:47.78
    いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
    開け放った窓から聞こえる小学生の声で、和は目を覚ました。部屋の時計を確認
    すると、そろそろ放課後。唯が来る頃だろうか。
    でも唯のことだから学校終わったら家に来るということを忘れてそのまま自分の家に帰ったり、
    部室でムギのお茶を飲んでいたりしそう、そう思って、和はもう少し眠ろうと
    再びベッドに横になった。

    その途端、家のチャイムが鳴り階段を駆け上ってくる音が聞こえた。
    和が慌てて身を起こす暇もなく、ドアは勢い良く開いた。

    「和ちゃんっ!」

    そこには唯がいた。和は寝癖の残った頭で、近くに置いていたメガネを慌てて掛けると
    「お帰り、早かったわね」と言った。唯はえへへ、と笑うと「そうかな?」と首をかしげた。

    「そうよ、てっきりまだかなって思って……」
    「あ、もしかして寝ようとしてた?」
    「えぇ……」


    124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 17:25:31.49
    「ごめんね、それじゃあ私、いいこいいこしてあげるから和ちゃん寝ていいよ!」
    「何でよ。別にいいわよ、眠かったわけでもしんどかったわけでもないし」
    「そう?」

    和が頷くと、唯はそっか、と言って鞄を放り投げ突然和に抱きついた。

    「ちょっと、唯?」
    「和ちゃんがいなくて寂しかったから、和ちゃん分補給」
    「何よそれ」

    和は笑った。だけど、唯が自分がいなくて寂しいと言ってくれて、和は少しだけ
    嬉しかった。そう言ってくれる友達がいる。心配してくれる友達がいる。
    せめて、それ以上は無理でも、いちごとそんな友達になりたかった、と和は思った。

    「あ、そうだ。はい、和ちゃん。今日の分のノートのコピーとその他諸々」
    「ありがと」
    「あと、りっちゃん、後で和ちゃん家来るって言ってたよ」

    138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 21:32:19.94
    「……そう」

    律が来ると聞いて、和は唯の肩越しから、枕元においてあった携帯に目をやった。
    和はまだ、律にメールを返していなかった。返せない、というより返す気がないというのが
    正しいだろう。和は律が謝る理由がよくわからなかった。
    確かにいちごのことはある。だけどいちごが決めたことなのだ。律が謝る必要はない。
    和は昨日から一夜明けて、そう考えるようになった。

    嫉妬なんて、自分には似合わないから――

    「気付かなきゃ良かった」

    和は呟いた。
    こんな気持ち、こんな想い。気付かずに、そのまま過ごせばよかった。
    軽はずみで、よく考えもせずに「付き合おう」なんて言わなきゃ良かった。
    言わなきゃ、いちごも、そして自分自身も傷つくことはなかったのに。





    139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 21:38:53.44
    「何か言った?」

    唯が和の顔を不思議そうに覗きこんだ。和は「ううん」と首を振ると、さっき
    言った言葉の代わりに唯に訊ねた。

    「ねえ、唯。お互い想い合っているのに、恋人になれないなんて、変だと思わない?」

    今、いちごが自分に対してどう思っているのかは知らない。だけど少なくとも、
    以前のいちごは自分を想ってくれていた。なのになぜこうなるのか。
     そんなの、私が悪いからよね。
    和は心の中で呟いて、自嘲じみた笑顔を浮かべた。

    唯は暫く、きょとんとした表情をしてから、すぐに泣きそうな表情になって、「ごめんね」
    と和に謝って、和の背に回した腕の力を強くした。和は困惑した。









    141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 21:48:57.27
    「どうしてあんたが謝るのよ」
    「私……、いちごちゃんから話、聞いて……」

    和は息を呑んだ。
    それで、それでこの子はどう思ったの?軽蔑した?最低だと思った?それとも汚らわしい?
    けど唯はそんな言葉は一つも口に出さず、ただもう一度「ごめんね」と呟いた。

    「唯……」

    顔が見えなくても、唯が泣いているのがわかる。幼馴染だからということじゃなく、
    唯の肩が小刻みに震えているのを感じたから。
    そんなにショックだったのだろうか。和は見当はずれのことを思ったその時、唯が言った。

    「和ちゃんのこと、何も気付いてあげられなくてごめん」







    142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 21:49:38.01


    唯は最近、元気の無い幼馴染を心配していた。一緒に帰ろうと言っても「待ってる子がいるから」
    と断られる。それに、何も話してくれない。そのことで唯は落ち込んでいた。
    そして今日、いちごと律の話を聞いてしまった。

    『和、お前のこと待ってるぞ。行ってやれよ』
    『やだ』
    『なんでだよ!?』
    『……、別に。何でもいいでしょ、関係ないじゃん』

    それで唯は、和が話してくれるかも知れない放課後も待てずにいちごに詰め寄ってしまったのだ。
    普段中々見せない唯の真剣な表情に負け、いちごはすぐに話してくれたという。
    今までのことを。

    和の言葉を聞くまでは、唯は何で和がそれで落ち込んでいるのかわからなかったという。
    けれど、和の言葉で全てを悟った。和の想いを。だから唯は泣かない和の代わりに
    泣いているのだと言う。

    「バカね」

    和は泣きじゃくって話す唯の髪を優しく梳くように撫でて言った。
    目蓋の裏が熱くなって、よくわからないものがこみ上げてきた。けど和は泣かなかった。
    だって、私に恋愛ごとの涙は似合わないじゃない。




    143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 21:55:51.89
    暫くして、唯は落ち着きを取り戻した。

    「和ちゃんを慰めるつもりが、逆に慰められちゃった」

    えへへ、と笑った唯の笑顔は弱弱しくて、和はごめんね、ともありがとう、とも
    つかない笑顔を浮かべて、「本当にバカね、あんたは」って囁くように言った。

    「ねえ、和ちゃん」
    「なに?」
    「いちごちゃんのこと、いいの?……その、私が話を聞いたときは、りっちゃんと
    付き合う、みたいなこと言ってて……」

    唯が言い難そうに言った後、「あ、でも私その後掃除場所行ったからわかんないけど!」
    と慌てたように付け足した。

    「いいわよ」
    「でも……」

    もう、昨日の時点でわかってる。
    自分の恋は終わったんだって。いくら好きでも、律から奪うなんてそんな真似、
    和には出来ないことがわかっている。
    仕方ないのだ、これは。和は諦めたように首を振った。



    144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:01:20.88
    と、突然枕元の携帯がぶるぶると震えて二人はびくっと肩を震わせた。
    唯が「びっくりしたー」と笑った。和も笑うと、携帯を手に取った。
    律からだということは、携帯に表示された名前を見なくてもわかった。

    『もしもし、律?』
    『あ、……和?』
    『どうしたの?』
    『……、あのさ、和。唯から聞いてると思うんだけど和ん家、行っていい?』
    『いいけど唯、いるわよ』
    『えっ!?まだいるのか!?……別にいいけどさ』

    電話の向こう側で、「どうりで二階のほうから話し声聞こえると思った」という声が
    微かに聞き取れた。

    もしかして、律は家の近くにいるの?

    和はベッドの脇の窓から外を見た。家の門の前で、うろうろしている制服姿の
    女子高生の姿があった。

    『……何してるのよ、律』
    『え?』
    『さっさと入って。家の前に不審者がいるって通報されたら大変だから』



    145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:07:57.15


    律は「おじゃましまーす」と居心地悪そうに家に入ってきた。唯が下に行って
    家の玄関を開けてくれた。母親は出掛けているようで、いなかった。

    「どうぞゆっくりしてってー」
    「それはお前の台詞じゃないだろ」

    律は唯の頭をぽかりと叩いた。唯が「のどかちゃーん」とベッドに座る和に
    抱き付いた。和が呆れて「もう」と溜息をついた。

    「それで」

    律はカーペットの敷かれた床に座ると、真剣な表情になった。
    それで今から大切な話をするんだな、と察した唯が「私、席外してるね」と外に
    出て行った。律は「悪いな、唯」と謝ると、和に向き直った。

    「いちごのことなんだけど」
    「えぇ。わかってるわよ、いちごから聞いたもの。いちごと付き合うことになった
    んでしょ?私は応援するわ」

    胸の奥がちくちくと痛かった。けど、律に「応援する」と言えて和はほっとした。
    これでもう、大丈夫。明日からちゃんと学校に行けるし、普通にいちごに接することが出来る、と。
    だけど律は。

    「断ったよ」



    146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:15:33.94
    「……どうして」

    和は声を搾り出すようにして訊ねた。
    大体のことは、わかっていた。いちごの言葉からも、前に聞いた律の話からも。

    律はいちごが好きだった。多分、ずっと。いちごもそれを知っていた。だから
    あんなふうに「律は断らないから」と自信満々に言えたのだ。
    それなのにどうして。

    「一緒だよ」

    律は言った。

    「一緒、って?」

    「和がいちごを好きだって自覚ないときに付き合おうとしていちごが断ったのと同じ。
    自分のこと好きじゃないってわかってるから、だから断った」

    律はそう静かに言うと、「あいつ、まだずっと、和のこと想ってる」と呟いた。





    147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:25:10.30
    その律の呟きは、諦めたようにも、すっきりしたようにも、悲しんでいるようにも、
    よくわからない感情全部が混ぜられたような呟きだった。

    それからふいに、ずっと驚いたように固まる和に言った。「行けよ」と。

    「でも……」
    「行けよ、待ってるから、いちご。多分、和のこと、待ってるから」

    そう言うと、律は立ち上がって「ん」と和に何か書かれたメモを差し出した。
    それには誰かのアドレスと電話番号が書かれていた。

    「和のことだからさ、どうせこういうの知らないんじゃないかと思って。
    私のときでも澪に教えてもらったくらいだし」
    「……なんでもお見通し?」
    「ま、唯には負けるんじゃない?私は和の幼馴染じゃないんだからさ」

    律は言うと、ドアのほうを目で指した。唯がそっと中を覗いていた。
    目が合うと、決まり悪そうに逸らして、それから「和ちゃん、行って来たら?」と
    部屋に入ってきた。

    「和ちゃん、本当はまだ諦めきれてないでしょ。顔みたらわかるよ、和ちゃん、迷ってる」
    「……そうね」

    和は頷いた。「ありがとう」といつもの和の声で言うと、和は立ち上がった。



    148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:31:42.27
    ――――― ――

    和は学校に向かって歩きながら、メモと携帯と睨めっこしていた。
    歩きながらだと携帯の小さい画面が揺れてよく見えない。
    それで、メールを打つのは諦めて電話をすることにした。

    見たこと無い番号だから、とらないかも知れないな、なんて思いながらも和は
    とりあえず電話番号をプッシュして電話マークを押した。
    予想の外、いちごは直に電話に出た。

    『……はい?』
    『もしもし、いちご?』

    電話の向こう側が暫く沈黙に包まれた。今、どこにいるのだろう。ざわめき声が
    聞こえてくる。学校か、それとも駅や商店街のほうにいるのか。
    けどどこにいるとしても和はそこに飛んで行こうと決めていた。

    『そう、だけど』

    数秒の沈黙の後、いちごは頷いた。誰かとは聞いてこなかった。
    だから和は、きっと声だけでわかってくれたんだと少しだけ自意識過剰になることにする。

    『今、どこにいるの?』
    『……、学校だけど』
    『それじゃあ、今直ぐ行くから生徒会室で待っていて』

    和は返事を聞かずに電話を切った。
    そして、自分には似合わないと思いながらも、誰かに会いたい為に和は走った。


    149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:38:06.71

    息を切らして学校に飛び込んだ。音楽室の方から音が聞こえてきた。きっと、唯と律
    以外の三人が、演奏しているんだろう。物足りない演奏は、だけど今の和には何よりも
    心強く感じられた。
    友の存在を、感じられたかもしれない。

    生徒会室の前に、いちごの姿はあった。大きく肩で息をしながら近付いてきた和を、
    いちごは少し驚いたように見た。
    和は訊ねた。

    「どうして外で待ってるの?」
    「……鍵」

    あ、と和は呟いた。そうだった、鍵がかかってるんだ、この生徒会室は。
    落ち着こうと思っていても、よっぽど心は動揺しているようだ。
    和は「ちょっと待ってて」と言うと、職員室へと踵を返した。職員室で鍵を受取ると、
    いちごが何も言わないうちに鍵を開けていちごを中に招き入れた。

    和は後ろ手で、鍵を閉めた。

    「それで、なに?」

    いちごはそれには何も言わず、和が休んでいた理由、休んでいたのに学校に来た理由、
    そんなこと全て、何も訊ねず、ただ、そう言った。

    「無理矢理友達になることないって、言ったよね、私」


    150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:42:20.36
    いちごはそっぽを向きながら、怒ったような口調で言う。そんないちごを見て和の
    心が少しぐらついた。けど、和は深呼吸すると、ずっと心の中で復唱していた言葉を
    最後までちゃんと、はっきりした声で言った。

    「好きなの、いちごのこと」



    「……、うそ」




    いちごの表情が揺らいだ。だけど、それでもいちごは無表情を装い言った。
    和は「嘘じゃない」と言って、いちごに近付くと俯いたいちごの顔を自分へ向け、
    今度はちゃんと目を見て、「好きなの」ともう一度言った。





    152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/12(火) 22:48:24.55
    それでもまだ信じようとしないいちごに、和は無理矢理唇を重ねた。
    離れると、無表情だったいちごの顔は驚きでいっぱいになっていた。

    「これで、信じられるでしょ?」

    いちごが負けを認めた小さな子どもの様に小さく、こくっと頷いた。
    和から目を逸らしたいちごの頬は、微かに赤みを帯びていた。

    「ねえ、いちご。もう一度言うわ」

    私と付き合って。

    けど、それを言う前にいちごは「やだ」と言った。
    和は「どうして」と訊ねた。今度はちゃんと、落ち着いて。

    「……、私たち、まだ友達になってない」
    「え?」
    「和、最初に言ったよ、まずは友達からだって」
    「そうね、言ったわ」

    「だから、友達から始めようよ。私を待たせた仕返し」

    いちごは笑った。お姫様のように、気高く、勝ち誇ったように、だけど、幸せそうな。
    やっと見れた、本当のいちごの笑顔は何よりも綺麗だと和は思った。

    終わり。

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  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/14(木) 12:07:01 URL [ 編集 ]
    面白そうだったけど>>32見てイラッときて見るのやめた
    レス欲しい気持ちはわかるが、たかだか30レス程度で書くの中断するなよw
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/14(木) 19:00:10 URL [ 編集 ]
    まあまあ。
    最後まで読んだが面白かったぞ
    男前なりっちゃんが見たいなら我慢して読んでみ

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