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過去の名作たち

  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/19(火) 01:23:35 URL [ 編集 ]
    いい話だけど澪の紬に対しての気持ちって何だったんだろうな
    律が好きだったけど素直になれずに友達として好きになった紬への気持ちを恋と間違えちゃったのかな
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/01/10(月) 20:26:30 URL [ 編集 ]
    最後投げやったな

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澪「ムギをむぎゅぅとしたいな」

  1. 名前: 管理人 2010/10/17(日) 16:38:09
    2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/14(木) 23:47:29.80
    澪「はあああ……」

    律「どうした~?ため息なんて、澪らし……いか」

    澪「何だよそれ?」

    律「べ~つに~~~。で、何なのさ?」

    澪「何が?」

    律「ため息の理由だよ」

    澪「ああ……」


    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:05:26.80
    律「…………ムギをむぎゅぅとしたいって~~!!!?」

    澪「バカ!!声がでかい!!!」

    律「あ、わるい……」

    律「んでも、なんでまた?」

    澪「いや、実はさ……」

    唯「なになに~~~なんの相談~~~?」

    律「唯さんには関係ございません」

    唯「ぶ~~除け者ヒドいよ~~~」



    ……放課後のいつもの光景、違うのはそう、澪の様子だけだった……

    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:12:50.72
    梓に唯を押し付けて、私、田井中律は今日も澪の相談に乗った。
    そう、澪の相談を真っ先に受けるのは、いつも私。

    ………『私』なのだ。


    律「ここなら、誰にも聞かれないぜ?」

    澪「別に女子トイレまで来る事ないだろ」

    律「ムギは日直で遅れてたけど、聞かれたくないんだろ?」

    澪「……ん、まぁな」

    律「で、『ムギをむぎゅぅ』って、澪しゃんらしくない発言なんだけど」

    澪「そ、その……むぎゅぅって言うか、好きって言うか……」



    6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:18:59.89
    律「はいぃぃぃぃ!!!?」

    澪「あああ、い、い、今のは違うぞ、いや違わないような……」

    律「何なんだよ一体」

    澪「だ、だ、だ、だから、むぎゅぅってのは、その愛情表現の1つで
      ……って、な、何言ってるか分かんないだろ、このバカ律!!!!」

    律「何でいきなりバカになるんだよ!!」

    澪「あ、ご、ごめん」

    律「あ~もう、じゃ、澪はムギが好きだってのかよ?」

    澪「う、うん……//」コクン


    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:25:15.28
    私は、ただただ驚いた。
    もちろん澪がムギを好きになる理由なら幾らでもある。

    でも、パッと思いついた理由だけでは、今の澪の表情までには至らないと思った。


    律「い、いつから………だよ?」

    澪「きょ、去年の文化祭くらいかな……」

    律「はああああ、一年越しって訳ですか」

    澪「い、いや……。まあ、で、でもいいんだ。このままでさ」

    律「何で?」

    澪「最後の文化祭前だろ?わ、私の個人的な理由で迷惑掛けたくないし……」

    10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:32:36.09
    澪らしいと思った。
    ああそうだ、まるで澪らしい。

    だけど私は、それが分かっていながら、まるで正反対の言葉を投げ掛けた。


    律「バッカじゃないの?」

    澪「バ、バカとはなんだ!!私は真剣に……」

    律「真剣なら、何で私達の迷惑考えんだよ?」

    澪「……だ、だって」

    律「ムギに告白しました。ダメでした。気まずいです。
      責任取って軽音部やめます。こんな風に考えてんじゃないだろうな?」

    澪「そ、それは……」

    律「やっぱりか」

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:39:53.82
    律「あんな、澪。私達にしちゃ、そんなしょぼくれた顔で演奏される方が
      迷惑なんだよ」

    私は一喝した。
    もちろんトイレだから、大声は出さない。

    澪「律……」

    律「何の切っ掛けがあったのかは知らないけど、今日私に伝えてくれたのは、
      もう、ムギへの想いが溢れ過ぎてこぼれちゃったからだろ?」

    澪「ん……」

    律「だからさ、迷うなよ。応援するから」

    澪「お、応援………してくれるのか?」

    律「もっちろん!!この田井中律にまっかせなさい!!」
      

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:47:06.72
    そんな安請け合いをして、私と澪は部室に戻った。
    キーボードの音が扉越しに聴こえて来るから、日直だったムギも合流したみたいだ。

    律「田井中班、ただいま戻りました!!」

    唯「むっ、りっちゃん隊員、部室周辺の様子は!!?」

    律「ハッ、特に異常無しであります!!」

    唯「うむ、では引き続き任務にあたってくれたまえへ」ピシッ!!

    律「ハハッ!!」ピシッ!!

    澪「バカやってないで練習するぞ」

    唯「ノリ悪いよ~~みおちゃ~ん」


    16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 00:53:23.04
    平静を装っていたけど、澪は、キーボードと何やら格闘している
    ムギを見ようとはしなかった。こりゃなかなかの難物だ。

    律「まあ、澪の言う事も一理あるな。唯、今日位は真面目に練習するか」

    梓「律先輩の言葉とは思えません」キリッ

    唯「律先輩の言葉とは思えません」キリッ

    律「お前らなあああああ~~~~」

    紬「よし、出来たわぁ」

    律「ん、なんだ?」

    紬「今度の新曲の、『カレーはおかず』の音作りよ」

    唯「ごはん……なんですけど」

    17 名前:そういや文化祭っていうより学園際か[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:01:29.55
    それから私達は、学園祭用に作った新曲『U&I』と、
    カレー…じゃない『ごはんはおかず』を重点的に練習して家路に就いた。

    ちなみに、練習中も澪はムギと一言も話さなかった。
    普段から特別話し合っている2人でもないけれど、あんな話を聞いた後では
    猛烈に意識してるようにしか見えなかった。


    唯「んじゃ~、またね~」

    梓「では、また明日」

    紬「さようなら~」

    律「おう、気を付けて帰れよ~!!」

    澪「お前がな」

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:10:22.52
    律「澪しゃん酷いです」

    澪「本当の事だろ。こないだだって……」

    律「あ~~、あの話はやめてくれ~~~~」

    高校生にもなって、小学生のような失敗をした私の話をしようという澪に、
    私はムギの話題に素早く切り替えた。

    律「そ、そういや澪、今日、練習中全然ムギ見てなかったじゃないか」

    澪「そ、そうか……な?」

    律「話もしないしさ。やっぱり私が思ってる以上に澪って恥ずかしがり屋だよな」

    澪「きょ、今日はたまたま話す事が無かっただけで……」

    律「ていうか、その調子じゃ、告白までにどれだけ掛かるか」

    澪「そ、それを応援してくれるんだろ?」

    律「なんだよな~」

    20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:19:46.39
    ため息混じりに言うと、私の見通しは暗かった。
    何故なら、私だって応援出来る程、恋路に明るい訳じゃない。

    ましてや、よく知る2人とあっては……。


    律「作戦でも練るか」

    澪「作戦?」

    律「思うに、ムギって基本的に私達の事好きだろ?恋愛感情かは別としてさ」

    澪「ん、まあ、そうだな」

    律「だとしたら、後は切っ掛けだけだと思うんだよな~。
      何かちょっとした事で、ムギも澪一筋になれると思うんだ」

    澪「わ、わたし一筋……///」

    21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:28:16.98
    早速想像の世界で、澪はムギと恋のバカンス中だ。
    これが表向きに出れば、良くも悪くも話は早いんだけど……。


    律「そこでだ。私がさ、何とかしてムギと澪のデートプランを計画するよ」

    澪「で、でででで、デートォォォォ!!!?」

    律「……だって、告白するんだろ?」

    澪「い、いや、まあ、そうだけど……」

    律「一番手っ取り早いじゃん。ムード作ってさ~。夜の公園で抱き合って
      『愛してるよ、紬。』………なんてな~~~!!」

    澪「ハッ……」ボッ!!

    律「………しまった、妄想させ過ぎたか……」


    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:36:24.03
    妄想の世界から帰って来なかった澪と別れた後、
    私は家で今日起こった事を反芻していた。

    思えば、3年近くの高校生活で、一番衝撃的だった日かもしれない。


    律「澪がねえ……」

    ちょうど机にあった中学生の澪とのツーショットの写真を手に取ると
    私はベッドに寝そべった。


    律「バカ澪。気付いてないんだもんな……」

    律「こっちは小学生からだっつーのに」


    苦笑いをかみ殺した私の頬に、一筋の涙が伝った。


    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:45:51.37
    翌日、授業中はいつも通りの私達の時間。
    ならばと、放課後、様子が違っていたのは他ならぬ、ムギだった。

    予め『早めに部活に来てくれないか?』とムギに頼んでおいた私は、
    唯や澪より先に部活の階段を上がる。

    すると、今日は一番乗りなのだろうか、ピアノの音が部室から聴こえて来た。

    律「なんだ、クラシックか~?」

    私は部室の扉を開けた。
    部室の中で独り、ムギが物悲しそうな曲を奏でていた……。



    25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:52:17.32
    一曲が終わった所で私はやっとムギに声を掛けれた。
    それほど真に迫っている演奏だったのだ。

    律「ムギ……いいか?」

    紬「あ、ごめんなさい。ちょっと夢中になっちゃって」

    律「今の、何て曲なんだ?」

    紬「『ベートーベン』の『テンペスト』という曲なんだけど……。
      旋律がとても綺麗で、大好きな曲なの。」

    律「はぁ、さすがムギだな。クラシック弾けるんだもんな~。」

    紬「そんな事ないわよ~」


    26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:53:16.12
    ちなみに、テンペストってこんな曲です
    http://www.youtube.com/watch?v=1zvcifcEyXI

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 01:59:25.27
    聴き慣れないものを聴いたからか、しばらく私達はお互い話せなかった。
    そんな中、ムギがやはりと言うか、こう切り出して来た。

    紬「りっちゃん、とりあえずお茶にしましょうか?」

    律「あ、待ってくれ。呼び出したのにはちゃんと理由があるんだ」

    紬「そう?」

    律「うん。……あのさ、実はお願いがあるんだけど」

    紬「りっちゃんのお願いなら、どんと来いっ」フンッ!

    律「……いや、そこまで気合入れなくても、実は澪の事でお願いなんだけど」

    紬「澪ちゃん?」

    律「うん。澪の奴さ、ムギとデートしたいって言ってるんだよ」

    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:05:31.89
    直球過ぎるこの物言いでもムギは断らない、私には確信があった。
    果たせるかな………ムギの返事は明るかった。

    紬「本当に!?」

    律「ダメ……かな?」

    紬「いやいや、全然オッケーです!!もちろん大丈夫です!!」

    律「そ、そうか。じゃあ、澪にも言っとくな」

    紬「まさか澪ちゃんから誘ってくれるなんて思わなかったわ~」

    律「直接自分で言えって言ったんだけどな~。まあ、澪だし」

    紬「ううん、嬉しいわ。ありがとう、りっちゃん」

    律「べ、別に、礼を言われる程じゃないぜ……///」

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:12:56.86
    その後、澪達が合流してからの放課後の部室は、いつにも増して明るかった。
    ムギの入れてくれた紅茶が、今日は特別に美味しい。

    なるほど、ムギも澪の誘いに素直に喜んでいるようだ。
    もちろんムギが受け入れてくれたのは、恋愛感情なんかとは別の物が働いてだ。
    それは、3年近く一緒に過ごして来た私が一番よく分かってる。

    それでも、事実が大切なのだ。
    澪はやれば出来るんだから。


    そう、澪はやれば出来る。


    放課後、私は澪に、ムギとあった事実を伝えた。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:19:14.52
    律「というわけで、ムギは全面的にオッケーしてくれました、りっちゃん偉い!!」

    澪「あ、あ、あ、あわわわわわわ……/////」

    まあ驚くだろう。
    知らない間に、自分が誘った事になってるんだから。

    律「澪ちゃ~ん、どうしましたか~?」

    澪「バ、バ、バカ律!!!!もうちょっと、言葉を選んでだな!!!」

    律「最終的には『デートしてくれ。』って言うんだからいいじゃん」

    澪「うぅぅ……」

    律「デートコースぐらいは考えても良いけど、後は澪次第だぜ?」

    澪「わ、分かったよ……」

    33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:28:48.98
    悩める澪と別れて、私は夕食もそこそこに、今日もすぐさまベッドに寝そべる。
    疲れが一気に吹き出して来た。

    慣れない空気に、私の身体も相当参っていたようだ。
    今日はこのまま寝ようかと思うと、携帯のメールの着信音が鳴った。


    澪だった。


    『今度の日曜日、駅前に10時で話付けたから、後は何とかしてくれ!!』


    なんていう一方的なメール。


    律「誰がデートするんだよ」


    私は簡潔に『わかったわかった、おやすみ~~』と返して携帯を手放すと
    そのまま眠りに落ちていった。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:37:15.71
    土曜日の午後、私は澪の部屋に居た。
    当然、明日の作戦会議だ。

    まず、私はムギと2人で遊びに行った時の事を澪に話した。
    駄菓子屋なんて使えないとは思うが、何かの参考にはなると思ったからだ。

    律「要するに、ムギはオシャレなモノより庶民的なモノの方が喜ぶんだよな」

    澪「それは私だって分かってるよ。だから何にするかって話だろ?」

    律「お前、自分で考える気無いだろ?」

    澪「律の手だって借りたい状況なんだ、私は」

    律「へいへい」

    そうして私達は、インターネットや、コンビニで買って来た『桜ヶ丘ウォーカー』
    を見ながら、同じようなやりとりを何回も繰り返す。

    結局、大方のルートが決まったのは、夕方になってからだった。

    37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:46:05.89
    そのルートは至ってシンプル。
    外の情報を得なくたって、考え付くようなプランだった。

    それでも、私にはある種の達成感があった。
    まあ、澪はまだ納得してないようだが。

    律「よし、じゃこの手筈で行くか!!」

    澪「大丈夫か~?」

    律「大丈夫大丈夫。さっき電話したら、まだチケットあっただろ?
      残り2枚だったなんて、運がいいぜ~。」

    澪「それが心配なんだよなぁ。何でロックのライブがデートに入るんだよ……」

    律「軽音部だから」

    澪「何か私は、とんでもない過ちを犯そうとしているんじゃないだろうか……」

    律「ええい、ここまで来てウジウジするな!!
      そうだ、今日は景気付けにカラオケでも行こうぜ!!」

    澪「い、今からか!?」

    律「今からです」

    澪「はぁ……強引だなあ、律は……」

    38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:55:53.15
    なんて言いながら、行ったら行ったでマイクを話さないのが秋山澪だ。
    今日も多分に漏れず、私は澪のリサイタルを聴かされた。

    それでも誘った事を後悔はしない。
    帰り際の澪の顔が、晴れやかだったからだ。


    そして、こうなった時の澪は口調も軽く、次から次へと話し掛けて来る。
    話題は、明日のムギとのデートの事だ。

    独りで話しては、独りで盛上がる澪のパターン。
    私は、帰り道、それと気付かれない作り笑いを浮かべ、相づちを打つだけだった。



    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 02:56:42.63
    すいません

    ×話さない
    ○離さない

    40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 03:07:04.20
    日曜日。
    この日がやってきた。

    主役でもない私は、朝の7時に目を覚ました。
    やけに目覚めはハッキリとしているが、身体は重い。

    たった3日間で、私は1学期分は歳を取ったかもしれない。

    気付けに頬を何度か叩いて、声を出す。
    少しは身体に力がみなぎる気がした。


    閑話休題。


    初めは澪の後を付けて行こうかなんて考えたけれど、それは野暮ってもんだ。
    いくら長い付き合いでも、侵してはならない領域がある。

    それに気付いた私は、今日一日、家で大人しくしている事にした。

    41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 03:16:29.28
    8時、9時、時計の針が進むごとに、何故か私が緊張する。
    予定の10時を迎える時には、意味も無く携帯を強く握り締めていた。


    そして10時を過ぎて20分程した時に、澪からのメールが届いた。
    私は慌てて内容を確認した。


    『ムギと合流、移動中~。やっぱ私服のムギ可愛過ぎ!!』


    ご丁寧に絵文字で装飾されたメールを見て、私は胸を撫で下ろした。
    とにもかくにも、デートは始まったのだ。

    それでも、能天気な澪に、釘を刺すように私は

    『デート中にメールばっかするんじゃないぞ』

    と送り返した。

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 03:23:29.15
    私の返信の後、澪はプランの切り替わりの時にだけ、報告のメールを送って来た。


    まずは昼食だ。


    『律の選んだそば屋、正解だった。ムギ喜んでる~。
     そば湯を飲むのが夢だったって~~。』


    さすがに私は笑った。
    実にムギらしい。

    と同時に、まずまず雰囲気が良さそうなのも確認出来た。
    このまま上手く事が運んでくれれば………。


    ひとまず携帯をベッドに置いて、私も昼食を取る事にした。

    43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 03:43:21.50
    昼食を終えて部屋に戻ると、私はメールが届いていないかと携帯を見る。
    着信は無かった。

    昼食の後の次の予定は『桜ヶ丘水族館』だ。

    まあ、ここはそこそこ時間が掛かるし、しばらくは何もないかとベッドに腰掛けると、私は携帯を枕元に置いた。


    律「ねむい」


    順調な現状に安堵したせいだろう、途端に眠気が襲って来た。
    考える間もなく枕に頭を預けると、寝まいとする心より睡魔が勝って私は目を閉じる。

    そしてそのまま、私は眠りに就いた。
    僅かばかりの自責の念に駆られながら……。

    45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 04:01:01.68
    がばっと大きく身を起こして私が起きた時、時間はもう5時だった。

    この分だと『水族館』はもとより、次の『デパート巡り』も終えて
    『ゲーセン』の時間だ。

    『駄菓子屋』は無いが、『ゲーセン』なら良いだろうと思って組み込んだ。
    やってなかったゲームもあったし。

    はてさて、考えるのも良いが、私は手早く携帯を確認した。

    着信メールは3件だった。
    記念写真という事で撮ったのだろう、最初のメールは画像付きだった。


    『マンボウの前で、ムギマンボウ。カワイイ(笑)』

    『りつ~、ムギが屋上の子供用のおもちゃに乗りたがるんだよ……
     さすがに恥ずかしいぞ……』

    『りつ~、何か、ありがとな~。ウマくいくかも……』


    律「楽しそうにしやがって、こいつ~」


    順調過ぎる成り行きに、思わず苦笑いの私は、
    『浮かれて最後にコケるんじゃないぞ!!』とだけメールを返した。

    47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 04:14:51.42
    『ゲーセン』の時間も、私は2人を想像の中でしか描けないが
    恐らくは何の滞りも無く進んでいる事だろう。

    さて、今日の締めくくり、桜ヶ丘会館で行われるライブは午後7時からだ。
    そこそこ名の通ったメジャーバンドのワンマンライブで、
    当日券が手に入ったのは本当に偶然だった。

    いや、2人の仲を取り持つ『必然』だったのかもしれない。


    そんな事を考えてセンチメンタルでも感じたのか、
    私は、そっと窓に目を向けると、雨の降り始めに気付いた。


    律「そういや台風近付いてるんだっけ。」


    私は、窓の鍵の締まっているのを確認すると、カーテンを閉めた。
    今はただ静かに、雨と風が、窓を揺り動かし始めていた……。

    48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 04:21:51.03
    ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございます

    申し訳ないのですが、さすがにもう寝ようかと思います
    もし、残して頂けるようでしたら、14~15時頃に再開出来ると思います


    51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 07:23:25.94


    58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 14:26:04.82
    保守ありがとうございます

    そろそろ再開します

    59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 14:33:56.64
    午後7時。
    予定通りならライブの開演だ。

    澪達はちゃんと入場出来ただろうか。
    急ごしらえで取ったチケットに、要らぬ心配をしてしまう程、私は落ち着かなかった。

    いや、落ち着かない理由はそれだけじゃない。


    律「この曲、リズムせわしなさ過ぎっ」


    気持ちを落ち着けるのと、少しでも澪達と関わりを持とうと思い掛けていた、
    今日出演するバンドのCDが、逆効果だったようだ。

    私はものの10分でCDを止めて、それをCDケースに戻すと、
    こういう時は、逆に受験勉強でもして、気を紛らわせるのが一番なんて、
    普段の私からは、想像も付かない衝動に駆られていた。

    『どうかしてるな。』と口元を緩めると、私は机の椅子に腰掛けた。



    60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 14:41:36.97
    机に向かってから1時間、つまり開演してから1時間。
    雨音と風音は、次第に強くなっていた。

    それが無性に耳について、今まで珍しくはかどっていた受験勉強への意欲を遮る。

    シャーペンのノートを滑る音が、無意識に耳に入る位、
    部屋が静か過ぎるのもあったのだろう。

    私は、その張り詰めた空気に耐えきれなくなって、シャーペンを放り出すと、
    椅子の背もたれに背中を預けた。

    律「まだ半分くらいかなぁ」

    そのままの状態で、大きく伸びをすると、
    ふいに床に転がっていたドラムスティックを手に取り、参考書をドラムに見立てて
    ダブルストロークの練習を始める。

    こういう時は、切り替えの早い私らしく、既に受験勉強なんて
    どこ吹く風といった塩梅で、スティックに集中していた。

    律「まだちょっと甘いなぁ。梓に怒られるぞ、こりゃ」

    その勢いで、新曲のリズムに納得いかなかった事を思い出した私は、
    とうとう机を離れて、本格的にドラムパッドを敷いて練習を始めたのだった。


    61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 14:50:53.76
    午後9時。
    アンコールの最中ぐらいだろうか。

    まだドラムスティックを握り締めていた私は、
    ここで始めてスティックから手を離すと、枕元の携帯を手に取った。

    メールが届いてないかと、問い合わせをするが、もちろん着信は無い。

    律「みお~、まだかぁ?」

    意味も無く携帯を揺すると、ふいにお腹の虫が鳴る。
    そう言えば、晩ご飯も食べてなかったっけ………。

    なるほど、切り替えが早い私は、携帯を持って立ち上がると、
    早速キッチンに向かうべく、部屋を出た。


    62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 15:03:28.75
    家人の話では、ここ数日の私の様子がおかしい事には、とっくに気付いていて、
    ならば、そっとしておこうと、夕食時になっても呼ばなかった、との事だった。

    確かに、ありがたいんだけど、そこまで放っとかれると、少し淋しい気もした。

    まだ台所で洗い物をしていた母と、二言三言会話を交わすと、
    私は晩ご飯だったカレーを温め直して頬張る。

    まるで私の居た部屋とは別世界のように、母の食器を洗う音、父の見るテレビの音、
    漫画に没頭している聡の、時折聞こえる笑い声………。


    私だけが、非現実と現実の境に、切り取られたような存在に感じられた。


    63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 15:16:37.11
    家を揺する雨風の音は確実に増している。
    暴風域が近い事を感じさせる。

    もっとも、父の点けたテレビから聞こえて来た情報によると、
    私の住む地域はかすめるだけ、との事だったから
    明日の朝には通り過ぎているだろう。

    晩ご飯を食べ終えると、私はすぐに部屋に戻った。
    この場でくつろぐ事を体が拒否しているようだった。

    そう、澪は今戦っているんだ。
    私だけが悠長に構えていい訳が無い。

    そんな自分ルールのような縛り付けで、己を納得させると
    9時半も過ぎた頃、押し黙っていた携帯に、一通のメールが届いた。


    64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 15:30:02.98
    律「澪!?」

    私はすぐさまのメールを確認する。
    間違いなく澪からのメール。

    一瞬にして、私の胸が高鳴った。
    ………それでも内容を見ると、大山鳴動して鼠一匹とでもいうか、

    『ライブ終わった~!!!サイコ~~~~~!!!!!』

    と、今日一番の、これでもかと言わんばかりに絵文字で装飾されたメールだった。
    肩の荷が下りた気持ちの中に、何ともやるせない気持ちが入り混じった
    私だったが、返信のメールを打つ手は早かった。



    65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 15:42:16.29
    律「『良かったな。ってか、こっから本番だぞ。気合入れろよ!!』っと」

    私は送信ボタンを押すと、額に手の甲を当ててベッドに横たわった。

    後は、もう告白だけだ。
    こればかりは、神のみぞ知る所………。

    私には何も出来ない。
    だから私は精一杯澪を応援する。

    澪、頑張れよ!!
    澪、頑張れよ!!

    律「みお~~~~!!頑張れよ!!」

    聞こえるはずも無いのに、私は大声を出したのだった………。


    66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 15:53:52.37
    それから私は、携帯を壊れるんじゃないかと思う位強く握り締めて、
    澪の返事を待った。

    告白するのは澪なのに、私が一番緊張しているようだった。

    窓の外は雨風が強い。
    公園での告白は厳しいだろう、だったらどこだろう?
    ライブ会場?帰りの駅校舎?まさか学校までは行かないだろうけど………。

    錯綜する想いに胸を高鳴らせて、ただ澪の返事を待つ。

    10分、20分といたずらに時間が過ぎて、私の携帯が着信音を鳴らしたのは、
    午後の10時を、少し過ぎた頃だった………。



    67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 16:08:02.59
    違和感を感じたのは、メールじゃなくて電話だった事にだろう。
    『電話での返事』というだけで、私は不安で一杯になった。

    数コールの躊躇いを経て、私は意を決して通話ボタンを押す。
    悲しい事に、私の想像は現実のものとなってしまったようだった。
    通話状態になっても、澪は何も話し掛けて来なかった。

    律「みお………?」

    返事は返って来ない。
    これだけで快い返事を得られなかったのは分かるが、
    この時私は、告白の結果云々より、澪の事が心配だった。

    律「澪!!澪、大丈夫か!?」

    澪「り………つぅ………」

    雨に消されそうな、か細い声で、澪の声が聞こえて来る。
    さっきまでのメールは何だったんだろう。

    今の澪は、電話越しにも消え入りそうなのが、手に取るように分かる。
    同時に私は、ムギに静かな憤りを覚えていた。

    69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 16:22:20.23
    律「澪!!しっかりしろ!!今どこなんだよ!?」

    澪「………うちのちかく」

    私はすぐさま駆け出した。
    着の身着のままで、携帯だけ握り締めて家を飛び出ると、
    傘を差す事も忘れて走り出す。

    家の近くなら、すぐそこに澪が居る!!
    私は走った。
    バカみたいに雨に濡れながら………。

    いや、バカでも良いか………。
    電話越しに聞こえて来る、雨音と、澪の耐え忍ぶ泣き声を聞くと、
    そう思う事こそが、むしろ自然だったのだ。


    70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 16:34:19.91
    走り出してからの数分で、現在地を聞く事もなく、澪の姿はすぐに見つかった。

    律「みお………」

    街灯の下で風雨に晒されながらうなだれる澪を見て、
    事態の深刻さに気付いた私は、力無く問い掛ける。

    雨音に消されたか、私はもう一歩踏み出して、澪の傍に寄った。

    律「みお」

    同じ街灯の下まで来て、再度私は、声を掛けた。
    聞こえない訳はない。

    それでも、返事は返って来なかった。
    だから、私はもう一度呼びかける。

    その時だった。

    律「み………ぉ!?」

    ふいに、雨に濡れてひとかたまりになった澪の黒い髪が、私の目の前を舞った。
    そう、澪が私に寄りすがってきたのだ。

    澪「りつぅ………りつぅぅぅぅ………」

    私より背の大きい澪が、嗚咽を漏らしながら私の胸に顔を埋める。
    体中に、澪の泣き声が響くようだった………。

    72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 16:54:46.76
    こんな事態に私は冷静を装うと、澪を自分の家まで連れて帰った。
    なぜ澪の家にしなかったのかは分からない。
    『本能』だったのだろうか?

    とかく、このままでは2人揃って風邪を引く。
    入れ替わりでシャワーを浴びると、私は澪がシャワー浴びている間、替えの下着と、
    間違って買った、サイズが大き過ぎて使えないカットソーを用意した。

    律「澪………この服着て良いからな」

    浴室越しに「うん。」と、か細い返事が返って来て、
    私は僅かばかりながらも、心が落ち着いた。

    それに合わせて母親が、「澪ちゃん大丈夫?」と声を掛けて来たが、
    恐らく今の澪は、私以外の誰とも接したくないだろう。
    自惚れでも何でもなく………。

    私は「大丈夫だよ。」と母に返した。
    同じ女だから私の気持ちが分かるのか、母も納得すると、リビングに戻って行った。
    「澪ちゃんの家には、お母さんが連絡しておくね。」と付け加えて………。


    74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 17:10:55.09
    私の大きめの服は澪にはちょうど良く、
    この非常事態に、部屋で待っていた私は思わず感嘆の声を上げた。

    律「………落ち着いたか?」

    澪「うん、ちょっと………」

    シャワーを浴びて、真っ赤だった目だけは晴れていた澪は、私のベッドに腰掛けた。
    向かい合って私は床に座る。

    しかし、こういう時こそ言うのだろうな。

    『何て声を掛けていいか分からない。』

    向かい合ってもお互い視線を逸らして、
    さっき湧いた自惚れた自信は、もう吹っ飛びそうだった。

    私は、話し掛ける言葉とその先を、何通りにもシミュレーションする。
    もちろん、正解と思えるアイデアは浮かばない。

    ところが、そんな空気を破ったのは意外にも澪だった。

    76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 17:22:54.12
    澪「律………私な、フラれちゃった」

    自暴自棄気味に澪が笑う。
    こうも簡単に結末を教えられると、私も、余計に何を言って良いか分からなくなる。

    しかし、澪は続けた。

    澪「『ごめんなさい。』って」

    澪「変だよな………。何で、あんなに楽しそうだったのに、
      『ごめんなさい。』なんだろうな?」

    澪「私、分かんないや………」

    律「澪!!」

    今にも泣きだしそうになった澪に、私は素早く近寄る。
    が、遅かった。

    澪「りつぅ、私、何がダメだったんだ!?なあ、何がダメだったんだ!?」

    この言葉を最後に、澪は顔を手で押さえて、また泣き崩れた。
    近付いただけで、私にこれを抑える言葉が見付かるはずもなかった………。


    77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 17:39:55.75
    だから私は、澪を抱き締めた。
    さっきの雨の中と同じだ。

    澪の顔を、私の腕の中に優しく包み込んで、私は澪を抱き締める。
    突然の事に、澪は一瞬泣き止んだが、これ以上無い安心感を得たのだろう、
    すぐさま、私の胸の中で、流し足りない涙を延々と流し続けた。


    律「澪………頑張ったな。」

    澪「りづぅぅ………」

    澪が声を絞り出す。
    私の全神経に直接響く、澪の声。

    私はこれ以上声を掛けなかった。
    泣き止むまで、ずっと澪を抱き締めた。

    私の心は、不思議と落ち着いていた。
    泣き続ける澪を抱き締めて、幸せさえ感じ始めていた………。


    78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 17:42:38.62
    ちょっと出掛けます。
    18時過ぎには帰って来ると思います。

    80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 18:16:13.15
    帰りました

    続き行きます


    81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 18:19:25.39
    日付が月曜日に変わる頃には、澪はもう泣き疲れて眠っていた。

    まるで自分の家のように振る舞う澪に、
    「しょうがねえなぁ。」なんて言葉を出して、掛け布団を掛けてあげると、
    私は、ベッドに背もたれて、天井を眺めていた。

    思い浮かぶのは澪とムギと………。

    律「テンペスト………か」

    ふいにムギの弾いていた曲を思い出す。
    思い出すだけで、何故か、この場を慰める旋律に聴こえなくもない。

    律「澪にも私にも、『嵐』のような一日だったな」

    視線を天井から落とすと、私は澪の顔を見た。

    律「人の気も知らずに、ぐっすり寝やがってよ」

    私は眠っているのを良い事に、澪に悪態をつく。
    が、それもそこまで。

    私の中でせき止めていたものが、急に崩壊したのだ。

    律「バカ澪がぁ………」

    恐らく気付かぬ間、ずっと耐えていたのだろう。
    積み重ねて来た想いの決壊で、私の目からは、止め処なく涙が溢れ始めていた。

    もう嵐は、過ぎ去ったようだった………。

    83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 18:29:57.16
    ベッドに背もたれて眠ってしまった私は、深い夜の中、目を覚ました。

    夢でも見れれば気が紛れたかもしれないのに、つい今しがたの事のように
    昨日の事を思い出す。

    大きくため息を吐いて、私は部屋の蛍光灯の灯りを点けっ放しなのに気付いて
    扉の側にあるスイッチを消しに行った。

    すると、澪が寝言で「バカ律。」なんて言うもんだから
    私は灯りを消すや否や、澪の頭を小突いた。

    「うう………」と苦悶の表情を浮かべる澪に、私はしてやったりの表情。

    そして、もう一度同じベッドの傍に腰掛けると、私は目を閉じた。


    86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 18:44:57.16
    目を閉じながら、私は密かにある決心をしていた。
    寝ぼけ眼で後から後悔するかもしれない。

    でも今しかない。
    私は目を見開いて、澪に背を向けたまま独り言を言い始めた。

    律「みお、聞いてるか~?」

    返事はなかった。

    律「よし。じゃ、よ~く聞けよ。」

    今の私はとてもズルい。
    失恋してすぐの相手に投げ掛けるような言葉を言う気など、更々無いのだ。
    それも眠っている時に言うなんて………。

    だが、私は言葉を続けた。


    88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 18:54:31.39
    律「みお、みお………あのなあ………」

    いざとなると、その先の言葉が出ない。
    思えば私は、澪に何て事を課したのだろう。

    いざ自分の段になって分かる。
    これは、一世一代の大勝負だ。

    眠っている相手にすら、こんな状態なんだから、澪の勇気たるや………。


    私は澪に謝りたくなった。
    だから、振り返って、眠っている澪の顔に自分の顔を近付けた。

    そして言う。
    澪が起きてしまわないよう、小さな声で………。

    律「みお、ごめんな………本当にごめん」

    言ったが最後、また私の頬を幾筋もの涙が伝った。

    何度も目頭を手で拭うが、溢れる涙はとどまる事を知らず、
    結局私は、今の自分の気持ちを素直に受け入れるしかなかった。

    89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 19:11:29.49
    そうさ、『謝った』『気持ちの整理は付いた』、ならもう行動だ。

    律「みぉ、起きてるか~?」

    鼻声で開き直った私が言う。
    返事は、また返って来なかった。

    律「よぉし………」

    固い決意のもと、私は澪の耳に自分の口元を近付ける。
    そして、今度も澪が起きてしまわないよう、そっと囁き掛けようとした。

    律「みぉ………」

    伝えたい言葉が引っかかる。
    勇気を出せ。
    澪は、もっと頑張ったんだ!!

    唇を噛み締めて、私は伝える。
    小学生から、これまで押し込めて来た気持ちを。

    ずっとずっと、仕舞い続けて来た想いを………。


    律「みお………だいすきだよ………」


    澪は眠っていた。
    私は、澪の耳に軽く口づけすると、人知れず想いを伝えたのだった………。


    90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 19:23:52.07
    台風一過、月曜の朝は雲1つなく晴れやかだった。

    私は澪に学校を休むように勧めたが、澪は聞かなかった。
    それもそのはず、澪の顔も、まこと晴れやかだったのだ。

    泣きじゃくって、全てを流し落とせたのだろうか。
    だとしたら、うらやましいと言うか………。


    一度自宅に戻る澪を見送り、私は朝食を摂る。
    学校への身支度を済ませると、澪の家に向かった。

    律「澪」

    澪「おぉ、律。行こうか。」

    いつもの澪だ。
    ロングストレートの黒髪に、少しお高く止まったように見せてしまうつり目、
    私の知っている、私の大好きな『秋山澪』だった………。


    92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 19:37:22.45
    何喰わぬ顔で、ムギも学校に来ていた。
    いつものあの笑顔が、今日はやけに恨めしい。

    はやる気持ちを抑えて、私はムギが一人になるのを待つ。

    そして学校で私が取ったムギに対する行動は、
    もちろん『体育館裏に連れ込む』などではなく、
    こないだと同じように、早めに部室に来てもらう事だった。

    それが決まってからと言うもの、授業なんか頭に入らない。
    唯達のおちゃらけすら軽く流せない私がいた。

    そうして、ムギへの怒りとも辛みとも分からない情念を募らせていると、
    あっという間に放課後の予鈴が鳴り響いた。


    93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 19:42:36.99
    放課後、日直の仕事を唯に押し付けて、
    私は真っ先に教室を出て、いつの間にか居なくなっていたムギを追う。

    廊下を走って、階段の取っ手の飾りの亀を意味も無く叩き、
    さわちゃんに叱られる。
    それでも止まる事なく、私は部室への階段を駆け上がった。

    『ムギは、ここで、そこで、何を思っていたのか?』
    『どうして澪をフッたのか?』


    やっと聞けるはずの答えを目の前にして、私の足が止まるはずがない。

    階段を駆け上がり、息を切らせて部室の扉の前に着いた時、
    今日もあの旋律が流れて来た………。


    95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 19:53:01.41
    律「ムギ!!」

    今度は曲中だろうが遠慮しない。
    私は豪快に扉を開けると、先週の金曜日と同じように
    『ベートベン』の『テンペスト』を奏でるムギに駆け寄った。

    しかしムギは素知らぬ顔で弾き続ける。
    益々腹が立った私は、口角泡を飛ばす勢いで、ムギに怒鳴りつけた。

    律「ムギ!!何でっ、何でなんだよ!!?」

    鍵盤越しにムギの顔に自分の顔を近付ける。
    まだムギは私に目をくれない。

    続けて怒鳴った。

    律「澪な!!泣いてたんだぞ!!!!」

    これまで親友だったはずの相手に、なぜこんな罵声を浴びせられるんだろう。
    自分でも理解出来ないくらいの二律背反な迷いが生じる。

    しかし、それとは裏腹に、私はムギの演奏する手を掴もうとした。

    そして、その時だった。
    これまで流暢に旋律を奏でていたムギの演奏が、突如乱れ始めた。


    96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:02:51.51
    乱れ始めた演奏は、立て直される事のないまま、
    私が手を掴むまでもなく、ムギは演奏の手を止めた。

    これでやっと話が出来る。
    私は無造作に、うつむいたままのムギの右手を掴むと、こう言った。

    ………いや、言うはずだった。

    というのは、私が右手を掴んだ時、鍵盤の上に零れ落ちる涙を見付けたからだ。

    律「ムギ………?」

    思えばムギの涙なんて初めて見たかもしれない。
    私は途端に狼狽して、掴んでいたはずのムギの右手から手を離した。

    私の怒気が薄れるのを、感じ取ったのだろうか。
    そこで、やっとムギが私に話し掛けてくれた。


    97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:13:41.11
    紬「私だって私だって………」

    肩を小刻みに震わせて、泣いている事は隠さないムギは、
    拳を強く握りしめて、顔を上げた。

    そして放たれる、私の胸を深くえぐる言葉………。


    紬「澪ちゃんが好きよ!!!!」


    その言葉だけに全てのエネルギーを蓄積したのだろうか、
    そう言い放ったムギは、両腕で鍵盤の不協和音を奏でて、
    鍵盤の上で突っ伏して泣き崩れた。

    もう、誰が見ても分かる号泣だった。


    そこまで追い詰めて、私は、はたと気付く。

    そうだ、私はムギの事をちっとも考えていなかった。
    これ以上ない程ムギを悲しませて、私はやっとその思考にまで辿り着いたのだった。

    99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:20:46.54
    ムギは強い。
    突っ伏したままでこそ居たが、ここが部室という事を理解しているからか、
    すぐに涙を止めた。

    涙を止めた訳だって、さっき気付いた理由と同じ。
    というより、私自身が澪に言った言葉通りなのだ。

    『ムギって基本的に私達の事好きだろ?』

    そう、ムギは『皆』が好きなのだ。
    それは誰か1人に与えられる愛情ではない。

    この鍵盤の上で泣き崩れた『琴吹紬』は、そういう女性なのだ。

    律「ムギ………ごめん」

    私は澪の時と同じで、ムギに素直に頭を下げた。
    ムギもまた、1人の人間の求愛を受けて、苦しんでこの場に居たのだ。

    101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:32:46.97
    頭を下げた私に、ムギは顔を上げてくれた。
    顔を上げたムギは、目を腫らしていても、いつもの笑顔で、私に微笑みかけてくれた。

    そして「もう少しで皆来ちゃうね………。」と前置きして
    ムギは、昨日の事を話してくれた。

    お昼のそば屋の事、水族館での事、ゲーセンでの事
    最後にライブの話をしてくれた所で、ムギはまた涙を堪えているようだった。

    私は「ありがとう。」とだけ言って、もうそれ以上は聞かなかった。
    多分これ以上聞いたら、私も涙を流してしまうかもしれないから………。


    すると、まるで計ったかのように、唯達の能天気な話し声が聞こえて来た。
    まあ、聞かれてはいないだろう。

    私は、もう一度ムギに「ありがとう。」と言うと、ドラムセットに歩み寄った。


    103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:40:25.18
    澪とムギの2人は、バンドの演奏で、昨日の一件の影響を微塵も感じさせず、
    それどころか、逆に練習したつもりの私が、梓にダメ出しを喰らう始末だった。

    唯が「りっちゃん、今日はお腹空いてるね?」なんて的外れな事を言って、
    教科書通りのティータイムになると、もう練習なんてそっちのけで、
    結局帰るまで、いつもの放課後『ティータイム』だった。

    もっとも、澪とムギが会話を交わす場面はなかったが………。
    とはいえ、私だって斜に構えてしまうんだ。
    今まで通りの『ティータイム』に戻るには、それなりに時間が掛かるだろう。


    そうして、放課後の放課後を迎えると、私達は揃って家路に就く。

    いつもの信号機の前で、私達はお互い別れを告げて、「また明日。」と手を振る。
    私と、帰る方向が一緒の澪は、2人揃って皆を見送る。

    夕日で長くなった皆の影が消えかけた時、
    私は澪に、今日のムギとあった事を話そうと思い立った。

    今度は誰も泣かせないように、と胸に誓いながら………。


    104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:45:07.98
    「澪、ちょっといいか?」で、私は澪を近くの公園まで引っ張った。
    夕日が落ち掛けるこの時間、子供達も手を振り合って『今日のお別れ』をしている。

    次第に人もまばらになり、私は誰も居ない公園のベンチに腰掛けるよう澪を促した。

    律「何か飲む?」

    澪「まだ飲むのか?」

    良かった、いつもの澪の調子だ。

    律「そういや、もう紅茶腹だったな。」

    澪「だろ?」

    私も澪の隣りに腰掛けると、お互い笑い合った。
    昨日出来なかった事が、まるで遠い昔のように懐かしい。

    澪の笑顔が今の私を一番笑顔にしてくれる。

    『ああ、やっぱり私は澪が大好きなんだな。』

    たったこれだけなのに、そう思えるのに十分過ぎるやり取りだった。


    105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 20:52:26.09
    だからか、この空気を壊してしまうかもしれないのが、怖かった。
    それでも、恐る恐る、私はムギの事を口にしようとした。

    律「澪。きょ、今日さ………」

    ここに来てもおじげづいた私は、言葉に詰まってどもってしまう。
    だけど、私のどもり方を見て、澪が私の言わん事に気付く。
    澪の表情が少し強張ったのが分かった。

    ただ、私は、なおも頑張って話を続けようとする。
    しかし、それを遮るように澪が言った。


    澪「律。何も言うな」


    語気は強いが、澪は笑顔だった。
    そう、澪も私と同じ結論まで至っていたのだ。

    すると、澪がもう一度私を呼んだ。


    106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 21:00:29.99
    澪「律」

    律「なんだ?」

    ひと呼吸置いて、澪が言った。
    私の息の根を止めるような事を………。

    澪「人が寝てるのを確認するのは、もっと違う方法がいいぞ」

    律「えっ!!?」

    私は比喩でも何でもなく、本当に心臓が止まりそうだった。
    そんな私を尻目に、澪が続ける。

    澪「………でも、律の本音が聞けて嬉しかった。なぁ?律」

    律「ま、待ってくれ、あれはその………」

    澪「冗談とでも言うのか?」

    律「いや、その………」

    私は耳まで真っ赤になった顔を伏せた。


    107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 21:07:29.84
    澪「りぃつぅぅぅ。そんな冗談は許さないぞ」

    律「ご、ごめんなさい」

    澪「私だって、勇気出して言ったんだ。だから律もな?」

    律「え、ええ!!?」

    飛び上がる程驚いた私は、澪の期待の眼差しを見ると、
    「昨日言ったし。」なんて軽口も叩けなかった。

    澪「ほら、律」

    澪が私の手を取り、向かい合うよう促す。
    私は、されるがまま澪と向かい合った。


    110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 21:14:03.16
    澪「うん、いいぞ、律」

    律「いいぞって………」

    「物事には順番があるだろ。」って言いたくなったが、
    『夕暮れの誰も居ない公園』
    『向かい合う2人』
    そう、舞台は仕上がっているのだった。

    お互いの呼吸すら分かる程近付いて、私は澪の目を見て固まる。
    すると、澪が先に焦れて

    澪「は、早く言ってくれないと私が恥ずかしいじゃないか!!」

    と言った。

    律「う、うるせー!!」

    心の準備がまだなんだよ、こっちは………。
    でも、もう後には引けないか。

    私は、意を決して言う。


    112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 21:24:01.39
    律「澪。あ、あの………」

    知らぬ内に私は、澪の両手を強く握り締めていた。
    汗ばんだ私の両手が、澪の手を湿らせる。
    ………どれだけ私は緊張してるんだよ。

    澪「うん………」

    来る答えが分かっているのに、お姫様のように目を輝かせる澪。
    もう言え、言っちまえ!!

    律「あ………だ」

    澪「うん」

    律「だ、だ………」

    澪「うんっ」


    律「だいすきだ!!!!!!!」


    澪「うん!!!!」

    大きく頷いた澪が、一生分とも思える笑顔をくれる。
    そして、力が抜け切った私は、その余韻に浸る間もなく、
    それがさも当然のように、自然と澪の顔に自分の顔を近付けていた。

    察したのか、澪が目を閉じる………。

    113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/15(金) 21:28:26.73
    暮れ行く夕日の中、私達は唇を重ねた。
    何にも負けない、私達が描く最上の一枚絵………。

    お互いの柔らかい唇の感触が離れると、
    照れ隠しにうつむいた澪が、上目遣いで言った。

    澪「律、柔らかいのな」

    律「み、澪だって」

    澪「律………」

    もう一度、今度は澪から口付けて来る。
    私が受け入れる形で、一枚絵の再現。

    律「澪、大好きだよ」

    唇を離して私が囁く。
    大きく瞬きをした澪が、そっと囁き返してくれた。


    澪「わたしもだ、律」






    おわり

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  1. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/10/19(火) 01:23:35 URL [ 編集 ]
    いい話だけど澪の紬に対しての気持ちって何だったんだろうな
    律が好きだったけど素直になれずに友達として好きになった紬への気持ちを恋と間違えちゃったのかな
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2011/01/10(月) 20:26:30 URL [ 編集 ]
    最後投げやったな

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