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律「Hello,again」

  1. 名前: 管理人 2010/10/25(月) 22:56:48
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 17:17:44.13

    “記憶の中で ずっと二人は 生きて行ける”


    2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 17:24:07.57
    ――――― ――

    「おっちゃん、ビール追加」
    「はいよ」

    少し洒落た音楽が流れる居酒屋のカウンターに、
    大きなグラスに入ったビールが勢いよく置かれた。

    「けどりっちゃん、今日はよく飲むねえ。何かあったのかい?」
    「うん、まあね」
    「それ、アルバムかい?随分綺麗な子が写ってるけど」
    「そう。私の大切な、友達」

    友達。親友。幼馴染。
    私たちの関係には、色々な呼び名があった。
    だけど私の想いは一体、なんと呼べばよかったのだろう。
    少しだけ古びた写真を指で撫でながら考える。

    窓の外では雨が降り始めていた。

    「……今日、昔のバンド仲間から連絡があってさ。こいつ、事故で危篤だって」
    「え!?良いのかい、病院に行かなくて!?」
    「もう助かる見込み、ないらしいから」

    私は笑った。笑うしかなかった。
    笑いすぎて出た涙が、写真の澪を濡らした。

    ――――― ――

    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 17:37:00.46
    大学を卒業してもう二年経つ。
    それぞれ就職先も違い、会わない日が続いた。
    だけど頻繁に連絡を取り合っていたし、つい一昨日も澪は言っていた。

    「もしかしたら結婚するかも知れないんだ」と。

    その時勤め先で嫌なことがあり苛々していた私は素直に「おめでとう」とは
    言えなかった。
    妬みとはちょっと違う。他に何か伝えたい言葉があったのに、それを上手く
    言い表すことが出来なくて、結局何も言えずじまいだった。

    最後に澪と会ったのはいつだっただろう。
    多分、先月。ちょうど一ヶ月前だったかも知れない。
    都内の居酒屋で、お互い愚痴を言い合ってた。それでも澪は毎日が充実していて
    幸せそうだった。

    私は傘から透けて見える月を見上げて、白い息を吐いた。
    そろそろ雪が降ってもおかしくない季節。

    高校生の頃、私と澪の関係が少し変わり始めたのもこの季節だった。

    10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 17:50:16.21


    「みーおーちゃーん!」
    「うわっ、なんだよ律!?」
    「へへっ、澪ちゃんの首はあったかいでしゅねー」

    寒い季節は毎朝、私と澪はじゃれ合いながら登校した。
    私が澪の首に手を当てると、「冷たいだろ!」と言って怒って私の手を振り払うけど、
    それでもそんなやり取りだけでも、私の心は温かくなった。

    大切な、友達だった。
    大好きな、親友だった。

    でもいつからだろうか。自分の気持ちが変化し始めたのは。
    私の澪への気持ちが、他の仲間と違うんだと気付いたのは、高二の冬だった。

    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 18:06:47.98
    「なあ、澪」
    「なに?」
    「……何でもない」

    あの頃の私は何度も澪の名前を呼び、けど何も言えずにそう言ってすぐに目を
    逸らしていた。

    自分の気持ちを確かめるのが怖かったのかも知れない。
    澪に拒絶されるのがもっと怖かったのかも知れない。

    澪はいつも「なんだよ」と言って笑っていた。
    笑う澪の横顔を見れるだけで、私は満足だと思っていた。

     けど、そんなある日、学校で変な噂が流れた。
    澪が他校の男と付き合ってると。
    そんな噂、ただの噂だと信じていたかったのに、私は澪に聞いてしまっていた。

    澪は何も答えなかった。
    私が詰め寄ると、澪は「律には関係ないだろ!」と怒鳴ると私に背を向けた。

    「本当、なのか?」
    「……本当だったらなに?」

    澪は言った。私は「べつに」と答えた。
    その時も、私は澪に何も言えなかった。

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 18:15:43.42
    その日から、何となく私と澪の距離は離れていった。
    澪は和の傍に寄っていった。私は唯やムギといった軽音部の仲間と一緒に
    いることがずっと多くなった。

    そして、そのまま春が来て、私たちは高校最後の学年に進級した。
    私と澪は、違うクラスだった。

    澪は見るたびにどんどん綺麗になっていった。
    けどその隣に居るのは自分じゃない、他の誰か。

    私の居場所がなくなった気がして、胸が苦しくなった。
    それでも私は、このまま時が経てばこんな気持ちなんて無くなってしまうと
    思っていた。

    この気持ちが、恋愛感情だなんて認めたくなかった。
    だけど、澪と話せない日々が続き、それに比例するように私の想いも積もっていって
    しまう。

    ただ、部活の事務連絡やそんなことでしか話せなくても、澪と話せただけで、
    私は舞い上がるほど嬉しくなった。

    16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 18:26:20.43
     高3になって、夏になった。
    澪は毎年恒例だった夏合宿をやると言い出した。

    私も、もちろん唯もムギも、梓も賛成した。

    梓は夏フェスに行きたいと言っていたが、
    澪が「一年の時に行った別荘がいい」と言って譲らなかった。
    結局梓が根負けして、一昨年に行ったムギの別荘で合宿することになった。

    それが決まった日の夜、久しぶりに澪から電話がきた。

    「澪?」

    私の声が不安そうだったのだろう、澪は電話越しで笑った。

    『律、久しぶり。……でもないか』
    「うん。一応毎日会ってるし」
    『……最近、全然話せてなかったよな』
    「そうだな」
    『ごめんな、えっと……』
    「いいよ、別に」

    私は澪の言葉を遮るように言った。

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 19:10:46.40
    「ていうか、何で澪が謝ることあるんだよ」

    澪が謝る理由なんてない。
    だけど澪はそういう奴だから。
    自分が悪くも無いのに、私と何かある度にそう言って謝ってきた。
    私が悪い時にだってそう。結局最後は澪が「ごめん」と言ってくる。

    『……うん。なあ、律』
    「なに?」
    『律はさ、これからもずっと、私と友達でいてくれる?』
    「何言い出すんだよ急に」

    当たり前だろ、そんなの。
    親友じゃん。

    心に虚しさを抱えたまま、私はそう言った。
    澪は『そうだよな』と笑った。

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 19:21:38.36
    私たちは、その日いつもよりも長く電話で話した。
    どうでもいいようなことばかり、ずっとずっと。

    最近話してなかったのに、沈黙が訪れることはなかった。
    それとも、訪れないようにお互い必死に話題を探していたのかも知れない。

    夜中の二時を過ぎると、私たちはやっと電話を切った。

    「それじゃ、また明日な」
    『うん、また明日』

    ただそれだけの会話なのに、今もまだ頭の中ではっきりと残っている。



    夏が過ぎて、秋になった。
    お互い話さない期間なんかなかったように、私たちは以前の様にずっと一緒に
    いるようになっていた。

    その頃にはさすがに高3とだけあって、大学や受験の話が出てくる。
    私たちの間でもそれは例外ではなく、話題に挙がるのはそのことばかりになっていた。

    「律はさ、大学どこに行くの?」

    帰り道、澪は唐突に訊ねてきた。
    その日が始めて、澪と大学のことを話した日だった。

    20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 19:28:57.10
    思えば私たちは、肝心なことはずっと後回しにしていた。
    中学の頃だってそうだった。

    澪に高校どこに行くの、と訊ねようとして何度も失敗した。
    結局、最後の進路調査のときに、いつものようにふざけた振りをして澪の
    進路希望用紙を覗き見て、第一志望が同じだったことに胸を撫で下ろした。

    何となく、気恥ずかしいような、怖いような、そんな色々な気持ちが、
    私の言葉を喉の辺りで塞き止めてしまう。

    「澪は?」

    私は澪の質問には答えずに、逆に問い返した。澪は、「N女子大」と答えた。

    「また女子校かよ?」
    「共学って怖いし……」
    「何言ってんだよ、澪、付き合って……」

    私はそこまで言って止めた。別に澪が怒っていたわけでも、泣きそうな顔をして
    いたわけでもない。自分の涙腺が緩みそうになってしまったから。
    それに、仲直りをしてから一度もその話題は出していなかった。
    せっかく戻れた関係を、これ以上崩したくはなかった。

    「……私もそこに行こっかな」
    「え?」
    「N女子大」

    21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 19:47:18.47
    澪は目を瞬かすと、「まだ進路決めてなかったのか?」と少し驚いたような、呆れたような、
    そんな声音で言った。

    「うん」
    「……まったく」
    「仕方ないだろー、わかんなかったんだし」
    「でもそんな気軽に決めるもんじゃないだろ、大学」
    「それはそうだ」
    「別にいいけどさ、私は」

    澪はやれやれ、と溜息を吐くと、マフラーに顔を埋めて言った。

    「ほんとに?」
    「うん……、ただ律が受かるだけの学力があれば、だけど」
    「……澪が教えてくれればいい!」
    「いや、無理だし。私だって相当頑張らなきゃいけないのに」

    けど、と澪は続けた。
    「本当に律が行きたいんなら教えてやってもいいけど」と。
    私はもちろん!と頷いた。

    宙ぶらりんだった私の足が、漸く地面に着いた気がした。

    私はその年の冬、必死で勉強した。
    今からじゃ遅いと言われたけど、それでも必死で。

    そして私と、勿論澪も晴れてN女子大に受かった。
    唯やムギも、同じ大学に受かって、また大学に入っても皆で音楽やろうなと話した。

    22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 19:55:34.03
    けど同じ大学とは言っても学部も違い、中々四人で顔を合わすことも出来なく
    なっていき、結局皆どのサークルにも入らないまま、私たちの組んでいたバンド、
    放課後ティータイムは自然消滅といった形になってしまった。

    それでもまだ交流はあったし、私と澪はよく二人で遊びに行ったりもしていた。
    高校のときに感じていたような想いは、その頃にはうまく自分の心に閉じ込める術を
    身に着けていて、心の奥底で眠らせていた。

    そして、時が経つというのは早いもので、私たちは大学を卒業した。
    軽音部の面々は、誰一人として留年にはならなかったが、唯は就職せずに、
    大学で出会った男性と結婚した。ムギも親の会社を継いだらしい。

    そして澪と私も、それぞれ違う道を進んだ。

    大学の卒業の日、私は今まで持ち続けていた想いの名前を確かめることもせず、
    澪と別れた。


    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:04:41.61

    今でも、あの時私は澪に何を伝えればよかったのかなんてわからない。
    伝えなくてよかったんじゃないかと思う。

    けど、どうして今、私はこんなに後悔しているんだろう。
    今更後悔したって遅いのに。

    コートのポケットが、微かに震えた。
    悴んだ手でポケットの中を探り携帯を取り出した。
    唯からの着信だった。
    私は電話に出なかった。

    さっき居酒屋から出た時には土砂降りだった雨も、今はだいぶ小降りになっている。
    私はカバンから、一冊のアルバムを取り出した。

    高校生の頃、初めて自分のカメラを持った日から、私の写すものは全部澪だった。
    澪しか見えてなかったのか、それともただたんに澪がカメラから逃げ回るのが
    面白かっただけなのか。それとも、少しでも澪を記憶に留めておきたかったのか。
    自分でも呆れる程、このアルバムには澪の写真しか詰っていない。

    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:11:31.82
    「なあ、澪」

    私は呟いた。
    会いたいよ、って。

    会って話したい。笑いたい。何でもいいから、澪と一緒にいたい。
    写真の中の澪は、笑っていたり、怒っていたり、泣いていたり。
    ちゃんと残ってるのに、私の頭の中の澪は段々霞んでいってしまう。

    なあ、澪――

    その時、またポケットの中で携帯が震えた。
    今度の着信はムギだった。無視しようとしたけど、それを許さないというように
    携帯は震え続けた。

    私は携帯と同じく震える指で、通話ボタンを押した。
    聞きたくないことを聞かされるんじゃないかと思って。

    『りっちゃん?澪ちゃんがね』

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:21:09.12
    「いい、何も言わなくて!」

    唐突に切り出したムギの次の言葉がわかった気がして、私は電話を切ろうとした。
    けどムギが『りっちゃん!』と少し強い声で私の名前を呼んだ。
    それで私は思わず動きを止めた。

    『りっちゃん、ちゃんと聞いて』
    「……うん」
    『澪ちゃんがね、今目を覚ましてりっちゃんに伝えて欲しいって言ったの』
    「え……?」

    『音楽プレイヤーにね、澪ちゃんがりっちゃんへ送った曲が入ってるんですって。
    それを聴いて欲しいって』

    どういうこと?
    私が聞こうとすると、『りっちゃん、早く病院に来てね』と強引に電話が切られた。

    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:27:47.51
    「なんだよ、それ……」

    私は呟くと、携帯を乱暴に閉じてポケットに仕舞うとカバンの中から必死に
    音楽プレイヤーを探し出した。
    電源は入ったままだった。

    私は何の曲なのかもわからないまま、音楽プレイヤーを操作して、その曲を探した。
    そういえば、前に澪に会った時、澪に音楽プレイヤーを貸してと言われて貸した覚えがある。
    返ってきても何をされたのかなんて確かめもせず、そのままカバンの中に入れていた。

    ずっと下のほうにスクロールしていくと、見覚えのないファイルがあった。
    そのファイル名は、『りつへ』となっていた。

    私は急いでイヤホンを耳につけると、再生ボタンを押した。

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:39:45.72
    聴いた事のあるイントロが流れる。
    心地良いリズムが、こんなときであるにも関わらず、私の身体を動かしてしまう。

    澪の声が、歌を紡いでいく。
    優しい優しい声が、私の周りを包んでいく。

     “記憶の中で ずっと二人は 生きて行ける”
     君の声が 今も胸に響くよ それは愛が彷徨う影
     
     僕は この手伸ばして 空に進み 風を受けて
     生きて行こう どこかでまためぐるよ 遠い昔からある場所

    私は傘を投げ出してその場に蹲った。
    涙が、止まらなかった。
    そんな私を、雨が慰めるように優しく濡らしていった。

    伝えたい想いを、伝えたい言葉を、今更思い出した。

    31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:47:21.93
    私の心の中で溢れてくる言葉と重なるように、澪の声が、曲の最後の演奏に乗って
    私の伝えたい言葉と同じ言葉を囁く。

    「みおっ……」

    いつだってそうだ。
    やっぱり私は変わってない。変われていない。いつまでも餓鬼のままだった。
    肝心なことは結局何も伝えられないまま。最後は澪に言わせてしまう。

    曲が終わってしまった。
    もう、何も聞こえない。澪の息遣いさえ。

    私はもう一度再生しようとした手を止めて、立ち上がった。
    落ちていた傘も拾わず、私は走り始めた。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:54:55.58
    ――――― ――
    電車に乗っている時間ももどかしかった。
    頭の中で、澪に言いたい言葉を頭に並べていく。
    どれもこれも、ありきたりなものばかりで自分の頭が嫌になった。

    病院に着くと、私は急いで窓口へと走った。
    けど、窓口で澪がどこにいるかを聞く前に、私は知ってしまった。

    澪の乗ったベッドが、沢山の人に囲まれてどこかへ運ばれていくのが見えた。
    誰の顔も青ざめていた。
    その中に、唯やムギ、そして梓の姿も見つけた。

    私は震える足を叱り、追いかけた。
    何度も転びそうになりながら、絡まる足を酷使して、澪を追いかけた。
    澪の眠るベッドは、集中治療室と掲げられた部屋に入っていってしまった。

    「澪っ!」

    34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 20:59:59.28
    名前を呼んだ。何度も呼んだ。
    だけど、集中治療室のドアが開かれることはなかった。

    「りっちゃん!」

    唯やムギ、梓が駆け寄ってくる。
    暫く見なかったうちに、唯は随分とお母さんっぽくなっている。
    そういえば今、唯のお腹に子どもがいるんだっけ。
    ムギは高校や大学のときと何ひとつ変わらないように見えたけど、
    仕事の出来そうなめがねを掛けている。
    梓は髪を下ろして大人っぽい。身長はあまり変わって無いのに。
    なんだっけ、梓は確か、楽器店で仕事をしてた気がする。

    どこか冷静な頭で、かつての仲間の今の生活のことについて思い出す。
    誰から聞いたんだっけ、この情報。あぁ、澪か――

    「りっちゃん!」

    身体を強く強くゆすられた。
    それで私はハッと目の焦点を唯たちに戻した。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:05:15.12
    「律先輩、大丈夫ですから!」
    「澪ちゃん、今は一時的に危険みたいだけど、これを乗り越えたらもう大丈夫
    だってお医者さんが……」

    梓と唯が、言ってくれた。
    ムギが私の震えている手を握ってくれた。

    バカだな、私は。こんなふうになることを覚悟してたはずなのに。
    実際、こんなとこを見てしまったら動揺してしまっている。

    「澪……っ」

    私はムギの手を振り払うと集中治療室の窓に駆け寄った。
    駆け寄って、澪の姿を少しでも見ようと目を凝らした。
    澪は、信じられないくらい包帯を巻かれて浅い息を繰り返していた。

    「なあ、澪っ!私はまだ……!」
    「りっちゃん!落ち着いて!」

    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:08:35.47
    窓を叩いても、何をしても、澪は目を開けてくれなかった。
    やがて、部屋の中から無機質な音が響いてきた。

    「……みお」

    私はその場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。
    私を支えてくれていたムギも、同じように泣き崩れる。

    唯も、梓も、静かに泣いていた。
    混乱して来たときには気付かなかった澪のご両親も、よく知らない誰かも、
    皆泣いていた。

    もうだめなんだと悟った。
    いくら澪の名前を呼んでも、何かを伝えようとしても、もう返事は返ってこない、
    何も伝えられないんだと。


    38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:14:23.96
    もう、動く元気なんて残っていなかった。
    私は泣くことも出来ずに、呆然と澪がどこかへ運ばれていくのを見送るしかなかった。

    座り込んだ拍子に勝手に再生ボタンが押されたのか、イヤホンから澪の歌声が
    鳴り響いていた。

    私の一番大好きな、心地良い居場所が、なくなってしまった。
    何も伝えられないまま。



    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:22:50.57
    お葬式が終わり、そろそろ一周忌になる。
    私は、ある一枚のCDを持って澪の眠るお墓に足を運んだ。

    唯たちは着いてきてくれると言った。
    けど私は、良いと断った。

    一人で、澪にお別れしなければいけないと思ったから。


    「……先に逝くなんてさ、酷いよ澪は」

    お墓に着くと、私はしゃみ込んで呟いた。
    勿論、答えは返ってこない。
    もしここに澪がいたらなんて言うだろう、と今でも考えてしまう自分に、
    自嘲じみた笑顔を浮かべた。

    私はお葬式のときにちゃんと手を合わせられなかった分まで、きちんと手を合わせると
    カバンから持ってきたCDを取り出して、お墓に供えた。

    CDには、私の字で『みおへ』と書いてある。
    つい昨日、録ったばかりの曲が一曲だけ、入っている。

    唯たちに頼んで手伝ってもらった。
    放課後ティータイムから、そして私から澪への想い、沢山詰め込んだ。
    これで本当に、放課後ティータイムは最後になる。
    そのことも含めて、私たちは心を込めて演奏した。

    “Hello, Again ~昔からある場所~”

    40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:30:34.56

    私はずっと、澪の隣にいることが好きだった。
    ずっとずっと、澪のことが好きだった。

    けど、澪はもういない。
    でも。

     “記憶の中で ずっと二人は 生きて行ける”

     生きて行こう どこかでまためぐるよ 遠い昔からある場所

    ここ最近、ずっと降り続いていた雨はやっと止んだ。
    私の心の雨も、やっと。

    いつかまた、今度は澪と一緒に歌いたい。
    その時にまた、今度こそ伝えたいことを伝えてやる。

    だからそれまでは――

    終わり。

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/25(月) 21:32:30.14
    最後混乱してきて終わり方が変になってしまった。
    これを書く間ずっと「Hello, Again ~昔からある場所~」を聞いてたw
    最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

    イメージ:Hello, Again ~昔からある場所~/My Little Lover

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  1. 名前: ohou ◆- 2010/10/26(火) 00:16:54 URL [ 編集 ]
    今回もトラックですか?

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