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律「手、繋ごっか」

  1. 名前: 管理人 2010/11/20(土) 21:38:20
    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 15:56:02.09
    「あーずーさっ」

    突然、背中から体当たりを食らわせられた。
    律先輩が、私の肩に腕を回して「おっはよー」と上機嫌に笑う。

    「……おはようございます」

    何か良い事でもあったんですか、と聞こうとして止めた。
    さりげなくを装って、肩に回された律先輩の手を外す。

    元々スキンシップというものが苦手だった。軽音部に入ってから、唯先輩がしょっちゅう
    抱きついてくるのにはもう慣れてしまったけど、未だに律先輩のスキンシップには慣れない。

    最初、私は唯先輩だって苦手だった。けど一年生のときの合宿で見た唯先輩の意外な一面と
    ほんわかとした空気が私に安心感を与えてくれた。それ以来、唯先輩に抱きつかれるのは嫌じゃ
    なくなった。
    けど律先輩は。
    普段だってまったく練習してないし、いつも無茶苦茶で無鉄砲。全然部長らしくも
    先輩らしくもない、ただ元気が取り柄みたいな人。小さい頃から私はどちらかといえば
    物静かな、大人っぽい人が好きだった。だから律先輩みたいな人とは極力話さなかったし、
    そういう人とどうやって話せばいいのかわからなかった。
    律先輩に触れられるのが嫌なわけでもないけど、私は正直「怖い」と思ってしまう。
    だからなのかも知れない、律先輩が苦手だと思ってしまうのは。


    9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 15:59:34.09
    「なんだよ梓?元気ないぞ?」

    「ほっといて下さい」

    顔を覗きこまれて、私は思わずびくっと肩を震わせてしまった。
    慌てて顔を逸らしたけど、それを見た律先輩が苦笑していたのは見なくても解った。
    「何にもしないっつーの」という声が聞こえたから。

    少しだけ申し訳ない気持ちになって、私は訊ねてみる。

    「今日は澪先輩と一緒じゃないんですか?」

    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 16:05:58.54
    すると、律先輩は「あぁ」と頷いて後ろを顎で示した。
    振り返ってみると、澪先輩は唯先輩とムギ先輩と一緒に歩いていた。
    唯先輩が私に気付いて、手を振りながら私に駆け寄ってくる。

    「あずにゃん、おはよーう!」

    そして、私はいつの間にか唯先輩の腕の中に居た。
    唯先輩が「あずにゃん分充電充電」とさらに腕の力を強くした。

    「ほんっと唯は梓に抱きつくの、好きだよなあ」

    「だって、気持ちいいんだもんっ」

    「ふーん。梓も梓で満更でもなさそうな顔、してるしな」

    「そんなことありません!」と言うと、律先輩が面白そうに「梓が怒ったー」と
    からかってくる。

    15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 16:16:17.84
    反論する気も失せてしまい、私は溜息を吐いた。
    朝から疲れる人たちだ、と思っていると、「おはよう」と癒しの声が聞こえた。

    まるで飼い主を待ちわびていた犬みたいに反応した私を見て、律先輩と唯先輩が
    「おぉ!」と声を揃えた。

    「おはようございますっ、澪先輩、ムギ先輩!」

    律先輩たちと比べ、優しいし演奏だって上手で、何より頼りになる澪先輩とムギ先輩。
    たぶん、二人がいなければ私は二年生まで軽音部を続けていなかったような気がする。

    「今日も暑いな」

    澪先輩が立っているだけでも流れ落ちてくる汗を拭いながら、誰にともなく呟いた。

    16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 16:20:01.30
    >>15
    ミス。

    たぶん、二人がいなければ私は高校初めての夏休みに入る前に軽音部を辞めていたような
    気がする。

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 16:28:17.15
    そういえば、と再び五人揃って歩き出すと律先輩が口を開いた。

    「もうすぐ夏休みなんだよなあ」

    「そだねー。今年合宿どこ行こっか!」

    律先輩の夏休みという言葉に、唯先輩が食いついた。
    私は少し俯いていた顔を上げると、慌てて訊ねた。

    「今年も行くんですか、合宿!?」

    「え、だめなの?」

    唯先輩が不思議そうに訊ねてきた。
    先輩、だめも何も、先輩たちは受験生ですよね?

    「今年は私たち受験だからやめとこうよ」

    私が訊ねる前に、澪先輩がそう言って止めようとした。
    だけど、驚いたことに、澪先輩と同じことを言うものだと思っていたムギ先輩が、
    「最後の夏休みなんだから」と唯先輩側に立った。

    「ムギも!?」

    「そうそ、最後こそ合宿行くべきじゃーん?ってことで、日程他は今日の放課後、
    ゆっくり決めようぜ!」

    律先輩は、こういうときだけ部長らしく纏める。澪先輩が、仕方ないなさそうに頷いた。
    私は大丈夫なのかな?と思いながら、校門をくぐって先輩たちと別れた。

    18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/15(月) 16:37:39.06
    ―――――
    放課後。
    珍しく掃除もなく、早めに部室に顔を出すと、案の定と言うか、やっぱり誰も
    いなかった。

    誰も居ない部室は初めてで、私は何となく居心地が悪く、ソファーに鞄を置くと、
    ギターケースを開けてギターを取り出した。
    早く誰か来ないかなと思いながら、チューナーで音を合わせていく。
    それが全部済んだとき、背後のドアが小さく音を立てて開いた。

    「こんにちは!」

    やっと来てくれた誰かは、律先輩だった。
    嬉しさと安堵で膨らんだ胸が、一気に萎んでいったような気がした。

    「おっす」

    律先輩は部室に私以外誰もいないことを確認すると、中に入ってきた。
    そして、さっきの私と同じように鞄を置くと、私の後ろに立って手元を覗き込んできた。

    「唯と違って真面目だなあ、梓は」

    「律先輩とも違って、じゃないですか?」

    「んまっ、手厳しいわねえ、この子はっ!」

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 19:47:02.43
    律先輩はわざわざ声を裏返させて言った。
    私はそれを無視すると、チューナーをギターから外して立ち上がった。

    「練習するの?」

    「律先輩と違いますから」

    そう答えると、律先輩は乾いた笑いを漏らして「不真面目で悪うございました」と
    いつもの席に腰を下ろした。

    それ以上、何も言わないので私も遠慮なくギターをかき鳴らす。

    「ふわふわ?」

    「え、はい、そうですけど」

    難しい部分で四苦八苦していると、律先輩が訊ねてきた。
    頷くと、「そ」と微妙な相槌を打って、それっきり何も言わない。

    律先輩って、こんなに静かな人だったっけ?

    37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:11:13.32
    そういえば私、律先輩と二人きりになったことは一度もない。
    他の先輩だって殆どないんだけど。

    律先輩は、誰彼構わず一人喋り倒してるようなイメージがあった私は、だから
    何かを考え込むような表情をして黙っている先輩が意外で、思わずじっと見詰めてしまった。

    「え、なに?」

    私の視線に気付いた律先輩と目が合う。
    先輩らしかぬ表情が消え、きょとんとしたような表情で私を見る律先輩から目を
    逸らすと、何でもないですと首を振る。

    「てっきり私に見惚れてたのかと思っちゃったよ」

    「絶対ないですから安心してください」

    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:14:53.34
    >>36
    ごめん

    44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:22:10.94
    ふざけたように言う律先輩に即答すると、律先輩は「ひどっ」と机に突っ伏した。

    「そこは嫌でもそんなわけないじゃないですかーとか言って赤くなってよ可愛くない」

    「私は可愛くない後輩ですから」

    「梓冷べたい……」

    やっぱり律先輩は律先輩だ。
    私は「はいはい」と言って再びギターを構え直した。

    軽く口ずさみながら、ふわふわ時間のサビの部分を弾いていると、背後からカタカタと
    音がした。
    律先輩が、私の音に合わせて机を手で叩いていた。

    45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:31:50.90
    そのまま演奏を続けていると、律先輩が突然「よし!」と言って立ち上がった。

    「まだ誰も来ないし少しセッションするか、梓」

    「二人だけでですか?」

    「いいじゃん、楽しそうだし」

    ギターとドラムのセッションもそうだけど、律先輩が自らセッションしようなんて
    言い出したことに驚いた。
    律先輩は鞄からスティックを取り出して、早速ドラムに触れている。

    それから徐にスティックを持った手を頭上に。
    私は慌ててギターを構えた。

    「ふわふわな!1、2、3!」

    律先輩のカウントと、スティックを叩く音が静かな部室に響いた。

    48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:43:14.05
    それに合わせて、私の手が自然に動き出す。
    普段は唯先輩が弾いているパートを、少しだけ背伸びして弾いてみる。

    二人だけなのに、楽しいと思った。
    走り気味の律先輩のリズムだけど、いつのまにかそのリズムが身体に馴染んだらしく、
    演奏している間は逆に心地良いくらいだった。

    律先輩とずっと二人だけは嫌だけど、今この瞬間だけはずっと演奏を続けていたいと
    思った。

    それでも曲は終わってしまう。
    最後の部分を弾き終わると、私は思わず感嘆の息を吐いた。

    「あー、気持ちよかった!」

    律先輩が大きく伸びをして言った。
    それには同意せざるを得ない。いつものセッションと違って新鮮だっただけなのかも
    知れないけど。

    50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 20:53:54.08
    でも、身震いするほど、演奏が合っていた。

    確かに律先輩のドラムは走ってる。
    だけど、鳥肌が立つくらい合った演奏が出来る。
    今まで澪先輩がしっかりとした土台を作っていると思っていたのに、この走り気味の
    律先輩のドラムが既にちゃんとした土台を作っていた。

    全然そうは見えないのに。

    「律先輩ってちゃんと練習、してるんですね!」

    52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 21:02:14.65
    思わずそう言うと、てっきり律先輩は「してるしっ」と言って何か攻撃を仕掛けて
    くると思ったのに、身構えた私のほうを見もせずに「そらな」と、やっぱりドラムを
    叩いたまま呟くように答えた。

    「私が練習しなきゃ放課後ティータイムは滅茶苦茶になっちゃうだろー」

    「そりゃそうですけど……いつも部室じゃ練習してる姿見せないから……」

    私が言うと、律先輩はドラムを叩くのをやめて私を見た。

    「だって、そんな姿見せたくないじゃん?部長が真面目に練習してたら部員もそんな
    雰囲気になっちゃうだろー?」

    「だめなんですか?」

    「だめ。うちの軽音部はいつでも楽しくなきゃ!練習ばっかじゃ楽しくないだろー
    楽しく演奏しなきゃ音楽やってる意味、ねえし」

    94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 16:43:12.03
    それは律先輩がただ単に練習がしたくないからなのか、それとも本当にそう思ってるのか
    どうかはわからないけど、やっぱり私は驚いてしまった。
    言い訳じみたようにも聞こえるけど、軽音部のことをちゃんと考えてるんだと、
    そう思ったから。

    「見直した?」

    ここで素直にはい、と頷くのは癪なので、私は「ちょっとだけ」と答えた。
    律先輩は、意外そうに「へえ」と言うと、少しだけ嬉しそうな顔をした。



    96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 16:54:51.97
    その後、掃除で遅くなった澪先輩とムギ先輩、さわ子先生に進路のことで呼び出されて
    いたらしい唯先輩が来て、いつもの部活が始まった。

    ムギ先輩の淹れてくれたお茶をみんなで飲みながら、テーブルを囲む。
    普段この時間は、少し心の中で勿体無いなと思ってたけど、今日の律先輩の言葉を
    聞いて、確かにこれがなくなったら軽音部じゃないかなと納得してしまったりした。

    「んじゃー今年の合宿どこ行きたい?」

    「はいはーい、今年も海!」

    「去年も一昨年も海行ったから山にしよーぜ!」

    100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 17:15:59.10
    「海だよ海!」「山だ山!」と、つまらない言い合いをする唯先輩と律先輩を、
    澪先輩が「遊びに行くんじゃないんだから」と言って止めに入る。

    「じゃあ澪ちゃんはどっちがいい!?」

    「どっちって……ムギ、何かいい案ある?」

    「私もなんとも……」

    唯先輩に訊ねられ、困ったように澪先輩がムギ先輩に話を振った。
    だけどムギ先輩も、苦笑交じりに首を傾げる。
    結局何も決まらない。

    そういえば、一年生のとき、軽音部の合宿といえばみっちり練習するものだと
    思っていたっけ。
    今思えば、そんなの夢のまた夢なんだけど。

    律先輩の言う通り、楽しいを第一にするとしても、どうせ合宿に行くんなら
    軽音部らしいことがしたい。
    自分達で演奏しなくても、他の人の演奏に触れるだけでもいい。

    「梓は?」

    そんなことを考えていると、突然律先輩に話を振られた。

    101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 17:24:06.42
    「え?」

    「だから、合宿。どこか行きたいとこある?」

    まさか自分にも訊ねられるとは思っていなくて、正直戸惑ってしまった。
    それでも、私は小さな希望として、今考えていたことを口にすることにした。
    却下されるだろうけど、言うだけ言ってみる価値はある。

    「えっと、野外フェスとかどうですか?プロのバンドの演奏聴くのも勉強になると
    思うんですけど」

    「あぁ、夏フェスか。いいな!」

    澪先輩が頷いてくれる。
    良かったと胸を撫で下ろした。
    反対されそうだなと思っていた唯先輩も、「面白そう」と同意してくれた。

    「ムギは?」

    律先輩は、自分の意見を言わずにまだ何も発言していないムギ先輩に訊ねた。
    ムギ先輩が、「野外フェス?」と首を傾げる。

    「あれ、ムギ、夏フェス知らない?」

    102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 17:34:53.77
    「いえ、大体わかるけど……」

    「けど?」

    「ほら、ああいうのってチケットとか取るの、大変でしょ?それはどうするの?」

    ムギ先輩が、心配そうに特長的な眉毛を顰めて言った。
    しまった!と心の中で後悔。
    大体、高いし暑いし、やっぱり止めておいた方がいいかも。

    103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 17:35:34.93
    「んー……確かになあ」

    「あの、やっぱり夏フェスは行くのやめときましょう!」

    「何で?梓、行きたいんだろ?」

    「それはそうですけど……」

    「じゃあ折角提案してくれたんだし、部員の意見無視するわけにもいかねーじゃん?
    だから行こうぜ、夏フェス!チケットとかはどうにでもなる!」

    律先輩はそう言い切って、がたっと勢いよく立ち上がった。
    不覚にもかっこいい、さすが部長!なんて思ってしまった。
    「りっちゃん、どしたの?」と唯先輩が訊ねる。

    「さわちゃんに聞きに行こうかと、夏フェスのチケット余ってないか」

    ……前言撤回。
    やっぱり律先輩は律先輩だ。
    けど、ほんの少しだけ、律先輩が苦手じゃなくなっていた。

    ―――――

    112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 21:04:16.65
    残り少ない一学期もあっという間に終わり、高校二度目の夏休みがやってきた。
    去年は、まだ先輩たちのことがよくわかっていなかったり、仲良くできるか不安
    だったりで気乗りしなかった合宿だけど、今年は少し楽しみだった。

    合宿は先輩たちのことをよく知るチャンスだし、何より今年は夏フェス。
    楽しみにしないわけにはいかない。

    それに付け足すとすれば律先輩のことをちゃんと知りたいというのがある。
    変な意味じゃなくって、純粋に知りたいと思った。
    今の時期にこんなこと考えるのも変かも知れないけど、いずれ軽音部の部長になる私が
    先代の部長のことを知っているほうがいいと思う。
    少しの好奇心のような気持ちもあるんだけど。

    合宿はいよいよ明日だ。
    私はベッドに寝転びながら、メールの受信を知らせていた携帯を開けた。
    律先輩からメールが届いていた。

    『集合時間五分前には駅に集合!五分前行動が大切だぞ!』

    「……」

    115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 21:38:45.80
    律先輩らしいのか、部長らしいのか。
    私はなんと返せばいいかわからずに、何となく宛て先を見てみた。
    一斉送信だと思っていたのに、私だけに宛てたものだった。

    尚更何か返事を返さないといけないよね。

    そう思いながら、返信しようと律先輩の文面を消していると、暫くの空欄のあとに
    また何か書いてあるのに気が付いた。
    慌てて消すのを止めてもう一度律先輩のメールを開いて、下にスクロールしていくと、
    『明日は楽しもうな』という言葉が添えられていた。

    「……わかりにくいなあ、もう」

    私はそう呟きながらも、心の中で「はい!」と大きく返事をした。
    律先輩は、他人の心のテンションを上げるのが上手いのかも知れない、なんて思った。

    118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/16(火) 22:00:45.43
    『律先輩こそ遅れないで下さいね!』

    それだけ打つと、送信ボタンを押して携帯を閉じた。
    律先輩のメールのせいで、よけいに眠れない気がしたけど、目を閉じると案外
    すぐに睡魔はやって来た。

    呆としてきた頭で、明日は晴れますように、なんて柄にもなく願ってみた。



    120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 22:36:37.04
    次の日、天気は良好で、絶好のライブ日和だった。
    朝見た返事の返事らしい『当たり前だろ!』という自信満々なメールの通り、
    律先輩は遅れないでちゃんと来た。
    一番乗りは、なんと唯先輩だったらしい。

    電車に遅れずに乗り込むと、少し緊張していた私はやっと落ち着くことが出来た。
    夏フェスには何度か参加しているけど、何度行ってもこの妙な緊張感というか、高揚感が
    拭えない。

    唯先輩の隣に座り、窓の外を見ていると、いつも以上にハイテンションな声が
    聞こえてきた。

    「……澪先輩、何か凄いですね」

    121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/16(火) 22:47:59.84
    丸一年は一緒に居るのに、あんなにはしゃいでいる澪先輩は見たことが無い。
    唯先輩が「うん」と気の無い返事をする。
    こっちはこっちで朝早いせいか眠そうだ。

    「なあ律!」

    「あー、はいはい」

    唯先輩越しに、通路を挟んで横に座る澪先輩を見る。
    その横には、律先輩が座っていた。
    てっきり一緒になってはしゃいでいると思ったのに、律先輩は優しい顔をしているだけで、
    澪先輩の話の聞き役に徹していた。

    ……律先輩ってあんな顔も出来るんだ。

    164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/18(木) 14:26:45.17
    普段見慣れていない律先輩の表情に、思わず惹きつけられてしまう。
    唯先輩の前に座っていたムギ先輩が、「梓ちゃん?」と不思議そうに私の名前を
    呼んだ。

    「あ、すいません」

    自分でも気付かないうちに、食い入るように律先輩のほうを見ていた私を怪訝に
    思ったのだろう、ムギ先輩は「大丈夫?」と訊ねてきた。

    「大丈夫です、少し緊張してるだけですから!」

    嘘ではない。
    実際緊張してるし、今から夏フェスに行けると思うと楽しみで仕方が無い。



    166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 14:37:35.22
    「そう?夏フェスって緊張するものなの?」

    「あ、はい、楽しみすぎてっていうか……ほら、小学校の遠足のときとか、眠れないくらい
    楽しみじゃなかったですか?そんな感じの、わくわくするような不安なような……」

    「そっかー、私、じゃあ私の今感じてる気持ちも緊張なのかな?」

    「緊張って言ったら語弊があるかも知れませんけど、身体も心もぎゅっと引き締まる感じ
    と言いますか……」

    「なら私のも緊張だねっ、梓ちゃんと一緒!」

    「はあ……」

    あまりにも嬉しそうなムギ先輩。
    私が訳も分からずにこくこくと頷くと、ムギ先輩は突然「私ね」と言って、私から窓の外に
    視線を移した。

    168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 15:00:35.63
    「小学校の遠足とか、参加したことなかったからそういう気持ちとかよくわからなくて……」

    「え?そ、そうなんですか?」

    慌てて謝ろうとすると、「謝らなくていいよ」と先に言われてしまった。
    すぐそこまで出掛かっていた謝罪の言葉を飲み込むと、電車の丁度いい揺れのせいか、
    いつのまにか眠っていた唯先輩の頭が私の肩に乗っかってきた。

    「遠足とかもそうなんだけどね、高校に入るまでは親の言いなりばかりで、習い事ばかり
    していたし、お友達も全然出来なくて」

    あ、そうだった。
    ムギ先輩の家のことはよく知らないけど、すごい家のお嬢様だって聞いたことがある。
    でも本人は全くそんな素振は見せなかったから、突然家のことを話された私は、相槌を
    打つことも出来ない。
    何も言わない私を気にすることなく、ムギ先輩は話続ける。

    169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 15:02:39.94
    >>167
    いや、まだ明日もあるが休憩しようとパソ開いたらまだ残ってたから。

    相変わらず進むの遅いと思う、ごめん。

    171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 16:00:36.68
    「中学校のときなんかね?家に籠ってばかりだったの、私」

    「ムギ先輩が?」

    「えぇ。髪の毛のせいもあるかも知れないけど、皆私のこと避けてたみたいだったし。
    元々人付き合いも少なかったから、他の人の気持ちもわからなくて、よけいに怖くて。
    だから、誰かと一緒の気持ちになれたんだってわかると、嬉しくなっちゃうの」

    暗い話なのに、私の様子を見て微笑みかけてくれるムギ先輩の表情はどこまでも
    明るかった。
    だから私も、聞いているこっちが暗い顔をしちゃだめだと思った。

    「私もです。誰かと同じ気持ちになれるのって嬉しいですよね」

    うん、とムギ先輩が大きく頷いた。
    横の座席では、澪先輩がまだ律先輩の肩を揺すりながら嬉しそうに話していた。

    181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 20:59:51.08
    ムギ先輩から、律先輩たちのほうに目をやると、ムギ先輩も同じように私の横から
    身を乗り出して、ぽつりと口を開き言った。

    「りっちゃんは他の子の心を読むのが上手いよね」

    「……そうですか?」

    「うん。皆のことちゃんと見てるからなんだろうけど」

    「律先輩が?」

    182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 21:02:46.08
    皆のことをちゃんと見てる……。

    改めて律先輩を見るけど、そんなふうには思えない。
    今は聞き役に回ってるかもしれないけど、普段はずっと話してばかりなのに。
    誰かのことをちゃんと見てるのは、どちらかといえば澪先輩かムギ先輩なんじゃ
    ないかと思う。
    眠る唯先輩が、ガクッと頭を揺らした。

    「うん、りっちゃん昨日もね、メールで梓ちゃん最近、部活に入ったばかりの頃みたいに
    いい顔してきたなって。だから明日からの合宿でもっと仲良くなれたらいいなって」

    183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 21:08:59.96
    「りっちゃんずっとあずにゃんのこと気にしてたもんね。私もあずにゃんのこと
    いつでも気にしてるけど!」

    ムギ先輩の言葉の途中で、いつ起きたのか唯先輩が後ろから私に抱き着いてきた。
    電車の中なんだから勘弁して欲しい。
    さっきからの私たちの視線に気付いたのか、律先輩がこっちを向いた。

    「なんだよ、さっきから人の事じろじろと」

    不審げに訊ねてくる律先輩と目が合う。
    ムギ先輩や唯先輩の言葉が頭に過り、何故か頬が熱くなって私は目を逸らした。

    やっぱり律先輩のこと、よくわからない。
    まったく誰かのことを気遣ってるようには見えないのに。

    197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/18(木) 23:03:08.78
    「梓ちゃんがりっちゃんのこと気にしてたから」

    「き、気にしてたわけじゃないですっ」

    ムギ先輩の言葉を慌てて遮ったとき、車内アナウンスが流れた。
    澪先輩が、はっとしたような顔をすると、「皆!」と立ち上がった。
    駅名を聞いて、私も立ち上がる。

    目的の駅に着いていた。

    電車が止まるとすぐに、澪先輩は出口に向かって歩き出す。
    律先輩は、「そんなに急がなくてもバスの時間までまだまだあるって」と言いながら
    追いかけようとした。
    だけどその前に私たちを振り向いた。

    「忘れ物はないな?あと澪はあんなだけどさ、気にしないでやって」

    言い方はいつもと全く変わらないのに、あんな話を聞いた後じゃこれも律先輩が
    私たちや澪先輩を気遣って言ってくれてるのかなと思ってしまう。
    いや、律先輩にとってはいいことかも知れないけど。
    私にとっては変な感じ。

    215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 17:11:45.53
    「よし、んじゃあ行くぞ」

    私の内心なんて知らない律先輩が、部長らしく号令をかけた丁度その時、
    澪先輩の「みんなー!」という声が重なる。
    何がおかしかったのか、ぷっと唯先輩が噴き出した。

    ――――― ――

    駅から遠い夏フェスの会場までは、バスに乗って向かう。
    バスに乗っても山の中なので小一時間はかかるし、ゆらゆらと揺れるせいで
    車に弱いらしい唯先輩はすっかり酔ってしまった。

    216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 17:23:55.16
    「あずにゃん、私ちょっと寝るね……」

    「さっきも寝たじゃないですか」

    「酔っちゃった……」

    唯先輩はそう言うと、私が座っていた窓際の席に半ば無理矢理入り込んできて
    私は仕方なく通路側の席に座る。
    隣で唯先輩は、ハンカチで顔を覆いながらぐだーっとした体勢で「気持ち悪いー」を
    繰り返す。

    通路を挟んで隣の席では、相変わらず澪先輩が律先輩の肩を揺らして「身体が3つ欲しい!」
    なんて澪先輩らしかぬことを言っている。
    私の前の席では駅で合流したさわ子先生と、ムギ先輩が座っている。特に会話はない。

    隣に居る誰かが黙り込んでしまうとこうも暇になるものなんだということを始めて知った。
    中学校の遠足のとき、嫌いな人と隣になってずっと黙り込んでたこと、反省しなくちゃ。
    肘置きに肘をついて、私は久しぶりの溜息を吐いた。



    217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 17:33:27.82
    結局、バスの中じゃずっと黙り込んだまま(と言っても私も寝てしまったんだけど)、
    会場に着いた。
    まだ早い時間だというのに、そこはもう人でいっぱいだった。

    「律ー、人でいっぱいだあ」

    「うん、そうだな」

    「焼きそば買えるかしら?」

    「ムギ、焼きそばが目的じゃないからな」

    「気持ち悪いー……」

    「ここで吐くなよ、唯」

    一人ずつに適切なのか適切じゃないのかわからない突っ込みや言葉を返しながら、
    律先輩が先頭をきって歩き出す。
    とりあえず人の少ない場所に出ると、私たちは立ち止まった。

    「すごい人でしたね……」

    「づがれだ……」

    218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 17:52:30.29
    人混みの中を歩いて、唯先輩はさらに気分が悪くなってしまったらしく、その場に
    座り込んでしまった。
    これじゃあ始まるまで持たない。

    「ここらで休憩しとくか」

    律先輩もそう思ったらしく、時計を見るとそう言った。
    「それなら今のうちにこの辺り回ってステージ確認してくる」と澪先輩が、元気良く
    走って行ってしまった。

    「元気だなあ、澪は……ってムギも!?」

    「焼きそばがどこで売ってるか確認しに行くのー」

    ムギ先輩が澪先輩を追いかけながら答えた。
    サンダル履いてるけど大丈夫なのかな。
    そういえば、どこに消えたのかさわ子先生の姿も見えない。

    226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 21:16:31.80
    唯先輩は唯先輩でばてて伸びてしまっている。
    ここにいるのは三人だけど、ある意味二人きりと同じようなもの。
    何でかわからないけど、楽しみとは違う意味で緊張してくる。

    「さわちゃんも勝手にどこ行ったんだよもう……」

    律先輩が「まったくー」と言いながら唯先輩の隣に座った。
    そして、そのもう一つの隣をぽんぽんっと叩く。

    「なんですか?」

    「そんなとこに突っ立ってるのも邪魔だしお座り」

    「あ、はい」

    確かにここは一応通路なわけだし。
    私は頷くと、律先輩の隣に腰を下ろした。拳一つ分くらい間を空けて。

    227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 21:22:58.22
    律先輩は、それに気付いたようだけど、何も言わなかった。
    妙な沈黙が訪れる。
    周りは今日の開演を心待ちにしていて浮き足立っているのに、私たちのところだけ
    何だかお通夜みたいな雰囲気になっている。
    唯先輩が苦しそうに唸っているせいでもあると思うけど。

    「……律先輩」

    こんな雰囲気に耐えられずに、何か言おうと口を開くと、律先輩はそれを待っていたかのように
    私のほうに身体の向きを変えると乱暴に私の頭を叩いた。

    「な、なんなんですか急に!」

    「そんな緊張しなくてもいいっつーの」

    228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 21:31:00.12
    頬が暑さとは別に熱くなっていくのを感じた。
    緊張しているのがばれてたなんて。
    しかも、律先輩はおかしそうに笑っている。

    「別に緊張なんて!」

    「はいはい、いいから肩の力抜けって」

    「う……」

    律先輩の手が私の肩に伸びてきて、宥めるように抑えられた。
    それで、自分でも知らないうちに肩に力を入れていたことがわかった。
    それにガチガチに固まってたんだから、ばれるのも当たり前。
    だけど、そうだとしても少し恥ずかしいし、律先輩がわかるなんて、何だか腹が立つ。

    「何拗ねてんだよ?」

    「拗ねてません」

    「今度は肩じゃなくってほっぺに力が入ってるけど?」

    「力っていうか空気で……って拗ねてないです!」

    230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 21:51:57.74
    律先輩は「ふーん」と言いながら、私の膨れた頬を人差し指で突いてきた。
    一気に空気が抜けていく。

    「それじゃあ何でそんな暗い顔してるの?」

    もう膨らんでいない頬を突き続けながら、律先輩が訊ねてきた。
    私は「え?」と律先輩を見る。その拍子に先輩の人差し指の爪が少し食い込んだ。
    律先輩は「悪い悪い」と軽い調子で謝って指を引く。

    「私、暗い顔なんてしてました?」

    「うん、すっごい。楽しくなーい、みたいな雰囲気丸出し。もしかしてバスの中とか
    誰にも話しかけてもらえなかったから寂しかった?」


    231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 21:59:39.95
    そんなことないです、と言おうとしてはっとする。
    律先輩の言う通りだった。
    自分ではそんなつもりなかったけど、確かに今の私はすごく暗い顔をしている
    気がする。

    会場入りしてからも、中々テンションが上らなかった。
    それは、誰にも構ってもらえず、寂しかったからなのかも知れない。

    「図星?」

    「ち、違いますっ」

    一応反論はするけど、律先輩にこうして話してもらえて、さっきまで冷えていたような自分の心が
    温かさを取り戻していくような気がした。

    232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 22:21:54.55
    ――――― ――

    その後のことは、あっという間であまり覚えていなかったりする。
    気が付くと、もうすっかり日は暮れていた。
    澪先輩たちが戻ってきて、唯先輩も復活して、夏フェスが開演して、皆で声を張り上げたりして。
    それからヘドバンしていたさわ子先生が首が痛いからと言って先に寝てしまって。

    気持ちいいくらいの疲労感に包まれた私は、熱い身体を冷やそうとテントの外に
    出た。
    まだ音が聞こえている。

    律先輩のおかげで、緊張や暗い気分が吹っ飛んでしまった私は、夏フェスが始まると
    澪先輩以上にはしゃいでいたんじゃないかと思う。
    それを思い出して、また頬が熱くなった。

    「何してんの?」

    テントから少し離れた場所で夜空を眺めていると、突然後ろから声を掛けられた。

    233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 22:30:54.18
    暗がりの中、よく見えないけど、私の後ろには律先輩が居た。
    律先輩はよっこらしょっと私の隣に腰を下ろす。
    朝、私が空けた拳一つ分の間はなかった。

    だけど、そのことで私が緊張することも、嫌な気分になることもなかった。
    たぶん、今日の律先輩の色々な一面を見たからなのかも知れない。

    「楽しかったな、今日は」

    律先輩は「楽しかったか?」とは聞いて来ない。
    絶対に「楽しかった」ことを前提にしている。
    それも全部、律先輩がちゃんと私を見てくれているからなんだと思う。

    「そうですね、すごく」

    私は頷いた。
    律先輩は意外そうに私を見ると、ぽんっと私の頭に手を置いて乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。


    235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 22:37:20.29
    「なんなんですかもう……」

    「やけに素直な梓を褒めてやったの」

    こんな綺麗な夜空の下だから、たまには素直になろうと思っただけ。
    私は心の中でそんな言い訳をする。

    もう、律先輩に触れられるのが「怖い」なんて感じなくなっていた。
    寧ろ心地いい。
    律先輩は、私の思っていたような人じゃない。
    他の先輩たちよりも接しやすいとさえ感じている自分がいる。

    今でもまだ、少し苦手なところもあるけど。
    だけど……。

    「あずにゃん、りっちゃん、そんなとこで何してるの?」

    「内緒のお話?」

    236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 22:47:36.15
    やっぱり突然、後ろから声を掛けられて私は驚いて振り向いた。
    唯先輩とムギ先輩、それから疲れたような澪先輩が立っている。

    「二人とも勝手にいなくなるなよ、心配しただろ」

    澪先輩はそう言いながら私たちに近付いてくると、私たちより少し前に腰を下ろした。

    「悪い悪い、もう寝てると思ってさ」

    「なんか目が覚めたんだよ」

    「私もー。ね、ムギちゃん!」

    「えぇ!」

    唯先輩とムギ先輩も、澪先輩の両隣に腰を下ろす。
    私は今さっき律先輩に言おうとした言葉をぐっと飲み込んだ。
    その代わり、隣で空を振り仰ぐ律先輩との距離を少しだけ詰めてみる。

    237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 22:59:52.24
    前のほうで、先輩たちが笑っている。
    何かいいなと思った。

    私がその中に入っているわけじゃないのに、軽音部に入って初めて、
    私もこの軽音部の仲間なんだと思えた。

    ふいに遠くの方で大きな音がした。
    花火が上っていた。
    眩しいくらいに輝いている星のすぐ傍で、綺麗な花火が散っていく。

    唯先輩たちは立ち上がって歓声を上げている。
    三人の手は、繋がっていた。

    夜空を見上げていた律先輩が、ふいに私を見て言った。

    「手、繋ごっか」

    240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/19(金) 23:14:07.65
    私はまだ、ちゃんと先輩たちのことを知っていない。
    律先輩のことだって、きっとまだまだ知らないことが沢山ある。
    もっと知りたい。
    もっと心を通じ合わせたい。
    もっと先輩たちと同じ気持ちになってみたい。

    ここで手を繋いでしまったら、私はこの関係のまま踏みとどまってしまう気がした。
    だから今はまだ、と私は思う。
    今はまだ、律先輩と手は繋げない。

    私が首を振ると、律先輩は「梓に振られちゃったよ」と言って笑った。
    私も小さく笑い返す。
    律先輩の手のすぐ傍に、自分の手を置いた。

    いつかこの手が律先輩の手に重なる日が来れば良い。
    私も律先輩と同じ場所に立つことが出来る日が。


    終わり。

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憂「お姉ちゃーん!今日は王様に挨拶しに行く日でしょー?」
唯「もうすぐ、マラソン大会だね」
純「澪先輩を好きな気持ちなら誰にも負けないんだから!」
  1. 名前: Noname ◆- 2010/11/21(日) 08:29:32 URL [ 編集 ]
    りっちゃんはホント知れば知るほど魅力が出てくる子
  2. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/11/21(日) 09:27:42 URL [ 編集 ]
    最初の頃はりっちゃんのこと元気っ子だなーぐらいにしか思ってなかったけど、今は一番深いキャラだと思うようになった。
  3. 名前: けいおん!中毒 ◆- 2010/11/29(月) 20:08:54 URL [ 編集 ]
    私も律先輩と同じ場所に立つことができる日が

    感動した

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