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唯「クーラー」

  1. 名前: 管理人 2010/08/27(金) 21:22:23
    1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:00:32.37

     そしてまた、冷房が動き出す。

     唯がリモコンを静かに置いて、「今日はほんと暑いねえ」と言った。

     さきほどより冷たい人工の風がシャツごしに喉を撫でる。
     寒い、と梓は思う。



    * * *


    2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:05:05.71


    『これからはそうそう一緒にもいられないかもね』



     高校に入って二度目の夏休み。

     きっと今年も楽しい思い出ができるな、なんて呑気に思っていた梓に唯が突き刺した言葉。
     合宿から帰る電車の中でのことだった。

     梓は、向かい合っている唯の顔をまじまじと見た。

     疲れて眠る律は、梓の腰にもたれかかっている。
     澪と紬は、ふたつ離れた座席に二人で座っていた。

    3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:10:34.91

    『みんな、べんきょーしなくちゃだもんね』

     みんな、とはいってもこれは唯の意見なのだと、梓にはわかった。
     さらに言えば、夏休みだとか受験だとかは関係ない。
     ちょうど良い時期なので、そろそろ諦めろということなのだと。


     梓の唯に対する特別な感情は、唯にも伝わっていたと思う。
     もしかしたら唯だけではなく、律や澪、紬にも。

    『なかなかあずにゃんとも会えないや』

     受験勉強のために部活動を控えなければならない、という意味に受け取れるほど、暗い声ではなかった。
     むしろ唯は笑っていた。

     わざとらしさが、わざとらしいくらいに。

    『寂しいね~』

     てへへ、と頭をかく唯に、梓は何も返せなかった。
     喉が詰まって、苦しくて苦しくて目眩がした。

    4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:14:28.86

    * * *


     ここへ来て、10数分が経つ。
     唯の肩が退屈そうに少し揺れている。

     8月半ばの校舎は静かで、ことにこの音楽準備室は、他の教室から離れていることもあって、なんの音も聞こえない。



     長い沈黙を訝しく思われていることを、梓はよくわかっていた。
     これでも二年間、側に居続けた仲なのだ。

     けれど、なぜだろう。今まではなにも考えずに出てきた話題が、ひとつも出てこない。
     こうしてギターの練習と称して呼び出しでもしなければ会う理由もない。

    5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:20:01.92


    「あの、あのですね……」
    「うん?」

     以前は毎日一緒にいても話すことがらは絶えなかった。
     律がいて、澪がいて、紬がいて、色々と話が弾む。それがたとえ二人きりだとしても、状況は変わらないはずだった。
     二人が一緒に居ることに理由も約束もいらなかった。そしてそれはこれからも変わらないのだと、梓はそう思っていた。

     本当に、数週間前の、あの合宿の帰りまでは。

    「二人でいるのも久しぶりだね」

     これ以上待っていても「あのですね」の続きは出てこないと判断したのか、唯がため息をつくように言った。

    「……あ、はい」

     ぎこちなく返事をしてこくんと頷く梓に、唯は少し笑う。
     きっとこんな顔ももうあまり見ることができなくなるのだと思うと変に感傷的な気分になって、梓はごまかすように咳払いした。

    7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:24:11.13

    「あれ、風邪? クーラー止めようか?」
    「いえ、違います、平気です」


     梓の言いたいことは、言えないことなのだ。
     それは唯にもわかっている。だからなにも訊いてこない。

     けれど、こんな時間を過ごすことは不毛だ。
     唯だけではなく、梓にとっても。


    「実はですね、寒いんです」

     ぽつりと呟く。
     「そっか」と呟きリモコンに伸ばされた唯の腕がスローモーションに見えた。

     ああ、掴まなくては。
     たとえ拒まれる未来が見えたとしても。

     唯の手を掴まなくてはいけない。

    8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:29:22.43


    「あずにゃん、違うよ」


     なにがです、と訊く前に涙があふれていて、なにも言うことができない。

    「違ったんだよ」

     手を払われたまま、なぜだか梓は動けなかった。
     涙を流す機能だけに身体のはたらきが集中してしまっているようだ。

    「一緒にいすぎたんだね」

     気軽に抱きついたりしてごめんね。思春期だもんね。あずにゃんは、純粋な子だから。

    「でも、それは違うんだよ。恋じゃない」

    10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:34:27.52



     よしよしと幼い子どもを慰めるように背中を撫でられて、はじめてライブで失敗してしまったときのことを思い出す。

     あのときも、こんなふうに優しく背中を撫でてくれた。
     いつもは頼りない唯の手が、信じられないほど頼もしく、温かかった。

     あのころから好きだった。
     嬉しいことも悲しいことも全てが彼女と一緒で、それが当たり前になっているのだと気づいたとき、自分は彼女のことを好きなのだと実感したのだ。


    「勘違い、しちゃったんだね。私のせい……でもある、よ」

     勘違いでずっと想っていられるものか。そばにいられるものなのだろうか。
     こんな気持ちになんて、なるのだろうか。

    11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:39:30.27

     それでも梓は唯の言うことを黙って聞いていた。
     喪失感でいっぱいになりながらも、言葉はすらすらと身体のなかに入ってくる。

    「けどね、青春はこれからなんだから」
    「はい」

     それだけ言うのが精一杯だった。
     唯は困ったように笑った。




    12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:44:25.84


    「唯先輩はわかっていないです、ぜんぜん、わかってないです」


     唯が去って暗く冷えた音楽準備室に、きぃんと梓の呟きが響く。


     唯のことは尊敬している。
     勉強はできないが、意外にも他人の気持ちを読み取るのが上手く、そういう意味では頭のいい人だと思っている。


     でも、そんな唯にもわからないのだ。
     今の梓の気持ちが、勘違いなのかホンモノなのかなんて。

     そればっかりは、唯は間違っている。完全に間違っている。

    13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:49:14.25


    「はあ」

     ずず、と洟をすする。
     これ以上寒くなんてなるはずがないのに、どんどん寒くなっていくのは何故だろう。冷房のせいだろうか。

    「あ、」

     そういえば唯は冷房が苦手だったはずだと、梓はハッと思い出した。

    「そう、か……」

     息を漏らす。
     ため息よりも嗚咽に近い。



     次に梓が恋をする相手は、男かもしれないし、女かもしれない。
     それでもそのとき思うことはきっと変わらない。

     「ああ、やはりあれは恋だった」と自分は思うのだろうと考えながら、梓はシャツで涙を拭った。
     濡れた部分に風が当たって、やけに冷たかった。





    14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:51:03.23
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    おしまい

    17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:55:03.72
    思ったより短くなってしまったので
    おまけで
    唯たち卒業後のさわ憂書きます

    19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:57:18.15


    “助けてくれ、私はこの女に閉じこめられている”


    その奇妙なメッセージを山中さわ子教諭が発見したのは、授業のない水曜日の二時限目のことだった。
    生徒の提出した課題のノートをチェックしていたら、ふと目についたのだ。

    ノートの持ち主は、3年2組の平沢憂という生徒だ。
    去年までさわ子が顧問をつとめる軽音楽部にいた平沢唯の、妹である。

    さわ子の知るかぎりの憂は、真面目で成績も良く、高校生ながら家事も完璧にこなす、優等生といえるべき生徒だった。

    この課題ノートだって、女の子らしい少し丸い文字が様々な色のペンで彩られていたり、時々可愛らしい動物の絵の落書きがあったりと、
    他の生徒のものとそう変わりはない。

    少し変わったところがあるとすれば、さわ子が授業中に言ったのであろう言葉や、はたまた彼女の挙動が、かなり詳しく書かれていることくらいだ。
    そのため、憂のノートは他の生徒の倍以上ページが進んでいた。

    21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:01:37.25

    しかしそれは単に勉強熱心で真面目な性格ゆえなのだろうとさわ子は思っていた。
    自分の言動を書き残しておくことに意味があるのかはわからないが、一生懸命でいい生徒だと。


    しかしこの一文は、明らかに異質だった。

    第一に、いつもの憂の筆跡と全然違う。流れるような憂の文字とは反対に、力強くカクカクとした文字が紙に刺さるように書かれている。
    それに、どうやら相当濃い鉛筆で書かれたようで、周りの白い部分を汚して文字が滲んでいた。

    隣の席の生徒か誰かがイタズラ書きでもしたのかもしれないとも思ったが、ふつう提出する前に本人が気づくだろうし、
    なにより書かれいている内容の、意味がわからない。

    そこでさわ子は、返事を書いてみることにした。


    “君は誰? この女というのは憂ちゃん?”



    22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:05:57.31


    次の3年2組の授業のとき、さわ子は教科書を読みながら、さりげなく憂のいる列の脇を通ってノートを覗いてみた。

    するとなんと、さわ子の返事の下に、新しいメッセージが書かれているではないか。



    “私は私だ、女はこのノートの持ち主だ、早く助けてくれ”



    その授業の終わりに、本当は出す予定ではなかった課題を出してみた。
    憂のノートに早く返事が書きたかった。

    23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:10:22.91

    “助けてくれって、君はどこにいるの。憂ちゃんはなぜ君を閉じこめるの?”

    “なぜって、私の存在に気がついていないからさ、私はこの女の中にいる”


    一体どういう意味だろう。なにが言いたいのだろう。
    そもそも憂はどういうつもりでこんなことをしているのだろう。


    「さわ子先生ー?」
    「どうしたんですかぁ」

    生徒たちに怪訝な顔で声をかけられ、さわ子は今が授業中であることを思い出した。

    「ごめんなさい、じゃあ、ここもう一度……」

    再びさりげなく覗いた憂のノートに書かれていたメッセージ。

    こんなに何度も落書きされたら、さすがに気づかないはずはない。
    なにより自分の悪口に近いことが書かれているのだ、それを放置している憂は絶対にこのメッセージに気づいている。

    しかし、授業中にさしても、廊下で会っても、憂はいたってふつうの反応しかしなかったし、そんな憂をさわ子が不思議に思って見つめていも、首を傾げて笑うだけだった。

    24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:15:25.74

    “中ってなに? まさか、にんしん、”


    書きかけてさわ子は手を止めた。
    それに気づいてほしくて憂がさわ子にメッセージを送っている?
    まさか。

    自分は出産経験もないし、既婚者でもないので、その手のことにそう詳しくはない。
    そんな重大なことを相談されるほどの間柄ではない。

    それはない、と思って、さわ子は【にんしん】の文字にバッテンをした。


    “中ってなに? まさか、二重人格とか”

    “……。妊娠などありえない!
    二重人格……そういう言い方もあるかもしれない”


    ありえない、の部分がいつもよりいっそう強く濃く書かれていたのを見て、さわ子は小さく吹き出した。

    なんにせよ、安心した。
    そんなことを打ち明けられても、さわ子には対処のしようがない。力になってやりたいとは思っても、役不足だ。

    25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:19:27.59

    今日の授業でも憂の様子を注意深く見守っていたが、これといっておかしなところはなかった。
    ただいつものように、真面目な顔をしてノートを黙々ととったり、時々近くの席の生徒と小声で談笑するだけだ。


    “二重人格ねえ……私はそういうことに詳しくはないんだけど、具体的にどうすればいい?”

    “私にもわからない、この女が心を開かないことには”

    “心を開くというのは、君に対して? 憂ちゃんが君に対して心を開けばいいの?”

    “いや、あんたに対してだ”




    26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:22:14.98



    「平沢さん、ちょっといいかしら」

    授業が終わってから、さわ子は憂を呼び出した。

    さっきが4時限目だったので、今は昼休みだ。
    長くなったら悪いかなと思ったが、憂は弁当持参でついてきた。


    「食べながらでもいいわよ」
    「あ……はい。でも先生は」
    「私は大丈夫」


    生徒指導室は薄暗かった。
    蛍光灯をつけるかどうか迷ったが、とりあえずさわ子はそのままにして椅子に座った。

    27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:26:33.38

    向かい合って弁当の包みをそろそろと開く憂は、やはりごくふつうの女子生徒に見えた。

    「やっぱり自分で作っているの?」
    「はい」
    「そっか、偉いわねー」
    「い、いえ」

    口数が少なく、表情もどこか不安そうだ。
    なぜ呼び出されたのかわからない、ということはないだろうが、生徒指導室という場所が生徒を萎縮させるのか。


    「あの、ノートのことだけど」
    「……はい」
    「一生懸命考えたんだけど、どうしてもわからないの」
    「……」
    「私は、どうしたらいい? 憂ちゃんの心を開くにはどうしたらいのか、わからない」

    28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:29:15.90

    憂がさわ子になにか伝えたいことがあるのだろうということはわかる。
    それをあんな遠回しな方法で仕掛けてくるのは、直接口で言うのではなく、察してほしいからなのだろう。

    憂は思ったことをすぐ口にする姉とは違って、よく考えてから適切な言葉を選んで言うタイプだとさわ子は感じている。
    唯たちが卒業し、梓一人になったけいおん部のサポートによく来る憂を見て、そう思った。
    よくできる子だが、だからこそ本音を漏らすことに慣れていないのかもしれない。

    だからさわ子も考えた。
    ノートのメッセージを何度も見返したり、憂のことを他の生徒以上に気にかけてみたり。

    直接訊いたのでは意味はないのかもしれない。
    憂に失望されてしまって、それこそ心を閉ざしてしまうかもしれない。

    それでもさわ子は訊きたかった。
    憂なにを考えているのか、さわ子になにを伝えたいのか。

    29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:32:52.50

    「相手の心を開かせるにはな、まず自分が相手を好きになるんだ」
    「え?」
    「あんたに、こいつのことを好きになってもらう。それが私の役割だ」

    今までか細い声で返事しかしなかった憂が、突然はっきりと喋った。
    それにいつもの口調ではない。

    自分のこと、“こいつ”と言った。

    「だからこいつを……私を好きになって」


    後半は、いつもの憂だった。
    さわ子は一瞬ほんとうに二重人格なのかと思って目を見開いたが、憂が首を横に振ったので、違うのだとわかった。


    「すみません」
    「え、」
    「変なことして、すみません」

    30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:36:08.87

    完全に開き直った様子で、憂は頭を下げた。

    「じゃ、じゃあ、大丈夫なのね?」
    「ええ、全然なにもかも大丈夫です。心配することはひとつもありません」
    「二重人格とか、“閉じこめられてる”とかは……」
    「ほんとすみません、私が書いたんです。筆跡も変えて」

    すみません、と憂はもう一度謝った。

    「しかし本当、どうしてあんな……」
    「それも、さっき言ったとおりです。意味なかったですけど」
    「さっき?」
    「私を、」

    好きになって。


    ささやくような声は、切なさを含んでいた。
    俯いた顔は、諦めたような、苦しいような、そんな表情をしていた。

    32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:40:01.94

    さわ子に、平沢憂を好きになってほしかった。そのためにこんなことをした。

    なんて遠回りだろう。でも、案外思春期の女の子のアプローチなんてそんなものかもしれない。
    しかし、今のさわ子には、わからない。歳を取ってしまったのかもしれない。


    けれど、

    意味がなかったと憂は言った。だが、はたして本当にそうなのか?


    さわ子は膝に置いていた拳をぎゅっと握った。


    「最近、私が2組でなんて言われてるか知ってる?」

    33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:44:42.44

    「え?」
    「課題、魔よ。授業のあと、毎回課題を出すって」
    「あ……そういえば」
    「本当なら音楽の課題なんて、一学期に一度あるかないかでしょ?
     しかも2組だけだってことがバレたらしくて、学年主任の先生に叱られたの」
    「……」

    「はじめはただ気になっただけだった。生徒の悩みを解決したい、なんて。でも、なんだろう。いつの間にか……」

    なんだろう、この気持ちは。


    ――少しでも気にかけてほしいだけだった。ちょっとしたいたずらのつもりだった。でも反応してくれたから嬉しくて。


    小さな声で打ち明ける憂に、さわ子も自分の気持ちを素直に話した。


    ――メッセージについて考えながら、いつも見ていた。
    最初は意味を説き明かすための観察だったのが、見ること自体が楽しくなっていた。自然に目が追っていた。
    友達の前で笑っているのを見て、なぜ自分の前ではああじゃないのだろうと考えて、変な気持ちになった。
    メッセージの意味がわかれば、あの笑顔を向けてくれるのか、なんて考えた。
    どんどん、目的が変わっていった。

    35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:50:24.06

    全部話してから、たとえ本心であろうと、生徒相手に言うべきことではなかったとさわ子は少し後悔した。

    憂だって、打ち明けられても困るかもしれない。
    自分の気持ちはちょっとしたあこがれのような片思いであって、そんなつもりじゃなかったと言われるかもしれない。


    しかし憂は、信じられないような夢見心地の瞳をしながらさわ子に言ったのだ。


    「私、幸せすぎて、ああ、死んでもいいです」
    「えっ?」
    「ど、どうしよう本当に死んじゃいそうです」
    「い、いや、死なないで!」


    だって、生まれて初めての恋で、それも絶対無理だと思っていた恋で、両思いになれたから。


    そう言いながら、憂は笑った。
    いつも遠くからこっそり見ていた笑顔よりも、ずっとずっと可愛いと、さわ子は思った。

    36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:52:20.13
    /: : : //: : : : : : /: : :/: : : :/: : : : : : 、: : : : : '、
    . !: : :/ 〈/: : : : : : / /: : : : : /: : : : : :/!,: :',: : : : : :ヘ
     |: : :ヘ__,': : : : : : /!/: : : : : /: :/: /: :/ |V: }: : : : : : ヘ
     |:/: : :/! : : : : : : : !: : : : : : //_∠!:/ .| V:}',: : : : : : ::}
    ../イ : / ,{ : : : : : : : |: : : : : /イ / l l  l V!`、: : : : :l !
      l: :Lハ: : : : : _:_:|: !: : :l/ /'   lリ   ! ,l|  }: : : : lリ
      {:/ ̄.V: : / 、`! l : : |     -     _  ハ: : !: :}
      l'     `<:l. ヽV\ l  z≠ミ    z=ミ .:: : /! /
              \-、  ヽ ´ ,,,,      ,,, /:/ l/
               ヽ+、         、  .}"
              r―--! ヽ      、 _    /
              {  ヘノ   >        /
           /   \     ` ァ-_ - ´
       / ̄ `\    ≧、  /   ̄ヽ‐- 、
      /.       \     ヘ/¨\    !  ヽ
    おしまい

    39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:55:52.18
    尻切れトンボや需要のないもの書いてすみませんでした
    さわ憂はアミダで決めたが無理あった

    読んでくれた人ありがとうございました

    42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:58:53.92
    意外と人いるのだろうか

    もしそうならスレもったいないし
    安価でCP(か登場人物)とテーマ的なもの決めてなんか書きたい

    45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:08:34.93
    んじゃ
    >>48CP
    >>52テーマ


    53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:16:05.00
    ご協力ありがとうでした
    じゃあ唯澪プールで書きます
    妄想タイムが終わったら始めます

    55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:33:30.23

    夏休みも半ば。


    今年の夏はどうにも暑い。

    澪の自室にはクーラーがない。扇風機だけではどうしようもならない熱気に思わず項垂れる。
    しかし塾の課題をやっつけなくてはいけない。そしてそれが終わったらオープンキャンパスへ行く準備。

    澪「あー……図書館にでも行こうかな」

    なんて、独り言を漏らしたとき、携帯電話が鳴った。

    『ふわふわターアイム!』

    唯からのメールだ。

    澪は送信者ごとに音楽と着信画像を分けている。画像は、基本的にその人の顔写真。
    音楽は、その人のイメージに合ったものや、その人自身の演奏曲など色々だが、唯の場合は彼女の歌っているふわふわタイムだ。

    56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:39:37.89

    澪「いーなあ」

    唯の可愛らしいポップな歌声が茹だった部屋に鳴り響く。

    澪の歌は部内でも学内でも評判だ。
    ファンクラブの会員からは「そこらの歌手なんかよりよっぽど上手いです」なんておだてられることもある。

    だが、作詞者の澪としては、唯の声は理想だ。
    澪の考える世界観に、ぴったりと当てはまる甘やかな声。

    特に、澪は唯の歌う『ふわふわ時間』が好きだった。

    澪「と、聞いてる場合じゃないか」

    パカ、と携帯電話を開くと、派手なデコレーションメールで(最近はまっているらしい)、


    “プールに行こうよ!”


    とあった。

    57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:47:04.85

    唯「つくつくほーし、つくつくほぉーし」
    澪「ははは」

    クリアーピンクのビニールバッグを振り回しながら虫の声を真似る唯に、澪は笑った。

    唯「虫さんもリズム刻むんだねぇ」
    澪「いや、ただ……」

    ただなんとなく鳴いているだけだろ、と言いかけて、澪は口を噤んだ。

    澪「うん、そう思ったほうが楽しいのかもな」
    唯「うん!」


    澪は唯のメールに対して、

    “みんなは行けるって?”

    と返信した。すると、

    “ダメだよ!!!”

    という返事がものすごい早さで来た挙げ句、畳み掛けるように「みんなにはナイショだから!」と電話が来て、
    一体何事かと思ったのだが。

    58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:54:00.45

    唯「行けば天国なんだけど、行くまでは地獄だねー」

    そこまで遠くはないからと、徒歩で来たのは間違いだったのかもしれない。
    もうすぐ着くはずの市民プールが遠く遠く思える。

    澪「ホラ唯、帽子」
    唯「ふえ?」

    頭のふんわりとした感触に、唯は腑抜けた声を上げた。

    澪「なんで傘か帽子を持ってこないんだよ」
    唯「急いでて……。でも澪ちゃん、これ」
    澪「私は平気だから。折りたたみの日傘も持ってるし」

    ほら、とバッグから傘を見せる澪に、唯は目を輝かせた。

    唯「さっすが澪ちゃん! けいおん部イチのしっかり者!」


    59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:01:01.53

    唯の言葉に、澪は首を傾げた。

    澪「そう、かな」
    唯「うん、そうだよ!」

    唯は自信たっぷりに頷く。

    唯「りっちゃんはりっちゃんだし、ムギちゃんはちゃんとしてるけどぽわぽわさんだし、あずにゃんは後輩だもん」
    澪「とんだ消去法だな」
    唯「いやいやいや、でも憂や和ちゃんと同じくらい、澪ちゃんは頼りになるよぉ~」
    澪「その二人と並べられると、なんか逆に恐れ多いな」

    そうこうしているうちに、目的地であるプールが見えてくる。

    けいおん部として二年半一緒には過ごしたけれど、唯と二人きりになることは今まであまりなかった。
    律は幼なじみだし、梓とは意見の一致が多い。勉強の相談などでは紬。

    最初はどうなることかと思ったが、意外と唯と自分は相性が良いのかもしれない。
    そんなことを思いながら、澪は市民プールの門をくぐった。

    62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:10:15.81

    唯「う~」
    澪「な、なんだよ」
    唯「だ、だって~……ズルいよ!」

    ビシ、と胸を指さされて、澪はかぁっと頬を染めた。

    唯「最近憂もすごいんだよ~なんだか置いてきぼりなんだよ」
    澪「べ、別に唯だって小さくないだろ?」
    唯「どうかな。でも、ビキニ着ると、あるほうがかっこいーんだもん」

    そう言う唯だって、ミルキーオレンジのフリル付きのセパレートが十分似合っていて可愛らしい。
    むしろ、もういう水着は唯くらいの体型でないと浮いてしまう。

    澪「私なんかいつも暗い色ばっかだし……」
    唯「大人っぽいし似合ってるもん」
    澪「ていうか、むしろ私は唯の体質が羨ましいよ」

    食べても太らないなんて、生まれつきのチート機能だ。

    唯「胸は太ってもいいのになあ」

    63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:16:49.35

    唯「まあ、悩んでいても仕方ないよね! 目の前には大海原が広がってるんだし!」
    澪「プールだって」
    唯「さあ、いざ行かん澪隊員!」
    澪「私も隊員の仲間入りかよっ! ていうか走るなー!」

    ぱたぱたと浮き輪を揺らして走る唯と、子供用のプールにいる幼児たちが同じくらいの歳に見える。

    唯「流れる~プール~らんらん」
    澪「って、逆流すんな!」

    ぱしっと唯の頭を叩く。

    澪「あ、」

    つい、律にやるのと同じようなつもりでやってしまった。

    澪「唯……」
    唯「うおー、澪ちゃんのツッコミ一丁入りましたァ!」
    澪「テンション高いな」

    遠慮も杞憂だった。

    65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:23:04.57

    唯「あー快適だねー」
    澪「ラクだなー」

    今度こそは正しい流れに乗って、浮き輪に支えられながらゆったりと水の中を進んでいく。
    ギラギラの日差しは痛いが、下からの心地よい冷たさがそれを中和する。

    唯「理由訊かない、の?」
    澪「へ?」
    唯「澪ちゃんだけ呼んだ、さー」

    気持ちよさそうにふにゃふにゃと笑いながら尋ねる唯に、澪は立ち止まった。

    唯「あわわ、後ろから人来ちゃうよー」
    澪「あ、うん、つい」
    唯「あれだね、いっそ乗っかっちゃおうか!」
    澪「え?」
    唯「ああいうふうに!」

    唯の指さした先には、おしりをすっぽりと浮き輪の穴に入れ、脚を投げ出して波に揺れる子どもたちがいた。

    66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:28:47.92

    澪「でも、ちょっとこわいな」
    唯「みんなやってるよ、大丈夫だよ」
    澪「でもひっくり返ったら……」
    唯「助けるよー」

    へらっと笑う唯に、澪は、思わず澪を助けようとして自分もひっくり返る唯を想像した。

    唯「ああっ、なんか信用してないね? むむーそれじゃ、」

    唯は少し考えた後、いやに真剣な顔をして言った。

    唯「実はこのプールの中にはゆうれいがいるんだよ……足を引っ張ってくるんだよ」
    澪「ええっ!?」
    唯「だから浮き輪に乗っかってない人はゆうれいに狙われちゃうんだよ~こわいよ~」
    澪「ひぃぃっ」

    思わずプールから上がろうとした澪を、唯は止めた。

    唯「だから、乗っかってれば大丈夫なんだよっ! ね!」

    68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:38:40.90

    仕方なく、澪は浮き輪に乗った。
    意外にも安定感があり、倒れても大したことはなさそうだった。

    澪「おー自然に流れてるかんじがするなー」
    唯「でしょでしょ、んでね、さっきの続きだけどね」

    澪だけ呼んだ理由について、だ。

    それについては澪も気になっていた。
    他の部員がつかまらなかったからではなく、わざわざ二人きりにした理由。

    なにか特別な相談でもあるのかと思ったが、それも澪にする理由はわからない。
    でもきっとなにかがあるのだ、なにかが。

    思わず澪は身構えた。

    唯「あのね、前にりっちゃんとムギちゃんが二人で出かけたからなんだー」
    澪「え?」
    唯「それで、ズルイなーって思って」

    69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:46:18.45

    思わず拍子抜けした。

    唯「あずにゃんはあずにゃんで憂と純ちゃんと仲良しさんしてるし。だから私も澪ちゃんともっと仲良しになるんだ!」
    澪「あ、そ、そうなんだ……」

    なんともくだらない理由、といってはなんだが、澪の想像していたようなものとは全く違った。

    しかし澪は思い出す。

    以前、律と紬が二人だけで遊んだときに感じた気持ち。
    二人のどちらにでもなく、嫉妬のような、悔しいような、おかしな気持ちになった。

    それを唯は「ズルイ」と表現した。
    確かに、的確だ。

    澪「そうだな、そうしよう」
    唯「うん、だからたくさん遊ぼうー!」

    ほっぽり出しの課題は気になるけれど、今は大海原の中だ。小さいことは気にしない。
    手で水をかいて器用に回転する唯に、澪は笑った。

    70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:54:40.99

    唯「澪ちゃんはかわいいねー」
    澪「え?」
    唯「ゆうれいにびっくりしててもかわいいけど、笑ってるともっとかわいいよー」

    意外な言葉に、澪は怪訝な表情をした。

    澪「かわいいんだったら、唯とか梓だろ」
    唯「えー?」
    澪「私は、小さくもないし、言葉もキツいし、」

    唯が「えー」と言って首を傾げる。それがなんだかもやもやする。

    澪「ぼ、暴力的だって律も言うし、重低音担当だし」
    唯「それは違うよ!」

    言葉を遮られ、澪は唯のほうを見る。真剣な瞳が太陽にあてられてきらきらと輝いている。

    唯「いけないことしたらみんなを注意したりして、しっかりしてるけど、ベースもうまいけど、
      でもそれってみんなのためだから、だからそんな澪ちゃんはかわいいんだよ!」

    唯の言葉はめちゃくちゃだ。
    しかし、言わんとしていることがなんとなくわかったので、澪は「そうかな」と呟いた。

    71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 14:02:52.97

    唯「そうだよ」

    お得意の「フンス」のポーズで唯が頷く。

    澪「唯が言うならそうかもな」
    唯「うん!」



    それからひとしきり流れるプールをぐるぐる回ったあと、ビーチバレーをしたり、子供用にプールに唯が突撃したりして、
    二人は十分プールを堪能した。
    体力も尽きて帰ろうとする頃には、人もまばらになり、『七つの子』の音楽が閉館時間を伝えた。


    唯「ふー遊んだねえ」
    澪「うん、久々だよ、こんなに遊んだの」

    けいおん部恒例の合宿などはあったが、今年は受験勉強もあっていつもよりも家で過ごすことが多かった。
    日が暮れるまで遊ぶことなんてめったにない。

    72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 14:11:10.10

    唯「からすと一緒にかえりましょー、っと。あ、そうだ、澪ちゃんちまで送るよ」
    澪「え?」
    唯「もう薄暗いし、誘ったの私だから」
    澪「い、いいよ! そんなの悪いし! それに私もかなり楽しんだし」
    唯「でもでも」
    澪「むしろ、私のほうが楽しんだよ。なんだろな、唯といると楽しいな」

    しみじみと呟いてから、澪はハッとした。少し恥ずかしいことを言ったかもしれない。
    唯の素直さに感化されたのだろうか。

    唯「私も楽しいよ! だから……」
    澪「あ、あれって憂ちゃんたちじゃないか?」

    澪が指さした先には、憂と憂の友達らしき女の子二人が更衣室のほうへ向かっていく姿があった。

    唯「あ、あれ? そうかな、人違いじゃないかなー」
    澪「いや、あれは憂ちゃんだよ。憂ちゃーん」

    澪が手を振ると、女の子が振り返った。
    たしかにそれは憂だった。

    73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 14:17:42.19

    憂「こんにちは澪さん」
    純「こ、こんにちは」

    憂と、憂の後ろに隠れた純がぺこりとお辞儀をした。

    澪「憂ちゃんも来てたんだな。全然気がつかなかったよ」
    唯「そうだねー」

    頷く唯に、憂は目をぱちくりさせる。

    憂「あれ、おねえちゃん流れるプールですれ違ったよね?」
    澪「え?」
    憂「なんか、シッシッとかされたけど……」
    唯「!」
    澪「え? 唯?」

    澪が驚いて唯を見ると、唯は口を尖らせた。

    唯「むうう~、憂ってば気が利かないんだから~。いや、気は利くけど……たいぶ……でも今は利かないんだから」

    74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 14:26:13.83

    ぷりぷり怒る唯に、憂が苦笑いした。

    憂「なんかわかんないけど……ごめんね、おねえちゃん」
    唯「むむむむー、まあいいよ!」

    憂が謝る必要はなさそうだが、と澪は思ったが、何も言わなかった、

    憂「じゃあ、一緒に帰れるね」
    唯「あ、でもそれは……」
    憂「澪さんはたしか純ちゃんの家と同じ方向だから、二人ずつで安心だね!」
    唯「うう~! うーいぃー」



    別れ際、唯に「次は負けないよ!」と宣戦布告されていた純が混乱していたが、憂は何も言わずにこにこ笑っていたので
    帰り道で澪がフォローするはめになったが、とにかく楽しい一日だった。





    唯「澪ちゃん、また二人だけで遊ぼうね!」

    75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 14:28:17.72
       ,′  .'    ノ   ノ               ___    /
       廴 ___‘ー‐ ´__ 彡'            ,. イ´ .:..    ミ:/
          く_ノ ...._つ             / .: :. :..丶:. . {:.  ヽ  
           `_つ..`¨.フ. .---- . .        / ./ :|:i.. {:.:..:. .ヽ .:.ヽ:. ..:.:〉    お
            (__:::::/ . : : : : : : : : : :ミ: 、  .′ .: .:| :..:.ヽ:. :.:.::i ..:..:V:..(  
      r 、      / . : : : :.{ : : : : : : : : : : ヽ. | .:!.:.:.::ハ: :..::イ、..:.:| } ..:.∨.:)    し
     , 、)ノ ◎  ′: : : /:.ム{-ミ:、: : 斗-:、ヽ '.!..:| ..:.├N_.:斗_≦イ ..:.i.:|:〈  
    ({ _))ヽ>  i . : : : :ド:{ lバト:ト、: ト: :|: l: :|イ:L≦__  'イぅ:::}j:/.::|.:{ミi    ま
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